第203話 今後の予定
203 今後の予定
お風呂から上がるとフェルは椅子に座って窓の外を眺めていた。
「お待たせー。とりあえずガンツの部屋行ってさ、もしまだ帰ってなくても先にごはん食べちゃおう。ギルマスが言ってた魚の煮込みあるかな?なんの魚だろうね?」
水差しからコップに水を入れてフェルのそばに行く。
なんか様子がいつもと違うような気がしてフェルの顔を覗き込む。
潤んだ目をして僕を見つめるフェル。
少し顔が赤い気がする。
「どしたの?なんかあった?」
フェルは僕を優しく抱きしめて、「なんでもない」と言った。
立ち上がってお互いに見つめ合い、顔を近づけたところでノックの音がする。
「フェルー、ケイ。帰ってるんだろ?今帰ったぞ」
ガンツの声がする。
2人ともそのまま少し笑って扉を開けにドアに向かった。
魚の煮込み。
結論から言うと最高だった。
たぶんこれ鯛かな?
鯛に似てるその赤い魚は透き通った上品なスープで煮込んであった。
これでごはんがあれば最高だけど、その上品な味は出されたパンととても相性が良くて、ガンツに話さなきゃいけないことはいっぱいあったのだけど僕もフェルも夢中で食べた。
食後に僕はコーヒー。フェルは紅茶、ガンツは酒だ。それぞれ飲み物を頼み、まずはガンツに昨日の報告をする。
ガンツは僕らの帰りが遅いので、ギルドに夕方聞きに行ったのだそうだ。
そしたらもう討伐が完了して全員無事であると報告が来てたので、心配なんてしてなかったらしい。
「遅いから気になってギルドに行ってみれば、オーク退治?オークキング討伐?しかも全員怪我もない。一泊して帰ってくるとか。驚いたがの、心配もクソもなかった。なんせ全員無事なんだからな。どうせケイのことだから、冒険者の奴らにオークの肉でも食わしていたのではないか?」
はいその通りです。ガンツ。
なんだろう。最近フェルにも僕の行動が見透かされてしまってる気がする。
わかりやすいのかな。
ガンツに昨日会ったこと、森の偵察が切り替わってオークの砦の攻略になったこと。
途中シドから狙撃役を任されたこと。
吹っ飛ばされてた金属鎧とみんなの活躍。
そしてガンツが思った通り、夜はみんなで焼肉パーティをしたことをかいつまんで話す。
ガンツはどうやらシドのことを知ってるらしい。
「あー、あのハナタレのクソガキじゃろ。そういや冒険者で一人前になったらワシに剣を打って欲しいとか一丁前に言っておったな。ケイも世話になったことだし特別に何か作ってやるか」
おぉ、シド、伝説の鍛治士がオーダーメイドに答えてくれるってさ。
「シドは短剣使いだよ。あとは弓も使うんだ」
「じゃあ短剣じゃな。相手を見んことには作れんから、いい時に連れてこい」
「ガンツ明後日の夕方は?工房にいる?」
「明後日は……そうじゃな。たぶんいるぞ」
「明後日ギルドに報酬を受け取りに行くから終わったら連れてくるよ。シドのパーティの人たちにはすごく世話になったんだ。他にもたくさんの人に助けてもらって討伐できたんだよ。あ、そうだガンツ、もう1人いいかな?双剣使いの人なんだけど。オークキングに特攻して囮になって殴られたとき、持ってた剣が折れちゃったんだ。2本とも。でもその人が犠牲にならなかったら僕の矢もオークキングに刺さらなかったんだ」
「構わんぞ、ただしもう無理だからな。それ以上は領都にいる間には作れんから、どうしても、ってことなら王都に帰ってからの作業になるぞ」
「ありがとーガンツ。きっとその人喜ぶよ」
「まったくお前は。人たらしと言うかなんと言うか…」
「え?何?よく聞こえなかった。お前が何?」
なんだかよくわからないけどガンツとフェルに笑われてしまった。
「そういえばお前たち明日からはどうするんじゃ?」
ガンツが聞いてくる。
