第213話 狩人の唐揚げ
213 狩人の唐揚げ
「この間のブドウの果実水にこのキウイという果物を入れるのはどうだろうか?ケイ、どう思う?」
ワクワクと目を輝かせながらフェルが果実水を選ぶ。
そんなフェルの様子を見ていたらどっちが良いとか答えられなかった。
「お嬢さん。なかなかいい組み合わせだぜ。ブドウの果実水にはけっこういろんな果物が合うんだ。この間の桃を入れても美味いぜ。おじさんが保証するぞ」
昨日の僕たちの印象がよほど強かったのか、おじさんに顔を覚えられてしまっていた。
僕はシンプルにオレンジにした。
あれから市場には行ったのかとかいろいろおじさんに聞かれた。
フェルはまだ迷っているようだ。
おじさんに昨日あれから魚屋のおっちゃん、ジェイクさんの店で買い物したことを伝える。チェスターさんからはタマゴを仕入れる約束をしたと言ったらおじさんはとても喜んでくれた。
そんな話をしていたら、フェルが注文を決めた。やっぱりブドウの果実水にキウイの果肉を入れてもらうらしい。
どんな味になるんだろう。
「そうかい、じゃあにいちゃんたち屋台をすることに決めたんだな。よし今日は俺の奢りだ。屋台の先輩から後輩への贈り物ってことで今日のお代はいらないぜ。俺はエドだ。これからよろしくな。なんか困ったことがあればいつでも相談しに来な。かみさんのところでもいいぜ、お前らのことは帰ったら話しとくから」
そう言いながらフェルにブドウ、キウイミックスを差し出す。
「あいよ、お嬢さん。キウイは少し崩して混ぜるともっと美味いぜ」
おじさんはその味を知っているようだ。そりゃそうか。試してみないわけがない。
ブドウとキウイ。僕としては少し想像しにくいけど、フェルがそうしたいっていうのなら頼んだって良いと思う。
そして慌てておじさんにきちんと名前を名乗り、市場でお店を紹介してくれたことにお礼を言う。
おじさんの助言がなければただ漫然と市場を見て回ることしかできなかった。
冷たい果実水を充分に楽しみ、もう一度エドさんにお礼を言ってお店を後にした。
「フェルちゃん。またおいで、いつでもサービスするからな」
僕たちに手を振るエドさんに見送られてこの間の依頼の報酬を受け取りに冒険者ギルドに向かった。
ちょっと寄り道に時間をかけすぎた。
冒険者ギルドの会議室に入ると、僕たちが一番最後だった。なんかすみません。
まだ時間前だったけどなんか申し訳ない。
それでも時間までまだ10分くらいあったので、シドとザックさんを捕まえてガンツのことを話す。ザックさんはガンツを知らなかったけど、シドがガンツのことを説明するととても驚いていた。
あの
やっぱり二つ名持ちだったんだなガンツ。
枕言葉っていうのかな。そんなかっこいい単語がついてるだけでカッコ良さが生まれる気がする。
やめよう。もう僕は王都のウサギ狩りでいいのだ。別に冒険者として名前を売っていくわけじゃないから。
シドは当時のことをまだ覚えているみたいだ。
戦争中はまだ子供で、義勇兵には参加できず。それでも何かやりたくて、鍛冶場でガンツの手伝いをしていたそうだ。
義勇兵全員行き渡るように、街からかき集めた鍋だとか壊れた武器とかを鋳潰してガンツは防具を大量に作ったらしい。
シドはとにかくガンツにはよく怒られたと言っていた。
時間になりギルマスと職員が2人、会議室に入って来た。
席についてギルマスの話を聞く。
「お、みんな揃ってるな、なんか珍しいな。お前らそんなきっちりしてたっけ?これからいつもそうしろよ。お前らいつも時間が適当だからな」
くだけた調子でギルマスのローガンさんが壇上に登り、報酬の話を始める。
「さて、今回はみんな良くやってくれた。この規模の災害にいち早く対処できたのは皆のおかげだ。もしあと2、3日でも放置していたら、かなりの規模で被害が出ていたかもしれない。ゴブリンの繁殖力を考えると3日、いやたった1日おいただけでも攻略の難易度は倍近く上がっていただろう。この街の人間としてこの状況を解決してくれた皆には本当に感謝しかない。ありがとう」
ローガンさんはみんなに深く頭を下げてから話を続けた。
「さて報酬の話をしよう。まずは依頼料、これは1人銀貨5枚。これに加えて辺境伯さまより1人につき、銀貨25枚の特別報酬が出た」
冒険者たちから歓声が上がる。
それを手で押さえるジェスチャーをしてローガンさんが静かにさせる。
「えー。そしてここからさらに、今回特に功績を上げた3名にさらに銀貨20枚。辺境伯さまより報奨金が出ている。1人目、異変に気づき、作戦を立案、迅速な行動で砦に奇襲をかけ、勝利に導いた。チームリーダーのジン。そして2人目は……悪いが、騎士のマリスだ。騎士団からすぐに応援を呼び、盾役の中心として部隊の根底を支えた。この功績を評価してのことだ。マリスは騎士だが、実はちょっと辺境伯にもお願いされてな。マリスは今回のことで3ヶ月の減俸だそうだ。理不尽だろ。報告義務違反だそうだ。お前らに最大限協力するために、辺境伯の執務室に直接飛び込み、直に話をつけたそうだ。それで上のものからきつくお叱りを受けて、処分されたらしい。全く、あいつらほんと早く出てってくれねーかな。実際なんの役にも立ってねーし。マリスのあの時の対応には俺個人も感謝している。おかげでみんな怪我も大したことなく帰ってこれたんだからな。というわけで許してやってくれ。いいな」
そうか、マリスさんやっぱり処分を受けちゃったんだ。
困った騎士団だな。
「さて、最後の1人だが、お前らもうわかってるな。部隊を後方より支援して、今回最も多くのオークを仕留めた、3人目はケイ。お前だ」
冒険者よりまた歓声が上がる。拍手してる人までいるよ。
僕?ジークさんとかシドとかじゃないの?
