第190話 神の目

 190 神の目


 時間は少し遡る。

 

 ケイとフェルが配置についた頃、砦の内部では激しい戦闘が始まろうとしていた。

 マリスたち騎士団はいち早く砦の内部に飛び込み皆が突入するまで砦の中のオークたちを押し留める役目を与えられていた。

 全員が揃うまで先攻する部隊の指揮を取るのはマリスの役目だった。


 リーダーのジンがあらかじめ話した通り、魔法の発動に合わせて冒険者たちが行動を開始する。

 

 ジークとザックが左側の見張りのオークを瞬殺すると砦の中に飛び込んだ。


 それに合わせて私たち騎士団も砦に侵入する。


「ベンは右側だ!とにかく近づくオークを蹴散らせ!野うさぎ!階段の確保!」


 叫ぶと中で待機していたのであろう。オークソルジャー2体と目が合う。


「ロジャーは下がって中央!みんなの侵入を助けろ!」


「ジーク!ザック!ソルジャーを左に引き付けてくれ!」


 ジークは暗器のようなものを投げ、ソルジャーの注意を引く。


「野うさぎ!アーチャーはまだ生きてるからな!気をつけろ!」


 そう叫んて私は左側に走り出す。


 砦の右側の兵舎から次々とオークが溢れ出してくる。

 こちらにはあまり来ないが、真ん中から右側にかけてはオークで溢れかえる。


「ロジャー!1人で行くな!ケインとモーリスを待て!そろったらそこからはモーリスの指示で動くように!」


 叫びながらソルジャーの剣を盾でいなす。ソルジャー2体はちょっときついが、こいつらが中央に行くよりマシだ。


「ジーク、ザック、ここは気合い入れるぞ!どこでもいい、とにかくダメージを与えよう!」


 何回かソルジャーの攻撃を受け止めたところで中央が動く。

 ロジャーたち3人が盾を構え突撃する。

きっと皆、続々と場内に入って来てるはず。


 左上のアーチャーを確認したいが、とにかく目の前のソルジャー2体から目を離せない。


 やばい、キツイなここ。


 中央に砂埃が上がる。

魔法か?中央のオークの集団がだんだんと崩れていく。ジンの指示か?やるじゃないか。


 冒険者で1人だけいた盾使いがこちらに回ってきた、確かワズだったか?ジンのパーティの。


 入って来たワズに気を少し向けた瞬間、目の前のソルジャーが火柱に包まれる。


 ビビった。もう1体のソルジャーはワズに弾き飛ばされ、2体のソルジャーの間に距離ができる。


「バカヤローでかい魔法打つなら打つって言えー!」


 聞こえてるかわからないがとりあえず苦情を叫ぶ。


 矢の放たれる音がして、頭上を何か高速で通り過ぎる。アーチャーか?


 狙いは魔法使いか。なんとかしたいがさっきの炎の魔法をかき消したソルジャーが怒り狂って剣をふるってくる。その相手でいっぱいいっぱいだ。


 大声で叫んだら少し冷静になれた。

 気づくと野うさぎが、ソルジャーの周りのオークを排除している。


 野うさぎは双剣使いだ。一撃入れたらすぐ下がる。素早さを生かしたその攻撃で、1体ずつ、でも確実に数を減らす。

 基本、ジークとおんなじスタイルだが、暗器の類は使わない。騎士団には暗器の所有は認められていないのだ。


「着きました!撃ちます!」


 誰かが上から叫んでいる。


 その声が聞こえたと思ったら、ずっと左上にいたアーチャーの気配が消えた。

 

 やるなあ、ケイだっけ、移動して来たんだな。いい腕してる。


「フェル、さっき打ったアーチャーのところ注意してて!」


 また若者の声が聞こえる。

 大丈夫だ。お前が狙ったアーチャーはもう死んでるぞ。

 教えてあげたいけど、今はそれを伝える手段がない。忙しい。


 野うさぎが私の足元でちょろちょろと動く。


 野うさぎ、たまにはソルジャーを攻撃してもいいんだよ。私なんてすでに命令違反をしまくってここに来ているのだから、お前も少しくらい命令に背いてもいいんだ。というかちょっとこっちも手伝ってくれ。


 なんかちょっと冷静になってきた。


 ワズの方をチラッと見る。

向こうもこっちと状況は同じようなもんだ。盾職1、剣士2の組み合わせ、あちらも膠着状態だ。ソルジャーの攻めを崩せない。


「左手奥にメイジだ、オークの影にかくれ、あ!」


 ジンの声だ、あっ!ってなんだ?


「左手メイジ死亡!残りメイジは1体だ!アーチャーはもう出てこない、みんな目の前の敵に集中しろ!」


 メイジが瞬殺?


 とにかくこっちは目の前のオークソルジャーをなんとかしないと。


 距離をとり指示を出す。


「ジーク、ザック。ワズのところに行け!こっちは少しなら1人で持たせられる!大人数で1体ずつ倒していくんだ!」


 ジークが大きく回り込むようにワズの方に向かう。ザックはそのまま真っ直ぐ突進。


 残された私は1人オークソルジャーに立ち向かう。

 防御に専念して盾を構え、ひとつひとつ積み重ねるようにその攻撃を処理していく。


 もう1体のオークソルジャーは急に加わった2人の冒険者の攻撃に対応できていない。

 あのソルジャーを倒せば、こちらに救援が来る。それを信じて耐えるんだ。

 

 オークソルジャーは特別剣の腕が良いというわけではない。だが筋力が強いため、振り下ろされるその剣をまともに受けるのにはかなり苦労する。

 中途半端に剣で受けようものなら手首を痛めたり、最悪剣が折れる。

 左手に持つ盾で慎重にその攻撃を受け流していった。


 積み重ねるようにひとつひとつその攻撃に対処していくが、そううまくはいかなかった。

 上段から振り下ろされるソルジャーの剣を受け流そうと盾を構えたその時、右側から別のオークの突進をうけてしまう。


 弾き飛ばされ倒れ込む、倒れた私を見下ろし、ニヤリとしながらソルジャーが私に向かってその剣を振りかぶる。

 

 弾き飛ばされた時に盾を手放してしまった私には、この攻撃を防ぐ術がない。

 

 腕の一本は仕方ない。そう覚悟してソルジャーの剣を防ごうと構える。

 

 すみません、辺境伯様。もしかしたら無事に帰ることはできないかもしれません。


 切られる覚悟で左手をあげたその瞬間、剣を振りかぶるソルジャーがゆっくりと倒れる。

 

 素早く起き上がり倒れたソルジャーを見ると、後頭部に一本の矢が突き刺さっていた。


 古い記憶が蘇る。

 この感じには覚えがあった。


 そう、これは神の目だ。




 













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