えせ願掛け

 去年の卒業式の精算がなんでか終わってない件のLINE、送信、誤字、取り消し、再送信。低速。セーラー服に引っかかって割れた画面でいまだフリック入力をがんばる人差し指。中学のとき流行ったもう聞けない失恋ソングが入れっぱなしのプレイリスト。いちいち宙に浮かぶ会話にすき間を見つけて鼻をすすった。世界を嫌いなほうが人間的だと聞いた

 スニーカーを脱ぐときは足首のミサンガもこっそり一緒にひっぱる。涙と笑いがおさまった次の瞬間からどうやっていなくなるか考えている。財布とスマホだけポケットに入れる仮家出の装備で本屋に向かって蛍光灯の眩しさに逃げ出した。血が通わなくなったみたいな足先に嫌いなもの押し込めて、冷たい。死ねるらしいって確かめる


自由な人たちの優しくし合いを、飲み込めないわけではなくて、胃から出したり、しまったりしてる


 赤色の定期入れの更新期限を背景に三つ編み、ほどき、やり直し。さいの目にカットされた通学路と体育館の下駄箱と正門横の桜の木は誰にも気づかれずにモザイクになって、無駄なデータ量は音もなく削り落とされて光速のなかではじけ、合わさるなめらかな日々。無音だった。書類のふちが揃う。散らばっていた靴が並ぶ。思いを馳せる時間が明確になる。紙一枚分の記憶が、控えめに消えていく


 そういう風が吹いたと、決めた。

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