第214話 社員割引
214 社員割引
解毒魔法の効果はすごい。
あんなに酔っ払っていたのに2人とも素面に戻っている。
隣にいたからうっかりついでに解毒されてしまったジークさんは「これでもっと酒が飲めるぜ!」そう言って喜んでお酒を注文しに行った。
ガンツの工房にいく途中で、シドとザックに次の依頼はどうするのか聞いてみた。
シドのパーティはオークの砦の周りの調査をするらしい。
ゴブリンの拠点があれば都度破壊して、今回の後始末をするそうだ。
ザックは剣がないから出来上がるまで新人冒険者の指導の仕事をするらしい。
さっきローガンさんにつかまったんだそうだ。
ヒマなら働けと言われて、オークが持ってた武器を渡されたそうだ。ちょっと刃こぼれしてるけど、新人のフォローならこれで充分らしい。
時間があったらちょっと研いであげようかな?
ザックが一時的に抜けるので、ジークさんたちは王都へ向かう商人の護衛をする依頼を受けたみたい。「あいつらみんな小熊亭で飯食ってくるって言ってたぞ」とザックが羨ましそうに言う。
「師匠に手紙を持って行ってって頼めるかな?」ザックにそう聞くと、明日の朝ギルド前で集合だからそこに行って渡せば大丈夫だと言われた。
ハンバーグのレシピの件と、宿の料理長に店のレシピを教えていいか確認しよう。
屋台をやってみることも報告しておかなければ。
ザックは終わったら打ち上げにまた合流するので、その時に一応話しておくと言っていた。
「ジークはどうせ話しても覚えてないと思うから、ナンシーあたりに言っておくぜ」
そうザックが言う。
ナンシーさんだいぶ酔ってたけど大丈夫かな。
お前らはどうすんだと聞かれて、屋台をやることを伝えた。
ザックは大喜びで、毎日食べに行くと言うので場所を教える。
シドが「いい場所じゃねえか、あの老舗の串焼き屋のとこだろ」と言う。どうやらその場所のことをよく知ってるみたいだ。
そんな話をしていたら職人街に着いた。
ガンツから聞いた工房の場所をシドに伝えたら、それならこっちだと案内される。
工房街の外れに、ちょっと広めの敷地の工場のような建物があった。
中に入って受付の人を探すと、ガンツを見つけたので声をかける。
みんなはガンツの部屋に通されて、僕だけ、そこの給湯室でお茶を入れてこいと言われる。
戸棚を開けたら紅茶があったので適当に人数分入れて戻るとソファに座ってみんな楽しそうに話していた。
「人手が足りなくての、お茶も入れられんのだ。すまんな、ケイ」
最近僕の扱い方がぞんざいだ。僕はガンツの弟子じゃないんだけど。
みんなにお茶を配って空いてる席に座る。
「しかしあのハナタレのガキが、こんなに変わるとはな。時間の経つのも早いものだ」
「ガンツも変わってないようで何よりだ。ところでケイとは一体どういう知り合いなんだ?」
「こいつは一年くらい前にワシの工房に来ての。はじめは砥石を買ってほしいって言ってきたんじゃ。砥石は確かに質が良かったが、よう出回っとるそこまで珍しいものではなくての。じゃがその時フェルが、昔ワシの打った剣を持っておってな。ギルドの倉庫で、錆だらけになってたもんじゃが、きちんと手入れされていての。気になったから他に自分で手入れをした刃物はないのかと言うとケイが使い込まれた小さな包丁をよこしたのだ。安物の包丁だったが、大切に使っているのがよくわかった。こいつはいい職人になれる、そうワシはその時に思ったのだ。だがこいつは弟子にはならんと言っての、それからことあるごとにケイはワシに頼み事をしてきて欲しいものをワシに作らせるのだ。なかには面倒なものもあったが、ケイがこれを作ってくれというものがけっこう面白くての、実際、便利な道具もいくつかできて技術登録もしておる」
僕の淹れたお茶を一口飲んでガンツは話を続ける。
