第34話 カメラ設置の本音
5月も半ばになると中高生には厄介なイベントが待っている。
そう中間考査、つまりは中間テストだ。
「天翔くんでも特別扱いはしないからね」
天翔は事前に美月からこう言われているので気にはしない。特別扱いなどして欲しいと思った事も無い。
寧ろ厄介事は他に有った。定期テストの1週間前から部活動が停止となるので部室は閉められる。その為、演劇部員が部室から私物を持ち出した時だった。
「蒼井君、判らない所は教えて上げるからね」
天翔は突然の耳元の声に背筋を凍らせた。
演劇部の部長の宇都美が気が付くと背後から擦り寄って来ていた。背筋をゾッとさせながら天翔が振り向くと、雌豹の様な宇都美の顔の向こう側に見てはいけない顔を見てしまった。
「うーつーみーさーんっ」
天翔の背筋が凍らせた原因としては宇都美の急襲は1割程度しかなく、残りは美月による物だ。
「御神本先生、何でしょう?」
「顧問なので過度な接触への注意は当然です。宇都美さん、貴女こそ何なのですか?」
美月の声がいつになく荒い。まるで威嚇をしているかの様だ。
「部長として後輩に勉強を教えて赤点を回避させる。当然じゃないですか」
宇都美はどこか余裕の有る不敵な笑みを浮かべながら答える。ムキになる美月とは対照的で、どちらが教師で生徒なのか判らない位だ。
この睨み合い、間に挟まれた天翔としては勘弁してもらいたい物だが、意外な救世主が現れる。
「先輩!」
明るい声の主は演劇部の新入部員、1年生の結城美浦だった。入部以来、「先輩、先輩」と何かに付けて天翔に絡んで来ている。
「蒼井先輩、宇都美先輩もそう言っていますから、私のテスト勉強を助けて下さい!」
結城はそう叫ぶ様に言い放つとツインテールを振りながら天翔の腕にしがみ付いて来た。
「「結城!」さん!」
天翔が反応するよりも早く、美月と宇都美が同時に叫ぶが宇都美の方は呼び捨てだ。
「結城、テスト勉強は自分でしなさい!」
「えっ?」
結城にそう言い放った宇都美に美月と天翔は唖然として釘付けになる。
「困難は自分で乗り越えないと力にならないのよ!」
『どの口が言ってるのかしら?』
流石の美月も呆れ顔になってしまった。そんな美月に天翔が囁く。
「取り敢えず着地点を探そう」
「そうね」
美月は宇都美と結城を見比べて考えた。そして1つの結論に至った。
「それじゃこうします。演劇部の全員で自由参加の勉強会とします」
この美月の決定に演劇部員は納得したのか、一様に頷く。それを見て美月は更に付け加える。
「ただし、受験を控える3年生は参加禁止。自分の勉強に集中して下さい!」
してやったりの美月と歯軋りする宇都美。女の怖さを感じた天翔であった。
◯▲△
「その演劇部の勉強会、自由参加でしたら自重して頂けないでしょうか?」
天翔は大体の事は玲子に報告、連絡、相談、つまり報連相をしている。
一般的にそれは部下が上司にする事だ。しかし天翔は玲子に対してはそれを怠らない。
CEO代行としてのスケジュールを管理している秘書と情報の共有をしなければ会社のトップとして立ち行かなくなるからだ。
「そんなに仕事が溜まってましたっけ?」
「はい。それに明後日には米国のマスカラス氏とのリモートでの商談が有ります」
「そうでした。彼も忙しいですからこの機会を逃す訳にはいきませんね」
「ありがとうございます。中間テスト対策はこちらでサポートさせて頂きます」
「サポートって?」
ここで玲子は不敵に口角を上げる。
「教室内に設置した防犯カメラから各教科の授業内容をAIが分析します。過去の問題は勿論、教師の性格や声のトーンを徹底的に分析して予想問題を作成します。これで試験勉強に割く時間は大幅に縮小出来るかと」
「防犯カメラの映像と音声で予想問題を作る? それってまさか玲子さん、防犯カメラの設置理由は…」
「はい。試験勉強の時間を削減して仕事の時間を作って頂く為です!」
玲子は堂々と前を向いて言い切った。
「その為の防犯カメラ?」
「はい」
「イジメ防止は?」
「副産物ですね」
この防犯カメラが設置される学校には本当にイジメで悩んでいる生徒も居るだろう。天翔は彼らに謝りたい気持ちになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます