ヤマモモの実

ヤマモモの実だと思った。世界でいちばん愛らしい色をしていた。


辿り着かないものを理想と呼ぶらしい、永遠のと名前をつけることはそれが嘘であることを飲み込むことなのに

私が私になったその瞬間が腐らないよう冷蔵庫にいれたかったけど、室温より冷たい場所は寂しいと、言う君の頬には血が通っていた

いつまでもそのままでいて。いたい。


ラズベリーのピンクみはアイシャドウの青、いわゆる垢抜けってやつだ、痣と静脈の強くてお洒落な

同じ味を持っているのに少しも媚びないでいて、他人を虜にする術を知らない、誰かからしたらとんでもなく不器用なのかもしれないけど

絡んでくるもの全部取っ払って私が選んだものだけここにいてよ


易々と殻を捨てて勝手に夏追いかけ始めるところだって君が君でいる証だ

ヤマモモの実、君みたいにいられたらいいのにって


裸足でアスファルトを駆けた七月

べたべたして苦手だった日焼け止め

鏡を覗いたのは揺れたものを美しいと思ったからだったはずだ

それが摂理だっていうのが唯一の救いで、だから、ここに抱えている吐き気は何の意味も成さないのだった


まだ嘘をつくことは下手だから。見向きされないことだって誇りにできてしまう、でも容れ物に愛着は湧かなかった

どうしたって直線が好きなのに、青緑の湖面に映る線は柔らかな弧を描いていたから飛び込んだ、小さな泡がきらきらしてた、丸いものだって好きって言えてた気がするのにね

砂利の上を転がっても君は君でいられるのだった


スニーカーが地面に擦り込んでも新作からはほど遠いその赤を発色していて、血が薄くなった場所に塗って呼吸を止めることはしないから、散らばった君を集めて固めたパレットを持ち歩くこと、それだけ黙認してくれたら嬉しく思います

思い出の登場人物になれなくなってもそれを君の役目だと思ったことは一度もないよ


わざとらしいってわかりながら、ポケットにいれてみた、つもりだったのに、気づいたら放り投げていたから目を瞑ってしまった。きつく、きつく、


ヤマモモの実、


そこにいて、ずっと

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