「それからしばらくしてケイがワシの行きつけの食堂で働き出してな、そこで料理の才能があるのがわかって、そこの親方と話して今回の仕事に付き合わせることに決めたんじゃ。いいか?ケイ、今回の領都行きはもともとクライブが最初に言い出したことなんじゃぞ。ライアンにフェルの件を教えられる前からの。帰ったら礼の一つでも言ってやるんじゃぞ」
そうだったのか。知らなかった。
手紙にそのことも書いておこう。
「さて、シドの坊主とザックだったな。作る装備に希望はあるか?お前たちにはケイが世話になったらしいからな。特別に気合いを入れて作ってやる」
シドはロングソードとショートソードの間くらいの剣、それから大きめのナイフがいいという。できれば軽い方がいいけど、頑丈なものがいいという。
ザックはこれまで切れ味優先の鋭い武器を使っていたけれど、今回はシドと同じで頑丈なものにしてほしいそうだ。今回途中で武器を破壊されて、後半役に立たなかったことを悔やんでいるみたい。
「俺たちのパーティはタンクがいねえ。場合によっちゃあ敵の攻撃を俺が受け止めなきゃいけねえんだ。ジークの方が実際、攻撃力が高いからな、俺はいざという時、皆を守れる硬い剣がほしい」
さっきまで陽気に酔っ払っていたはザックはどこにもおらず、真剣に仲間のことを考える真面目な表情をしていた。
ガンツが戦い方をみたいというので中庭に行くことになった。なんか長くなりそうだなと思ったから、僕たちはミンサーを買って先に帰ることにした。
ザックは木刀を使うようなので、今持ってる剣を研いでおくよと言って持っていたボロボロのオークソルジャーの剣を預かった。
ガンツの弟子に声をかけてミンサーを売ってもらう。動作を確認して2台分のお金を払う。
銀貨4枚でいいそうだ。
それって原価じゃない?と聞いたら、お弟子さんは笑って、社員割引だと答えた。
そうか。すでに社員になってたか。
その後作業場を借りて剣を研いでおいた。
剣の素材は悪くなかったみたいで、ボロボロだった剣は研いだらけっこう立派なものに生まれ変わった。
ガンツの部屋に剣を置いて工房を出る。
太陽はだいぶ西に傾いていた。
夕焼けに染まる領都の街をフェルと手をつないで宿まで歩く。
ギルド食堂をチラリと覗くとまだ宴会は続いていた。
ロザリーさんが僕らを見つけて手を振ってきたので、僕らも笑顔で手を振りかえした。
宿の前まで帰ってきて商業ギルドにまだ口座を作っていないことを思い出した。
明日仕入れにいくならギルドに請求にしてもらった方が便利だ。
フェルと商業ギルドにもう一度向かう。
受付でギルドカードを見せて口座を作りたいと伝えた。
あちらの窓口でお待ちくださいと言われて、そのまま待っているとマリアさんが来た。
「ごめんなさいねー、レシピの件ですっかり忘れてました」
そう言ってマリアさんが謝る。
屋台をやっている人たちはみんなギルドに口座を持っていて、屋台を戻しに来た時に売り上げを入金していくみたい。
夜遅くまでやってる屋台は、屋台を持っていく前に前の日の売り上げを入金していくらしい。
「入金額はどれくらい?個室の方がいいかしら?」
そうマリアさんが言って、僕たちは空いてる個室に案内してもらった。
今回の報酬を全部屋台の運転資金にしよう思って銀貨で80枚というと、フェルが自分もお金を出したいと言い出した。
2人の店なのだから当然だとフェルが言う。
今まで適当にしてたけど、きちんとここでお金のことも話さなきゃな。
とりあえず2人で銀貨50枚ずつ出し合うことにして金貨1枚を入金する。
フェルの名前も共同経営者として登録してもらって僕たち2人のどちらでも取引できるようにしてもらう。
マリアさんと別れて宿に戻った。
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