「ライツの弓も壊れちまったんじゃろ。あいつのとこ持ってけば直してもらえるじゃろうが、こっちにいる間は武器がないと依頼も受けられんだろ」
「とりあえず明日はゆっくりするつもり。午後は買い物かな」
今後の予定はまだ考えていない。とりあえず観光でもしてみようと思っていた。
「中央の広場で串焼きを食べるのだ。いろんな店の串焼きを食べ比べるのもいいな、ケイ。この街一番の串焼き屋を探してみるのもきっと楽しいぞ」
「フェルはほんとにお肉好きだね。魚はどうだった?たとえば、今日の煮込みとか」
「うむ、今日の料理は実に美味しかった。鯛とか言っていたか?あのように1匹丸ごと煮込んだものなど初めてだ。王都で食べられないのは残念で仕方ないな」
「王都でも金さえあれば食えるぞ。馬鹿みたいな値段がするがな」
お金か。そりゃお金払えば美味しいもの食べられますよね。
けっこう高いのかな?今日の料理。
「ガンツ、今日の夕飯代は大丈夫なのか?あの料理はけっこう高そうだったが、私たちも食事代くらい払うぞ」
フェルが悩んでる僕の代わりに言いたいことを言ってくれる。
「あー、それについては心配いらん。この宿代も、食事代もじゃな。全部今回の依頼主が払うことになっておる。忙しい中わざわざ仕事を調整してきてやってるからの。多少の贅沢をしても大丈夫じゃ」
「そうなのか、何か申し訳ないな。くれぐれもその依頼主にお礼を言っておいて欲しい。そんなことなら何かお礼を差し上げないといけないかしれん。ケイ、なんかいい考えはないか?」
「お菓子でも作って持っていってもらう?何がいいかな?その前に厨房貸してもらえるか聞かないとね」
「そんな大袈裟に気を使う必要はない。そいつとは古い付き合いでな。貸しも多い。食費が高いとか言い出したらぶん殴ってくるから大丈夫だ」
「そんなわけにもいかないよ、ガンツ。なんか考えるから作ったらよろしくね」
「わかった、わかった。その時はワシが届けてやろう」
「ところでガンツ。この街って屋台が多いけどなんでなの」
「おそらく空いてる店舗がないのが影響してるかもしれん。10年前にはここまで人が増えるとは思わんかったからの。城壁もそんなに広く作らなかったしな。せめて人が増えて住むところだけでもと、家を建て直しておるが、新しく店を作る場所がないんじゃろうな」
「この街って店を借りると家賃高いの?」
「んー。詳しくは知らんが王都よりは安いはずだぞ。空いてる物件があればそんなに金は必要ないはずじゃ。ただし土地を買うとなると今はちょっと難しいかもしれんの。大きな商会は皆ここの土地を買いたがっているからな」
人ごとのようにガンツは言うけど基本的に何も知らない僕たちは頷くことしかできない。
「じゃが店を建てるより屋台を出す方が楽だぞ。屋台なら商業ギルドに賃料を払いさえすれば誰でも開業できるらしいからな、領主の意向もあって賃料も他の街より安いみたいだぞ」
「ふーん。辺境伯さまもいろいろ考えてるんだね。早く借金返せるといいね」
「おぉ、よく知っとるのう。冒険者たちから聞いたか?確かあと2年くらいで返せそうだとか言ってたな」
「へー。ガンツもけっこういろいろ知ってるんだね。
「ワシにはいろんなところから情報が入ってくるからな。伊達に年はくってないわい」
「ガンツって何歳?」
「100歳を越えてからは数えてないのぅ。ドワーフは長寿だからな。ワシの歳くらいでヒトでいう50歳くらいじゃないかの」
「じゃあまだまだ生きられるね。ガンツが死んじゃったら僕が困るから、長生きしてね」
お前みたいな手のかかる若造を残して先に死ねるかと、ガンツは笑顔で怒っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます