第219話 借金

 219 借金


 ちょっと戻って銭湯に行った。

 まだ工事は始まってないみたい。

 銭湯には時計があったので、時間を決めて待ち合わせしてフェルと別れた。


 体を洗って湯船で体を伸ばす。大きいお風呂ってやっぱり気持ちいいな。王都の公衆浴場も良かったけど、ここのお風呂もなかなかいいな。

 ちょっと古いけどなんか風情がある。


「おっ!ケイじゃねえか。こんなところで会うとは奇遇だな」


 シドとジンさんが湯船に入ってくる。


 僕の方こそ驚いた。


「さっき森から帰ってきてな。報告してから風呂に入りにきたんだ。みんなって言っても、ロザリーは家で風呂に入るって言って先帰っちまったがな。ほら、ワズならそこだ」


 見ればワズさんが体を洗っている。


「ここの銭湯は昔からあってな。王都に銭湯が作られる前からあるんだぜ。どちらかというと王都の銭湯がこっちをマネした感じだな」


 そう言ってシドは頭の上にタオルを乗せる。

 常連さんって感じがする。


「だが流石に設備が古くなってしまったらしくてな、今度新しい魔道具と交換するらしい。しばらく休みになるみたいだからみんなで入りに来たんだ」


 ジンさんもおなじく頭にタオルを乗せて言う。

 ガンツの仕事が始まるんだ。そのために来てるんだもんな。そもそも最初にガンツがこの銭湯を作ったのかもしれない。

 そうじゃないとわざわざ呼ばれる理由があまりないよね。


 遅れて湯船に入ってきたワズさんも交えていろいろ話をした。

 ジンさんとワズさんにいいかげん敬語はやめろと言われて、これからはシドと同じように話すことを約束させられた。


 3人はサウナに入っていくそうなので、屋台の宣伝をして僕は先に上がった。

 サウナあったんだ。場所を聞いたので今度入ろう。


 時間ギリギリだったので急いで待ち合わせの場所に行く。フェルはもう先に来て待っていた。


 待たせたことを謝って、エドさんの果実水を買いに行く。


 エドさんに、デイビットさんを紹介してくれたお礼を伝えると、大したことじゃないから気にするなと笑った。


 デイビッドさんが厄介な客に困らされている話をしたら、またあいつらか、そう言って呆れた顔をする。


 ちなみに、この街の人たちが言う、あいつらと言うのは、王都の近くに領地をもつ、とある大貴族の一派のことを指す。

 他にもめんどくさい貴族、というかもう貴族街の関係者のほとんどが邪魔者なのだけど、そういう人たちの中でも1番大きな派閥で、厄介なのがその大貴族の関係者なんだそうだ。そう。あの嫌な街を治めているのもその大貴族だ。

 騎士団長はそこの3男で、さらにその弟が副団長をしているそう。


 借金なんて早く返して欲しいよ。エドさんも他の人と同じくため息をつきながら話していた。


 辺境伯様が戦後、多額の借金をしたのは有名な話で、町に住むものなら知らない人はいないらしい。


 戦後とにかく住民が飢えることのないように、あちこちに頭を下げてお金を借り、食料の自給に勤めたのだそうだ。

 辺境伯さま自らが畑を耕し、さらには家畜を連れてきてその家畜の世話までしたらしい。


「金がないんだから仕方ない、みんなで頑張って借金を返そう」


 そう言って辺境伯さまは笑っていたそうだ。


 今は忙しくてあまり街には降りてこないけど、3年くらい前まではヒマさえあれば東側の農地で当たり前のように畑を耕していたそうだ。

 遠目からはそれが辺境伯さまだとはわからないくらい馴染んでいるので、うっかり不敬な発言が飛び出したりするが、辺境伯さまはそんなことは一切気にせず、お咎めも無しだ。


 辺境伯さまはこの街の出身で、両親を早くに亡くし、孤児になってしまったが、当時孤児院もなかったこの街で、街の人みんなから支えられて成長し、やがて冒険者として独立。その後様々な功績を上げてSランクの冒険者になった。


 10年前、領都の危機に当時のパーティを連れて駆けつけ、この地を守るはずの辺境伯がさっさと逃げ出してからは、残る兵士を率いて、最後は帝国兵を追い払う大活躍を見せた。

 その功績を讃えられて王様からこの領都を任せられることになる。

 その後はこの国に大きな戦争はない。多少の小競り合いはあるみたいだけど、この10年の間は平和が続いている。


 新参者である平民出身の辺境伯自らが頭を下げ、借金の申込みに来た姿を見て、特に被害もなかった各地の大貴族はある種の優越感とともに、喜んでお金を貸した。


 お金を貸した大貴族たちはもし返せなければ辺境一帯を乗っ取るつもりでいたんだろう。

 

 その中でも1番多額のお金を貸した、ここで言う1番厄介なやつとされるその大貴族はもっと積極的に動いた。自分の身内を次々と送り込み、利権の確保や領の政治にまで口出しできるようにしていった。他の貴族に先立って、この辺境伯領を実効的に支配しようとしたのだ。


 その支配しようとする動きをのらりくらりとかわし、街の人もその貴族の一派に決して逆らわず、適当に対応してこの10年なんとかやってきたそうだ。


 この街の人たちは強い。

 武力ということじゃなくて芯が強いのだ。

 領地に何があっても騎士団に頼らず、冒険者と協力して勝手に解決してしまう。


 騎士団の上層部はなにもすることもなくただふんぞりかえっているだけみたいだけど、実際は下級の騎士団の人たちと街の人、そして冒険者たちが協力し、そいつらに頼ることがないようにしているからお飾りとして偉そうにしていられるのだ。


 みんなはその貴族の話になるたび、早く借金返してくれないかなと、口を揃えて言う。

 ガンツが言うにはあと2年。

 あのオークキングの装備で、少しでも借金が減るといいな。


 エドさんとこの街のことを話していたら、フェルもやっと注文が決まって、お金を払って宿に帰る。


 この街にきた記念に、フェルとお揃いのものが買えて良かった。


 コップと食器はこっそり僕のお財布からだそう。気分的に、フェルへの贈り物にしておきたい。


 フェルが果実水を飲むのを我慢できなくなる前に、2人で急いで宿に戻った。



 











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