第187話 マリス
187 マリス
冒険者たちと別れて、できるだけ急いで森を抜ける。
鉄製の鎧では機動力に欠けるな。今回は迅速な行動が肝になる。革装備、盾はそのまま、剣は予備があった方がいいかもしれない。
騎士団の幹部の貴族連中に介入されると厄介だ、あいつらは絶対革の防具とか許さんだろう。
どうしたものか。
出張所に駆け込むと慌てて皆が集まってくる。
すぐに事情を話す。
さて誰がいいか。
頑丈な奴がいいだろう。
必要なのは堅牢な盾役だ。
ケインとロジャーに声をかける。
お前ら革の装備持って来てるか?と聞くとちょうど持っていると答える。
ウサギ狩り用に軽い装備にしたかったらしい。
お前らウサギを狩るつもりだったのか?たしかに昨日の煮込みはとんでもなく美味かったが。
あれは作った奴の料理の腕が良かったからだろう。新鮮なウサギの肉があったとしてもお前たちには到底作れるものではない。
よし、あとは、モーリスか、あいつは硬い。訓練で相手をするとかなり疲れる。とにかく防御が上手すぎる。
たしかモーリスは今日は城だったな。
馬で走って最速10分というところか。
よし私が行こう。その方がいろいろ手っ取り早い。
馬を用意させて、ケインとロジャーに詳しく説明をする。この2人は戦術の理解が早い。理解すれば誰よりも実直に役割をこなしてくれる。私と同じ平民からの志願兵だが、下手な貴族より頭がいいと思っている。
ん?ベンはどこ行った?
聞けば、私が自ら、馬で城に向かうと判断し、私より先に出て、道を開けるよう街に指示を出しにいったらしい。
本来なら勝手な行動を諌める場面だが、とにかく急いでいる今この行動には正直助かる。
きっとあいつ、今頃中央公園の詰め所で、ドヤ顔で指示してるに違いない。
あいつ最近生意気だよな、なんか先読みして行動するし。
頭が悪いくせに、頭の回転のいいやつ。それがベンだ。筋肉バカと周りからは言われている。
よし、ベンも連れて行こう。そんで、罰としてあいつだけ金属鎧だ。
そうしよう。
用意された馬に飛び乗り城に向かう。
手の空いている部下にギルドに連絡を入れさせた。
途中手を振るベンを見つける。
「ベン!出張所で待機してろ!交通整理は3班の奴らに任せておけ。お前も連れてくからな。準備しとけよ!」
「了解しましたぁー!班長どの!3班への指示はもう完了しておりまぁーす!」
くそ。なんかイラッとくる。
よし、戦闘になったらあいつに一番きついところを任せてやろう。
ベンの機転により交通整理が行き届いているせいか、5分くらいで城に着いてしまった。
甚だ遺憾ではあるが、これはベンの手柄だと言わざるを得ない。実に遺憾だ。
駆けつける門番に新しい馬を何頭か準備させるよう伝えて、辺境伯様の執務室に急ぐ。
やや乱暴にノックをして、所属と名前、火急の要件で面会を希望する旨を早口で伝える。
間をおかず、入室を許す。と返事が。
よかった、いてくれた。
執務室に飛び込み森で起こった事態を伝える。
辺境伯様はそれを聞いて、まず、執事に冷たい水を持ってくるよう伝えた。
部屋に辺境伯様と私が残される。
優しい口調で辺境伯様は問われた。
「マリス。お前から何か希望はあるか?なんでも自由にいってみろ」
執事に水を持ってくるように指示したのは人払いの意味もあったようだ。辺境伯様の心遣いに感謝しつつ、要望を伝える。
「冒険者には盾使いが一人しかおりません。最低あと5人、応援の許可を。私の班から、ケイン、ロジャー、それからベンを。そして1班のモーリスを出してください。今回はできるだけ防御が硬い者が適任と思われます。モーリスがいい」
「1班は待機中だったな。よし、許可しよう。それから野うさぎを連れて行け。あいつをうまく使ってとにかく報告は迅速にしろ。それから何か大きな問題が発生したならすぐ緊急の狼煙を上げること。その時は全軍で救援に向かうようにする。装備は何か希望があるか?森だから革鎧がいいんじゃないか?」
「ありがとうございます。お言葉通り、革の装備を希望いたします。私の班は用意がありますので、自分とモーリスの分、それから予備の剣もお願いします」
「それも許可しよう。とにかく急がねばならんな。お前は今すぐ装備の保管庫に行け、書類は後で届けさせると私が言っていたと係のものには伝えろ。なんでも好きなものを持っていけ。モーリスは今日は多分訓練所だ、これから私が言って命令を伝える。お前の班で抜けた団員の補充は3班から誰が向かわせることにする。これも後で私が指示を出しておく。とにかくあいつらに知られる前に急いで現場に向かえ。お前もそのつもりで執務室に直接きたのだろう?越権行為だと後で責められるかもしれんのに。ここに直接来たのはそういうことだと私は理解してるが、どうかねマリス」
