第188話 たぶん俺だ

 188 たぶん俺だ


 全員が配置に着いた。

 

 俺の合図の後、ロザリーのタイミングで魔法が発動。

 

 魔法の着弾とともに行動開始となる。


 騎士のベンも大丈夫そうだ。2、3分休んだらケロッとした顔をしている。

 あいつ、何なんだ?


 ロザリーに合図を出す。

 それを見た全員に緊張が走る。

 

 この中にいる冒険者は誰もが自分が犠牲になるかもしれないとは考えてない。

 

 どうしたらこの作戦が淀みなく進むのか、そのことだけしか考えていない。

 

 もしかしたらこの中に犠牲が出るかもしれない。


 だが、ここにいる連中はそういったことを考える奴から死んでいくことをよく知っているのだ。


 閃光が走る。


 その後に続き、激しい音をたてて城壁が大きく崩れた。

 

 全力で行けとは言ったけど、強すぎじゃないロザリー?まだ先は長いんだけど。


 音がしたと同時に左からジークとザックが飛び出す。普段はおちゃらけている2人だが、その攻撃の速さには定評がある。

 組んで間もない2人だが、しっかり息のあった攻撃をする。

 

 あっという間に2体のオークが倒れた。


 中央のオークに向かって盾役が3人突撃する。

 倒れたオークに向かって野うさぎが走り込む。素早く首を刈りとどめを刺した。

 

 残りは右側だ。爆発から遠いこともあり、右側のオーク2体はすでに攻撃体制をとっている。

 防壁のアーチャーが弓を構えた。狙いは……まずい、俺だ。


 くっそ。


 とにかく左に向かって全力で走る。やばい撃たれた。

 祈るような思いで前方に倒れ込む。背中を越えて後ろの地面に矢が突き刺さる音がした。


 ケイ、早くアーチャーを処理してくれないと犠牲が出るぞ。

 

 それはたぶん俺だ。


 右手側の見張りのオークは残り一体。


 アーチャーが矢をつがえ狙いを定める

今度の狙いは右側か?


 アーチャーがまだ生きてる!右側!ワズ、お前のとこだ!

 ワズがその声を聞いて、思わずアーチャーの方を見たその時だった。

 弓を構えていたアーチャーがぐにゃりと倒れる。

 ケイだ。やったんだ。


 気を抜くな!アーチャーはまだいる。急いで目の前のそいつを始末しろ!


 騎士団はみんな砦の中に入った。残ってるのはうちのパーティだけだ。

 ロザリーは姿が見えないからきっとどこかで休んでるはず。


 もう一体!右上、新手のアーチャー!そう叫んだ瞬間だった。矢をつがえようとした格好そのままで、上からオークが落ちてくる。


 外にいたオークは全部倒した。


 チラっと上から落ちてきたオークを見るとその首に矢が一本、深く刺さっている。

 ケイ。一撃か。


「みんな!砦の中に!」

 

 そう指示を出す前にはもうみんな走り出していた。


 ちょっと、何?みんな。


 そりゃずっとパーティ組んでるからさ、

いいけど、少しはさ、おうっ!とか返事くらいしてもいいんじゃない?ねえ。


「ジン、置いてくわよ!」


 いつのまにか現れたロザリー。くっそ、俺が一番出遅れてんじゃねーか。


 中に入るとすでに戦いは始まっていた。


 左側、オークソルジャー2体、オークが5?マリスさんとジーク、ザック、他冒険者2名。


 中央、ちょっといっぱいすぎてよくわからない、

 騎士団の盾持ち3人で押し返しているが、攻撃する隙間すらなくて膠着状態。


 右側は金属鎧のベンが1人でオークの攻撃を跳ね返している。

 すげえなあいつ。普段何食ってるんだろ。


 ロザリーが左手の階段の途中から魔法を放つ。

 エアカッターだ。中央の混雑に穴が空いた。


「ワズ!」


 そう叫ぶ前にもうワズはその穴に向かって突撃してる。

 

 俺必要なのかな?


「ロザリー!左の奥からアーチャーが狙ってる。逃げろ!」


 ロザリーもその声で気づいたらしく、階段の途中で身を隠す。

 よし、無事回避した。そして俺の自信も少し回復した。


 右側の壁の上からオークが落ちてくる。2体。

 たぶんケイだ。もう右上は気にしなくていいな。

 ケイにまかせた。


「ジンさん!階段の確保終わりました!このまま遊撃に出ます!」


 野うさぎが左手に向かって走っていく。「ソルジャーは相手にするな!」そう声をかけて、俺はずっと1人で無双するベンのフォローに向かう。

 ここが突破されたらこっちにきたケイが上に上がれない!

 剣を振りながら叫ぶ!


「右側!誰か来てくれ!人数が足りない!」


 その声に反応して中央から2人こちらに駆けつける。

 その2人と入れ替わり俺はまた少し下がった。


 左側にまだいるアーチャーは混戦の中、狙いを定めることができないみたいだ。

 オロオロしてる様子が遠くに見える。


 ロザリーが中央にまた魔法を打ち込む。土魔法だな。これはいい仕事だ。さすがだロザリー。


「中央、落ち着いて対応しろ!あまり奥まで行くな!」


 少し下がった中央チームは確実にオークの数を減らしていく。


 左側やばいな、ソルジャーが強い。人数も足りてない。どうする?


「ワズ!左側に回れ!ロザリー!」


 叫ぶと左手に火の柱が立つ。

 ワズはその火柱に巻き込まれてないソルジャーに突撃して、ソルジャーを後退させた。


 よし、愛してるぞ!ワズ!ロザリー!

 

 「ジン気持ち悪い!」と、どこかからロザリーが叫ぶ。

 おかしいな?俺、声に出してないんだけど。


「ジンさん!」


 後ろから声がする。

 振り向くとフェルとその後ろにケイ。


「ケイ!よくやった!あの階段を登って左手のアーチャーを排除しろ!フェルはケイの後ろから登って、万が一のアーチャーの矢に備えろ。まともに受けるな!盾をナナメに使うんだ!」


 叫んでる間に2人は素早く階段を登っていく。


 あの2人も何気に戦術理解度高いな。

 なんかあんまり指示出さなくてもいいかも。楽でいい。

 

 2人に無視されたような気がするのは、そういうことなんだ。きっと。


「着きました!撃ちます!」

 

 ケイの声が聞こえる。


「任せる!自分の判断でどんどん撃て!」


 そう俺が言う前にヒュッと音がして、左手のアーチャーが倒れた。


 おぉ、シド。確かにあいつお前より弓、上手いわ。




 

 










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る