第33話 カメラ設置の建前

「それで途上国に井戸を掘るNPO法人に寄付金ですか?」


「ええ。幾らするんだかは知りませんけれど。出来れば親父を名前だけのメンバーにしてくれるNPO法人が理想です」


 咄嗟についた嘘を嘘でなくす為に都合の良い事を秘書に依頼する天翔ではあるが、言われた方の玲子は特に慌てる事も無く淡々と職務を熟す。


「畏まりました。企業による社会貢献の一環として処理します」


 企業や成功者による社会貢献は様々だ。よく知られている例としては、図書館やコンサートホールを設立して文化の普及に貢献した鉄鋼王や、医療レベル向上に貢献した米国の石油王などだろうか。

 他にも世界各地で企業や実業家による社会貢献は行われている。


「そうだ玲子さん、今日は学校でAI搭載の防犯カメラについての説明が有りましたよ。あれって設置したのはウチの学校でしたか」


「ええ。他にも小中学校で数校ございますが高校はそうですね。皆さん反応は如何でしたか?」


「みんな不満でしたね。予想通りでした」


「担任は彼女さんでしたね。ご説明は如何でしたか?」


「見ちゃいられなかったから出過ぎた真似をしてきましたよ」




◯▲△



 美月が朝のホームルームで教室内に防犯カメラが設置された事を生徒達に説明すると、当たり前だがクラス中に動揺が走った。


「俺達は信用されていないのかよ!」


 何とか説明する美月に一部の生徒が食って掛かる。


「そっ、そういう訳ではなくてですね」


 反発されてしどろもどろの美月を天翔が放っておける理由などなかった。


「なあ皆、411人中、255人。これが何の数字か知っているか?」


 天翔は立ち上がるとクラスの全員に訴え掛けたが、突然の事に全員が呆気にとられている。美月さえも。


「411人、これは統計の取れた直近1年間で、残念ながら自ら命を絶った全国の高校生以下の人の数だ」


 皆が息を飲み込み天翔を凝視している。


「そして、255人。これはその411人の中でも死んだ理由が判明していないとされた人数だ。おかしいと思わないか?」


 ここで天翔は気心の知れている服部と石川に視線を送る。


「つまり、半分以上の人が亡くなった原因が判ってないと?」


「判っている人の原因に内訳は?」


 急に振られた服部と石川がたどたどしくも付き合ってくれた。天翔はこの2人の友に感謝して、続きを始めた。

 

「家族関係や進路関係がある程度有ったけどな、1番多いと思っていた原因はゼロかそれに近い数字しか無かった」


「それは、イジメね?」


 今度は佐野が立ち上がった。今の天翔には彼女についてどうこう思う余裕は無い。構わずに続ける。


「イジメが有ったと認めると学校の評価が悪くなるから学校は調査はしない。したとしてもイジメが有ったという結果は認めない。イジメは無かったとの結果有りきの調査だ」


「そんなのおかしい!」


 クラスメイト達が男女問わず憤り始めた。気が付くと美月が口を半開きにして見つめているが、今の天翔はその珍しい表情の美月に見惚れている訳にはいかない。


「そこでAI搭載のカメラだ。これはイジメに繋がる言葉を認知してイジメを防止するんだ。イジメは防止されて、有ったとしても証拠を残す。しかもそれは全てAIがやるからプライバシーも保護される!」


 天翔は更にヒートアップする。美月をこれ以上は困らせる訳にはいかない。その為には皆を納得させなければならない。


「今のイジメはSNSで行われたりもするけど、教室内でもそれに繋がる事が有る筈だ。このクラスでの成功が全国のイジメを減らす事に繋がるんだよ!」


 熱弁を振るう天翔とは反対にクラスメイト達は水を打ったように静まり返った。


「なあ蒼井、何でそんなに詳しいんだ?」


「あっ、テレビで見たんだ。最新のAI事情って」


 クラスメイトの冷静なツッコミに我に返った天翔は、いつの間にか猫背ではなくなってしまった事を誰にも気が付かれない内にスゴスゴと椅子に座って皆を伺う。

 そんな天翔を美月は熱い目で見ていた。ぽーっとしてしまったせいか、後半は半分程度しか聞いていない。

 

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