フェル 森で助けた女性騎士に一目惚れして、その後イチャイチャしながらずっと一緒に暮らす話

第215話 照り焼きバーガー

　215 照り焼きバーガー

　フェルが先にお風呂に入ったので、おばあさんからいただいたリンゴを使って、冷たい果実水を作り冷やしておく。

　その間に師匠に手紙を書いた。

　けっこう長くなってしまったけど、返事はこれを持ってきた冒険者の皆さんに渡してくださいと、最後に書いて封をした。

　フェルが上がってきて果実水をコップに入れてあげた。

　なんか不満そうだったのでもう１個リンゴを切って入れてあげる。

　するととたんに子供みたいにフェルがはしゃぐ。

　最近フェルの低年齢化が進んでいる。そしてかわいい。

　残ったリンゴは僕が食べた。みずみずしくて美味しいリンゴだ。リンゴだけって冷やせるのかな。氷を作る魔法みたいに。

　やってみたら出来てしまった。

　これはもしかしたらシャーベットが作れるかもしれない。

　リンゴの質の良さは、王都でクズ野菜をもらっていたゴードンさんちのリンゴといい勝負だ。

　領都に親戚がいるって言ってたからもしかしたらあのおばあさんの事かもしれないな。そうぼんやりと考えた。確かにそう思うとおばあさんとゴードンさん目元が似てるような気がする。

　ガンツは今日は遅くなると言っていたから２人で夕食を食べにいく。

オススメとかまた言うとどえらいものが出てきそうだから、お互いメニューに書いてある気になっていたものを選んだ。

　途中お皿を交換したりと、２人でイチャイチャしながら楽しく食事をとった。

　食事の後は屋台の商品の試作だ。

　９時過ぎには厨房も落ち着いてるとのことなので、それを待って支配人の部屋にいく。

　支配人に料理長を紹介してもらって厨房の使用の許可をもらった。

　厨房の機材は使い慣れていないだろうと料理長自らが助手をしてくれる。

　料理長はスティーブさんと言う名前で筋肉質の強そうな人だった。

　けれどとても礼儀正しく優しい人柄で、僕が昨日の料理を絶賛すると、逆に感謝された。

　久しぶりに全力で腕を振るえて楽しかったとスティーブさんが笑いながら言う。

　普段は単品で出しているので、自分で組み合わせを考えられるコース料理は作っていて楽しかったのだそうだ

　だったらある程度セットにして、コース料理より少し小規模にして出してみては？そう提案すると真剣な顔で、確かにそれはいい考えだとスティーブさんが言う。

　たとえば海の幸満足セットとか、オーク肉満腹セットとか、まあ名前はちょっとアレだけど。

　そう僕が言うと支配人と前向きに考えてみるとスティーブさんが言った。

　試作で使う挽肉とパンは帰りに買ってきていた。

　つなぎになる材料も途中で少し買ってきていたので、まずは普通にハンバーグを作る。

　ハンバーグの作り方はレシピが商業ギルドで公開されたので師匠の許可が取れ次第、きちんと教えますと支配人とスティーブさんに言っておいた。

　玉ねぎとニンジンを炒めて冷ましておく。

　ニンジンはいつもより少し細かく刻んだ。

　若いのに確かな腕だとスティーブさんが僕を褒める。うちにくれば副料理長で迎えてもいいぞと言われるが、それはやわらかく断った。

　玉ねぎを冷ましている間にソースを作る。

　小鍋で醤油とみりん、お酒と砂糖で照り焼きのタレを作る。お酒に砂糖を入れて先に少しだけ煮詰めるのがコツだ。かき混ぜていて少しヘラが重くなるくらい。みりんは最後に入れて完全に沸騰しないくらいで火から下ろす。その方が照りがいい感じに出るのだ。そして一度冷ませば味も馴染む。

　継ぎ足しながら使えば旨味も増していくけど、実際管理が大変だから普段はやってなかった。だってなんだかんだで使い切ってしまうことの方が多かったから。

　フェルがマヨネーズを作ってくれると言うので任せることにする。

　ガンツが泡立て器の魔道具を完成させるまで、我が家のマヨネーズ番長はフェルだったのだ。

　僕より体力あるしね。

　この宿ではお米は出さないのか聞いてみると精米器がないので大量に用意できないんだそうだ。

　それならばと持っていた精米器のうち大きいサイズを差し上げることにした。その代わり明日からご飯が食べられるようにしてほしいと伝えて、良い機会なのでお米の改めて炊き方も教えることにした。