「今回ケイが仕留めたオークは96体。うち上位種は6体だった。これは持ち帰った死体を分析してわかったことだ。刺さった矢が致命傷になった普通のオークが90体。メイジ2体、アーチャーが3体、ソルジャー1体だな。そういう報告が上がっている。なんかよくわかんねーやられ方をしたオークもいたが、それについては除外した、察してくれると助かる。だが、後方の安全なところから攻撃していたとはいえ、この数はちょっとおかしいくらいだ。皆からの報告も考慮して、今回の作戦において損耗も、死者も出すことなく帰還できたのはケイの功績によるものが大きいとギルドは判断する。ケイ。改めて、ありがとう」
ローガンさんが深く頭を下げるとみんなから拍手が起こる。
みんなが何か囃し立てているけれど、一斉に言うから何だかよくわからないよ。
でもうれしいな。僕はみんなの役に立てたんだ。
騒ぎが落ち着くとローガンさんに変わりジンさんが壇上に出る。
「えーと。こっからは素材と戦利品の話だ」
ジンさんが用意したメモ書きを見ながら話をする。
「今回の討伐ではオークキング、1体。メイジが2体、ソルジャーは全部で7体だった。アーチャーは4体だな、そのうち1体は素材を取れなかったんだが。そのほかオークは後から集まってきたものも含めると約230体。ゴブリンは500体以上いたと思われる。これらは魔法や罠でぶっ飛ばしたりしたから正確な数はわかんねえ。大体だ。で、今回のゴブリンの討伐報酬はまとめて特別報酬に含まれているそうだ。それでオークの素材なんだが、通常の3分の1の値段で辺境伯さまに売ることにした。オレの勝手な判断で悪いが、みんなも賛成してくれると信じている。オークやゴブリンの武器は毎度のことあまりいい値はつかなかった。いつも通りだ。ソルジャーの剣は多少いいやつだったけど、ボロボロになってたのでこれも大した値段にはならなかった」
ジンさんはそこまで話すと一息つくかのように水筒の水を飲む。
ここまで誰も文句は言わない。
フェルも含めてみんな当たり前のような顔をしている。
僕もいちいち驚くのをこらえて、さも当然のように聞いた。
「メイジの持ってた武器、とキングの持ってた装備は素材も含め辺境伯さまに献上した。これはあの日の夜に話した通りだ。調査は辺境伯さまの仕切りで進められるとのこと。もう細かいことはみんなもう聞きたくないだろうからまとめていうぞー。素材と戦利品合わせて1人銀貨15枚だ。端数はギルマスが自分の財布から出してくれた。みんなギルマスに感謝」
「「あざーす。」」
みんなが声を揃えて言う。
奥でローガンさんが笑っている。
「最後に、アーチャーの武器だが、これはまだ売ってはいない。王都に持ってけば金貨になるかもしれねえ代物なんだが……、ただ、これが世に出て、軍にでも買われてみろ。ちょっとどころじゃなくやばいことにつながっちまう。人殺しの道具としてはちょっと過激すぎる威力だからな。辺境伯さまにも相談したんだが、辺境伯さまもそんな物騒なものいらないと仰っている。それでだ。これの行き先なんだが、正しい心を持ち、誰よりも素晴らしい弓の腕を持った、俺たちが誰よりも信頼する冒険者に託そうと思う。ちょっとこいつではウサギ狩りはできないだろうが、きっとその冒険者ならこの弓を正しく使ってくれると思う。どうだ、みんな?」
意義なし、と皆が拍手する。
「じゃあケイ、壊れた弓の代わり、というにはちょっと大袈裟なものだが、この弓はお前にやることにする。ちゃんと使い所は選べよ。その辺お前が一番わかっていると思うが」
そう言ってジンさんは僕のところに来て弓を手渡した。
正直、僕もいらないんだけどな。記念品だ。どこかに飾っておこう。
「いいかー。みんなくれぐれもこの弓のことは誰にも話さないでくれ。ギルドの報告書にもこの弓のことはぼかして報告してある。ギルマスと辺境伯さまには詳細は口頭で伝えてあるが貴族の奴らにもしバレたら騒ぎになる。酔っ払ってもそれだけは守ってくれ」
