第216話 お金のこととかこれからのこと

 216 お金のこととかこれからのこと

 

 部屋に戻ってシャワーを浴びる。

先に寝ててもいいよと言ったけど、シャワーを浴びて戻るとフェルはまだ起きていた。

 お金のこととかこれからのこととか今日話してしまおうかな。

 早い方がいいよね。


 今はフェルと僕、それぞれ稼いだお金は冒険者ギルドのそれぞれの口座に預けている。

 フェルは冒険者として稼いだお金や小熊亭の給仕でもらったお金をそのままギルドに預けて、何か必要なものを買う時にはそこからおろして使ってるみたいだ。

 これは僕が小熊亭で働き出した頃になんとなくそうなった。

 最初は2人で稼いだお金を僕が管理して、切り詰めながら必要なものを買っていたけどそれぞれ働く場所が別々になってからは自然にそうなった。

 今は食費など暮らしに関わるお金は、ほとんど僕が支払って、その残りを冒険者ギルドで貯金している。いつか自分の店を持つために。


 暮らしに関わるお金と言っても、そんなに支出は多くない。

 家賃は実際、タダみたいなものだし、食費も今まではほとんどまかないだったし。休みの日に作る分の食費だってたかが知れてる。

 布団とか家具は買ってしまえばあとはお金はかからないし、部屋におく細かい家具やその他、細かなものはフェルが自分のお金でたまに買ってきたり、僕も必要なものを自分で買ってきたりする程度だ。

 何より、なんだかんだと安く物を売ってくれる商会もあるし、贅沢はしないし、する予定もない。

 石鹸とかシャンプーとかはフェルが気づいた時にいつの間にか買い足してくれている。なんだか好きなシャンプーがあるみたい。


 まあこんな感じでなんとなくやってきたわけだ。


 お風呂から上がって自分の髪をを乾かしているとフェルが紅茶を淹れてくれる。

 フェルが淹れる紅茶は美味しい。僕より全然淹れ方がうまい。小さい頃からやっていたんだろう。


 淹れてくれた紅茶がとってもおいしいと素直に言うと、少し顔を赤くしてこの宿の茶葉が良いのだとフェルが照れる。


 テーブルに座ってフェルと少しお金の話をする。


「今回はフェルにもお金を出してもらって屋台を始めるわけなんだけど、報酬の分配の仕方を決めておきたいんだ。あとで揉めることはないと思うけど、きちんと決めておこうと思って。なんかいろいろ僕が勝手に決めちゃってるところはあるけど、フェルも共同経営者になるから何か思いついたらなんでも言ってね」


 フェルが真面目な顔で頷いた。


「それで、今回利益が出た場合。とりあえず今までの準備にかかった細かいお金はおいといて、明日からの本格的な仕入れのお金とか、屋台の賃料、場所代とか差し引いてね。その純粋な利益は終わったら2人で等分することでいいかな?」


「実際の作業はケイがほとんど負担するから私はそんなにいらないぞ。3割でも多いと思う」


「でもね、これは2人のお店だから、僕もこれまで以上にフェルを頼りにするよ。役割が違うだけで、フェルにも頑張ってもらうわけだからそこはきっちり等分しよう」


 フェルは何かいいたそうだったけどとりあえず了承してくれた。


「それでね、そのあとの商業ギルドの口座だけどこれをこの先貯金のために使おうかなって思うんだ。2人でお店をやるための資金をこの口座に貯めていこうって思ってる。毎月いくらか決めて2人で貯金をしていくのはどうかなって。それで生活にかかるお金も2人で使うものはこの貯金から使うことにして、この口座を僕たちの共有財産として使っていくのはどうかと思うんだけど、どうかな?」


「それは良い考えだと思うぞ、前から私も気にしていたのだ。私が稼いだお金をケイは受け取ろうとしないし、ケイだけが自分の欲しいものを我慢してお金を貯めているような気がして後ろめたい気持ちでいたのだ。私もケイの夢を応援したい。いや、もうケイと一緒にいることを決めたのだからケイの夢はもう私の夢でもあるのだ。私はケイの……」


 そこまで言ってフェルは静かになる。


「ありがとう、フェル。でもこの先フェルにもまたやりたいことができるかも知れない。そんな時はまたその時考えるとして、いまは簡単に、2人のお金っていう口座を作ろうと言う話だよ。この先王都でもっと広い部屋を借りるかも知れない。そうなったらこの口座からお金を払って借りればいいし、今まで適当にしてたところを少しちゃんとしようって言うのが今回の話かな。それでお金がいっぱい貯まったら、領都でいい物件を探してお店を開くんだ」


 そう言って僕はフェルを見つめる。


「どう?フェル。王都に帰ったらまた細かいところを2人で決めよう。月々いくら積み立てていくかとかどこまでが、2人のお金を使って買うのかとか」


「うむ、今までケイが払っていた食費とか、炊き出しにかかる経費とかもだぞ、きちんと2人のお金として計算するのだ」


「わかったよ。と言ってもそんなにお金は使ってないんだけどね。いつも節約料理だし」


「そうなのか?私はいつもかなり贅沢をさせてもらっていると思ってたぞ」


「醤油と味噌以外はほとんどお金がかかっていないよ。肉はたまにフェルが持ち帰ってくれてたじゃない、オーク肉とか。炊き出しもほら、ウサギ狩りでさ」


 そう言って笑うとフェルも一緒に笑った。


「パンよりお米が安いからいつもお米だったし、フェル飽きてない?たまにはパンの方がいい時もあったよね」


「それは、確かにパンが食べたいなと思う日がなったといえば嘘になるが、ケイの作る弁当はいつも楽しみに食べていたぞ。飽きることなど全くない。昼に食べる時は、その日のおにぎりの具を予想しながら、そのおにぎりを大きく一口食べるのだ。予想が当たった日は調子がいい。こう、なんか嬉しくて体が動いてしまう」


 フェルが楽しそうに、おにぎりを食べる仕草や、魔物を斬るフリをしながら話す。

 かわいいなぁ、そして美人だ。


「じゃあそういうことにするとして、明日から頑張ろう。いろいろ仕入れて準備するからね」


 灯りを消して、布団に入る前におやすみのキスをした。

 暗くてフェルの表情はよくわからなかった。


 そして今日も抱きしめ合いながら眠りについた。

 














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