「はい。おっしゃる通りでございます」
「難しいことかもしれないが、マリス、参加した冒険者を誰一人死なせるな、そしてそれはお前たちも同じだ、最悪の場合は狼煙をあげ、全て放棄して撤退しろ。領都内に入る前に全軍で迎え撃つ。ギルドには伝えてあるのか?」
「はい。出張所に到着した時、すぐ私の部下をギルドに向かわせました」
「よし、この件がうまく処理できた際には、後で何かの形でその功績に報いよう。だが今は時期が悪い。すまんがすぐに褒美を出せはしないだろう。むしろ帰ってきたところで処罰もありえる。許してくれ。ただ、お前の今回の判断は間違ってはいない。我々に無断でお前が冒険者たちに同行した事も含めてだ」
「ありがとうございます。アラン様。私はこの領都の騎士になったことを誇りに思っております。これまでもこれからも、閣下への忠誠にかわりはございません」
「騎士マリス、この度、南の森に発生したオークの討伐を、辺境伯アランの名において命じる。現場に着いたら冒険者と協力し、事態の収拾に努めること。そして私はこの事態の解決後、参加したすべての者より報告を待っている。誰1人欠けることなく帰還するように」
辺境伯さまはあの時のようにやさしい顔で仰られた。
「さて、行動開始だ。マリス。城門前で落ち合おう」
そう言い残し、辺境伯さまは急ぎ訓練所に向かわれた。
わたしは備品係を訪ね、革装備を2式、予備の剣を5本持って城門に向かう。
ちなみに、野うさぎというのは我が騎士団唯一の女性騎士のあだ名だ。
小さくてすばしっこいことからみんなから野うさぎと呼ばれて可愛いがわれている。
本人は嫌そうだが、我が騎士団の末の娘として皆から大切にされている奴だ。
野うさぎはとにかく足が速い。
そのため伝令役に使われる。体重も軽いので、早馬を使ってもとにかく速い。
城門前に着くとモーリスと野うさぎ、その後を辺境伯様が走ってくる。
馬はすでに用意されていた。
モーリスに革鎧を着せている間に辺境伯様はご自身の馬を用意させている。
どうやら城下で自ら指揮をするようだ。どこかしら嬉しそうにしている辺境伯様を見て、もしかして書類仕事に飽きていたのではと邪推する。
書類は後から持ってくとか、言ってませんでしたっけ?
執事さんが水を持ってきてくれた。
喉が渇いていたので一気に飲み干す。
それから水筒も6本渡される。
そういえばそういう細かいものを集めるのを忘れていた。助かる。有能な執事さんだ。執事さんにお礼を言って馬に乗ると辺境伯様もちょうど出られるところだった。
行ってまいりますと声をかけて、先に出発する。
続けて辺境伯様の馬の足音が聞こえる。
辺境伯様はこれからギルドに向かうに違いない。
とにかく全速力で出張所に向かおう。
野うさぎは私たちを置いてどんどん先をいく。その後を私たちは全速で追いかける。やっばり速いな野うさぎ。
街は馬が駆け抜けても問題ないよう道がきちんと空けられていた。街の人の中にはこちらに手を振る者もいる。
彼らの安全も守らねば。
生きて帰ってこいと言われたが、もしもの場合、私が皆の盾となろう。
10年前の戦争で、初めて義勇兵として戦争に参加して、その功績を認められて騎士になり。
この領都のため、辺境伯様のため精一杯尽くして来た。
この命をこの街に捧げることに今さら何のためらいなどない。
辺境伯様はそんな皆の気持ちをわかっていて、危険な任務にはいつも必ず生きて帰れと念を押すように言うのだ。
そういう方だからどんな状況にあっても私たち騎士たちの忠誠は変わらない。
それは街に住むものたちも同じ気持ちだろう。
とにかく我が領主さまは皆に愛されているのだ。
出張所に着くとすでに馬に乗ってケインとロジャー、それから1人だけ金属鎧を来たベンが待っている。
野うさぎも先に着いていて、もう1人の隊員と2人乗りで待っている。
ベンが、待ってましたとばかりにドヤ顔で説明を始める。そういうところだぞ、ベン。
「班長、森の入り口までは馬でで行きましょう。着いたら乗り捨てて、馬の回収はこいつにやらせます」
そう言って、野うさぎの後ろに座った今年入隊の新人、ダンを指さす。
「少しですが携帯食も用意してます。これは途中で皆で分けるとして、とにかくすぐ向かいましょう」
こうしてなぜかベンの仕切りで、目印をつけた森の入り口に急行する。
到着してみなに声をかけた。
「これより我々はオークの群れの討伐の支援に向かう。作戦は今もすでに進行中である。何よりもまず速度が大事と心得よ。では出発する!」
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