　お米の研ぎ方、水を浸す時間など、丁寧に説明する。

　料理長は手の空いているものを呼び、気づけば炊飯の講習会のようになってしまった。

　実際に皆さんにやってもらって、僕は手の空いた時に自分の作業を進めていく。

　タレは満足のいくものになりそうだった。

　問題はハンバーグの大きさかな。

　分厚い方が食べ応えがあるけれど焼き上がりまで時間がかかってしまう。

　１２０g、１４０g、１６０gと３種類のハンバーグを焼き、焼いている間に料理長にパンを横に二つに割って、温めてもらった。

　軽く焼けたパンにレタスを敷き、タレにドブンとつけたハンバーグを載せる。その上にレタスを敷き、トマトを乗せてその上にマヨネーズを塗る。マヨネーズの上に少しだけレモンを絞った。そして蓋をするようにパンを乗せて上から軽く抑える。

　でき上がったハンバーガーを4等分して、支配人、料理長、フェルと僕で試食する。

　崩れそうになるのは爪楊枝で抑えた。

　ちょっと１６０gはやりすぎだった。焼くのに時間もかかるしこれはないかな。お肉は美味しいんだけど。

　１４０gと１２０gで好みがはっきり分かれる。

　料理長と僕は１２０g

　支配人とフェルは１４０gがいいと言う。

　間をとって１３０gにして今度は数を増やして４つ作る。厨房の料理人たちが羨ましそうに見ていたからだ。

　１３０gにするけれどパテは少し厚めに整形した。

　ちょうどパンに収まるくらいの大きさにする。

　焼き上がりを早めるために、蒸し焼きにする。お酒をちょこっと水で薄めて使った。　　　

　市場で見つけたお米のお酒が、少し高かったからだ。タレは仕方ないけどここで少し原価を節約する。

　厨房からバターをもらって焼けたパンに薄く塗り、ハンバーガーの完成。今度は半分に切って、４人で半分ずつ試食する。残りの２個は厨房の人たちで分けてもらう。

　うん。なかなかいいと思う。

　フェルも満足してるみたいだ。

　頷きながら美味しそうに食べている。

　レタスはもう少し多めの方が良いかな？

「これはうまいな」

　そうスティーブさんが感心したように言う。

「これなら絶対売れますぞ」と支配人が続ける。

　厨房の皆さんにもご満足いただけたようだ。

　スティーブさんに僕が思ったことを聞いてもらって、スティーブさんならどうするか、意見をもらった。

　意外なことにスティーブさんはあまり料理としてこれ以上完成させすぎない方が良いと言う。あまり手を加えない方が良いとスティーブさんは言った。

　少し荒っぽいくらいの方が個性が出るし、屋台で売るならそれくらいが良いみたい。

　なるほど。確かにこれはファーストフードだ。レストランで食べる料理じゃない。

　これで一応照り焼きバーガーの見通しはついた。あとはやってみて直すところは直していけばいい。

　お米が炊き上がったのでみんなでご飯を試食。

　と言っても僕はお腹いっぱいだったから食べなかったけど。

　残ったお肉を整形して焼いて、照り焼きハンバーグをご飯のお供として提供する。

　スティーブさんはやたらとこの料理に感心している。

　これは小熊亭の師匠から仕込まれた焼き方できちんと提供した。

　なぜかロイに教えるより僕に教えてる時のほうが師匠は厳しい。

　肉の焼き上がる音を聞けとか言われた。

　師匠が言っているそのことがわかるまで実際、ふた月くらいかかった。

　ハンバーグを焼く夢にうなされたのは内緒だ。それくらい毎日真剣だった。そして夢ではいつもハンバーグを焦がしてた。

「ここまで料理に合う食べ物だったとは。手間だからと諦めずにやってみれば良かった」

　スティーブさんはお米を食べてみてそう言ってくれる。

　お米の美味しさがもっと広がればいいなと思う。

　「家畜のエサだと文句を言う人はいないのですか？」と尋ねれば、そんなことを言う貴族はここに泊まらないと支配人とスティーブさんが笑う。うるさい人たちはみんな貴族街に泊まるそうだ。

　この街の人は基本的に美味しいものに文句は言わない。むしろ珍しいものにすぐ反応するみたいだ。だから市場にも色々な食材が集まってくるのだそうだ。

　ご飯があまりそうだったからおにぎりにしようかな。

　スティーブさんにそういうと、おにぎりも食べてみたいと言う。

　厨房の食材を使ってもいいと言われたので、塩鮭を少し塩抜きしてから焼いて、鮭のおにぎりを作った。

　おっちゃんところで買った海苔を巻いて出来上がり。

　できあがったおにぎりを４つもらって、明日のフェルと僕のお昼ご飯にすることにした。

　後片付けをしていると支配人が来て、午前中に作った麦茶はこの宿でも採用することにしたことを僕に伝えてきた。

　多めに用意するからなくなったら気軽に言ってください差し上げますと、言って支配人は自分の部屋に戻った。今日のお礼だそうだ。ありがたい。これで毎日麦茶を作らなくて済む。

　その後フェルは部屋に戻って、僕は厨房の人と一緒に後片付けをした。

　みんななんか恐縮してたけど、ひさびさにみんなでやるその作業は楽しかった。

　厨房の雰囲気がなんだか恋しくなったのだ。