第2話 アイドル先輩の忘れもの

 一週間前を思い出す。


 寒々しい朝。

 学校を目指して登校していると道中になにか落ちていた。


 あれは……スマホだ。


 保護ケースもなく、シンプルに本体だけが落ちていた。誰か落としたのだろうか。


 電源を入れてみると、もちろんロックが掛かっていた。顔認証だからセキュリティの突破は不可能だ。


 持ち主は……お!


 幸いにもロック画面に顔写真があった。

 制服女子が二人が映っている。


 片方は有名アイドルの白石しらいし に似ていた。ウチの学校にアイドルがいると有名だから知っていた。

 もうひとりは大人しそうな女の子。後輩かな?


 てか、このスマホってまさか、白石 古都音の!?


 いや、まさかな。

 こっちの後輩ちゃん(仮)かもしれないし。


 どちらにせよ、白石 古都音に届けるべきだと俺は判断した。



 学校に到着後、偶然にも昇降口で白石さんを発見した。さすがアイドル。オーラが半端ないというか、周囲に人だかりができていた。


 あの中をぼっちの俺が突っ込まなきゃならんのか。……うぇ、だりぃ。


 けど、本人は困っているようだし、助けてやらないとな。



「あ、あの……」



 勇気を振り絞って白石さんに話しかけた。



「……はい?」



 白石さんは困惑した表情で顔を青くしていた。

 俺はそっとスマホを彼女に差し出す。


「落ちていたよ。君か友達のでしょ。はい、どうぞ」

「あ、ありがとうございます!! これ、わたしのなんです!」

「やっぱりか~。見つかって良かったね……」

「はいっ! 本当にありがとう」


 天使のような笑みを向けられ、俺は人生で初めて恋に落ちた。……これがアイドルの微笑み。なるほど、ファンになるヤツの気持ちが分かる。


 しかも握手までされ、感謝され……もう心臓がヤバかった。


 しかも周囲からの視線が凄いことになっていた。


 マテマテ。


 いつの間にか三十人くらいいるぞ!!

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