第210話 仕入れの相談

 210 仕入れの相談

  

「それでケイはなんの屋台を出すつもりなのだ?」


 歩きながらフェルが聞いてくる。


「ハンバーガーのお店にするつもりなんだ。ハンバーグをパンで挟んだ料理だよ。ロイが賄いでよく作ってるやつ」


「お米は使わないのか?私はおにぎりでも握るのかと思っていたぞ」


「お米はね。食器とかどうする、とか考えることがいろいろ多くてさ。確かにおにぎりでもいいんだけど、それだとけっこう準備が必要になるんだよね。いっぱいお米も炊かなくちゃいけないし。それはいつか機会があれば挑戦するとして、まずは今、持ってるものでできることをやろうかなって思ってるんだ」


「それでハンバーグか」


「そう。王都小熊亭のハンバーグ、期間限定で領都で販売します!なんてどう?」


「それはいいかもな。しかし勝手に店の名前を使ってクライブに怒られないのか?」


 クライブと言うのは師匠のことだ。

 フェルは最初クライブ殿とよんでいたが、その呼び方はやめろと怒られたのでクライブと呼ぶようになった。


「それなんだよね。帰ったら全力で謝れば許してくれるかな?」


 看板に書かなければ平気かな?ついうっかり口が滑ったとかで。


「バレなければ大丈夫かもしれんな。ガンツに口止めすればいけるかもしれん」


「まぁ、そんな感じで、ハンバーガー屋さんをやってみようかなと思ってるんだ」


「しかしケイ、パンはどうするんだ?まさか自分たちで焼くわけにもいかないだろう」


「うん。実はパン屋は気になってるところがあるんだ、あ、あそこだよ。あの店。すごくいい匂いがして前から気になってたんだよね。あそこ」


 市場から北の通りに出たところにそのパン屋はあった。衝動買いした日に買わなかったのは、見つける前に市場でたくさんパンを買ってしまっていたからだ。

 流石に食べきれない量のパンを買うわけにはいかない。


「ね、いい匂いでしょ」


「うむ。これはあたりかもしれないな」


 お店の中に入ると恰幅の良いおばさんがカウンターの中にいた。


 お店に並ぶパンはどれもほんとうに美味しそうだった。


「フェル、とりあえず1個ずつ何か買ってみよう。夕飯入らなくなっちゃうから1個だけだよ」


「1個だけ、と言われるといつも困る。どれも美味しそうで私には決められそうにない。ここはケイが選んでくれ」


 フェルが困り顔でそう僕に言う。

 店のおばさんはそんな僕らを微笑ましくみていた。


 パンはシンプルな丸パンとフェルの好きそうなアップルパイを買った。

 丸パンはハンバーガーにするには少し小さいかなって大きさだ。


 座る場所がなかったので行儀が悪いとは思ったけど、道の端っこで2人で立ち食い。


 シンプルな丸パンはしっかりした味で、何より香りが良かった。

 これなら大丈夫だろう。


 アップルパイを食べるフェルはとても幸せそうだ。僕も一口もらった。うん。美味しい。


 食べたら先にお肉屋さんに向かった。


「こんにちは。市場でチェスターさんにこの店を教えてもらったんですが、ちょっとお時間よろしいですか?」


 30才くらいだろうか?優しそうな女の人が笑顔で対応してくれる。


「チェスターの知り合い?何かしら。あたしはマリーよ。奥にいるのが夫のミック。それで何の用?」


「僕たち屋台をはじめるんですが、屋台で使うお肉の仕入れの相談にきました。チェスターさんのところがここにニワトリを卸してると聞いて、教えてもらってきたんです」


「あら、チェスターのニワトリ?チェスターのところのはモノがいいからすぐ無くなっちゃうのよね。それにちょっと高いから屋台には向いてないと思うけど」


「いえ、使おうと思っているのはオーク肉とホーンラビットの肉なんです」


「オーク肉なら今が一番お買い得よ。ギルドに大量に入荷して今安く仕入れられるの。冒険者のはずなのに何故だか肉の処理がちゃんとしてるのよね。味は保証するわ。使いたいなら多めに仕入れてもいいし、ホーンラビットも最近は大体安定して入ってくるから大丈夫よ」


「オーク肉はできれば肩の肉がいいんですが、結局挽肉にしちゃうんで多少他の部位が混ざっても構いません。肉を切り分けた時に出る端っこのところとかそう言うところでも平気です。ホーンラビットの肉は特に欲しい部分とかはないです。鮮度が良いものをもらえたらそれで大丈夫です」


「挽肉?それって何のこと?」


「お肉を全部細かく刻んでしまうんです。それをまた丸めて焼いた料理をだそうとおもってます」


 そう言ってマジックバッグからミンサーを出す。


「ちょっとあなたー。こっちきてこれ見てくれない?」


 マリーさんはミンサーを見てすぐ旦那さんを呼んだ。


「どうしたマリー。あ、いらっしゃいませ。うちのが……何か?」


「ミック違うのよ。このお客さんがね、肉を細かく刻んで使いたいんですって。それで肉を細かくする道具がこれだって言うのよ。これって前にあなたが話してたやつじゃない?」


「お客さん、これって肉を入れてハンドルを回すと肉が刻まれて出てくるってやつか?確かミンサーとか言う」


「そうです。ここから肉を入れてハンドルをグルグル回すとこっちの穴から肉が出てくる仕組みです。でもこれはハンドルのところが魔道具になってますから頑張って早く回す必要はあまりありません。ハンドルにしてるのは細かく丁寧に挽肉にする時、調節しながらやるためです」


「ちょっとやってみてもいいだろうか。もちろんちゃんと浄化して返すから」


「いいですよ。最初はゆっくりやってみて、慣れて来たら速度を上げていくんです」


 ミックさんはあちこちミンサーの動きを見ながら使いごこちを試している。

 しばらくしたらもどってきた。


「ありがとうお客さん。王都でそういう魔道具が作られたって聞いて設計図を取り寄せたんだが、見本がなくてこっちの鍛冶屋がうまく作れなかったんだよ。もしよかったらこれ譲ってくれないか?そしたらお客さんの注文分はこれで挽肉にして渡してあげるよ。銀貨10枚でどうだい?」


 もともとミンサーはガンツに材料費だけで作ってもらったので、正規の値段はわからないのだけど、銀貨10枚はさすがに貰いすぎだ。

 銀貨3枚でいいというと2人に感謝された。

 今まで腸詰とかで肉を細かくする作業はほとんど手作業だったらしい。

 これを作った職人が今この街に来てるから、たぶんこの街の職人もすぐ作れるようになるはずだと2人には伝えておいた。


 それから厨房を貸してもらってハンバーグの試作をさせてもらった。

 ミックさんとマリーさんにも食べてもらって意見を聞いて、ハンバーグはオーク肉7に対してホーンラビット3の割合に決まった。

 ミンチにするオーク肉の部位も肩の肉だけじゃなく、ミックさんからさまざま意見が出て、ちょうどいい配合をお任せることになった。


 必要な量は前日に伝えることにしてお肉屋さんを出た。


 さっきのパン屋に戻ってパンの注文をする。


 パン屋の女将さんはこころよく引き受けてくれた。

 欲しい大きさを伝えてハンバーガー用のパンをとりあえず150個。

 3日後の朝に受け取りと言う約束にする。


 一度に100個焼けるそうなので数が増えたら受け取り時間がその分遅くなるとのことだった。

 朝は7時からお店は開いているらしいけど、焼き上がる時間もあるので8時ごろ取りに来てと言われた。


 これでとりあえずパンの手配も終わった。







 










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