ジンさんが壇上にもどって話を締めくくった。
「じゃあみんな報酬をそこの職員から受け取って終わりだ。今日は奢りではないけど、奢りではないけど」
あ、2回言った。
「下の食堂を貸切にしてある。打ち上げだ!みんな楽しんで欲しい」
「そして最後に、みんなケイにメシを作ってもらっただろ?その代金だが、みんなの判断に任せる。確自、妥当だと自分で思う額をケイに渡してやってくれ。これで俺の話は以上だ。じゃあ後ほど」
ジンさんがそう言うとみんなが次々と立ち上がる。
僕は最後でいいや、とフェルは2人席に座って報酬を受け取る順番を待つ。
待っている間みんなが僕のところに来て、みな銀貨を1枚置いていく。
もらいすぎだと言っても聞いてくれない。
頭を撫でられたり、また作ってくれという人がいたり、僕の机に銀貨で小さな山ができる。
だから子供扱いはやめてってば。
打ち上げで何か作って還元しようかな?そうフェルに言うと、唐揚げはどうだろうかと提案される。確かに、僕もちょっと食べたいかも。
最後に報酬を受け取って弓とお金をマジックバッグにしまう。
今回の報酬は銀貨約80枚。けっこうとんでもない額になってしまった。
僕らは一度外に出て、急いで市場とマリーさんの肉屋に向かった。
マリーさんのところでホーンラビットのお肉を大量に買い。市場でオリーブオイルを樽で買う。
急いでギルドに戻ると宴会はもう始まっていた。
「おう、どこ行ってたんだケイ。みんな待ってたんだぜ」
エールのジョッキを手にシドが僕の肩を抱く。シドの顔が赤い。すでに何杯か飲んでるようだ。
この後ガンツのところに行くんだからあんまり飲んじゃダメだよと言うと、解毒の魔法をかけてもらうから平気だという。
シドとザックはナンシーさんに銀貨を渡して、出る時に魔法でお酒を抜いてもらう約束をしてるらしい。
お金の使い方に少し呆れる。
「みんなから少しお金をもらいすぎちゃったから、これから一品作ってお返ししようと思って準備してきたんだ」
そうシドに言った。
「おーっ、みんな、ケイがなんか作ってくれるらしいぜー!」
シドがそう言うと大きな歓声が上がる。
食堂のマスターに一品みんなに作りたいって話をすると快く場所を貸してくれた。
フェルが肉を切るのを手伝ってくれて、僕は唐揚げの準備をする。
いつも炊き出しでやっているように、お肉をタレによく揉み込んで、油で揚げていく。
それを見ていたマスターが作り方を教えてくれと言ったので2回目からは教えながら作った。
なかなか手際がいいとマスターに褒められた。
それを見ていたジークさんが、マスターに新しくメニューに載せろと言い出す。
マスターもそのつもりだったようで、みんながメニューの名前を考えだす。
オーク殺しの唐揚げ。
唐揚げ、ウサギ狩り風。
神の目の唐揚げ。
みんなが適当に言いはじめる。
名付けのセンスがない。普通に唐揚げでいいじゃん。神の目はやめて欲しい。それだけは嫌だ。
結局ロザリーさんの提案で狩人の唐揚げに決まった。無難だけどそれが一番かっこいい。
「お前らが王都に帰ってもきっとみんなで酒を飲みながら食べるぜ。たぶんお前たちのことを話しながらな」
ジンさんが笑って僕に言う。
僕が王都に帰ってもみんな忘れないでくれるとうれしいと言うと、お前みたいなやつ簡単に忘れられるわけがないだろうと、みんなから馬鹿にされる。
用意した肉も全部使い切ったので、僕らは途中で抜けることを伝え、ナンシーさんにシドとザックの解毒を頼んだ。
笑い上戸なのかナンシーさんはやたら陽気に解毒魔法をかける。
うっかり近くにいたジークまで解毒されてしまったけど、素面に戻った2人をつれてシドの工房に向かうことにした。
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