第211話 フルコース

 211 フルコース 

  

 パン屋を出るともう夕暮れ。

 他の細かいものの仕入れは前日にすることにして、宿に帰る。


 ガンツはまだ帰ってなかったので、宿の人に今後の相談をしに行く。

 主な調理は屋台でやるつもりではあるけれど、多少の仕込みは前日にしてしまいたい。

 厨房の隅っこでいいから貸してもらえないか相談したかったのだ。料金はもちろん払うつもり。


 宿のカウンターで事情を話すといきなり支配人の部屋に通された。


 依頼主から僕たちには最大限の便宜を図るよう言われているみたいで、料金を払うという僕の提案は固辞された。

 代わりにお願いがあるそうで、もし領都にはない美味しい料理を知っていたら教えて欲しいと言われてしまった。


 どういうことなんだろうと思っていたら、観光資源の乏しいこの街を食の都として栄えさせようと支配人を含むいくつかの店の代表が組合を作って今活動しているのだそうだ。

 王都の新しいレシピを取り寄せたり、月に2回、研究会を開いたりとけっこう幅広く活動的にやっているみたい。


 確かハンバーグもレシピ化されていたと思うけど、と聞いてみたら、ハンバーグのレシピは手に入らなかったみたいだった。

 

「王都の小熊亭の名物料理ですよね」

 

 支配人は小熊亭を知ってるみたいだった。その小熊亭の従業員だと話すと、ぜひ作り方を教えて欲しいと言われる。

 不思議に思ったので明日商業ギルドに確認してみることにした。

 あの師匠がレシピを秘密にするはずないと思うんだけどな。


 もちろんレシピ代は払います。と支配人が言うけど、僕の知ってる料理ならお金はいらないことを伝える。

 ハンバーグだけは店の看板メニューだから、ちょっと確認させて欲しいと伝えて、支配人との話し合いを終えた。


 支配人の部屋を出るとちょうどガンツが帰って来た。

 フェルを呼んで3人で夕食。


 いつもの料理を注文しようとするガンツに今日は違うものを頼んでみたいと話して、店員さんに、おっちゃんの魚屋の食材を使った料理が食べたいことを伝えると、一度厨房に確認して来ますと、下がって行った。


 待つ間、ガンツに今日出会った魚屋のおっちゃんの話をして、手に入った食材の話もする。

 ケイがそれだけいうのならさぞ美味しかろう、とガンツも楽しみな顔をする。

 王都に戻ったらもっと美味しい料理がいっぱい作れるようになるから楽しみにしてて、と言うとガンツは嬉しそうに微笑んだ。

 ガンツのこういうところがじいちゃんと似ていると思う。


 店員さんが戻って来て、けっこう種類が多いので料理を大皿で出して、3人で分け合って食べるのはどうかと料理長から提案されたそうだ。

 量のバランスはこちらに任せて欲しいとのことだ。つまりシェフのおすすめのコース料理みたいな感じにしてくれるらしい。


 僕ら3人は言葉では表現できないほど美味しいその海鮮料理のフルコースを楽しんだ。





 
















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る