第161話 楽しそう

 161 楽しそう


 適当にレタスとか野菜を挟んでハムとかベーコンとか挟めばサンドイッチは普通にできてしまう。

 そんな単純な料理を、美味しくて、簡単にその場で挟んで食べてもらうためにどう工夫したらいいだろう。

 

 値段も安い方がいいよね。

 もう一個はホーンラビットの肉でも使おうかな。

 簡易で作ったコンソメスープで煮て加熱ばそれなりに形になりそう。

 

 ツナみたいなの作れないかな。

 問題はコンソメスープの素をやたらいっぱいつくる羽目になっちゃうことかな。

 

 夕方の仕込みでやってしまうか。


「前に作ってた粉末の即席スープの素?そんなの前の日に出汁をとっちゃえばいい話じゃない。骨ならたくさんあるんだし」


 サンドラ姉さんにそう言われて、はっとなった。そうだよね。出汁の素を作るのに忙しいってなんか変だ。


「あの粉末スープの素だけど、いつかきちんと完成させてレシピを登録しなさい。きっとみんな喜ぶわ。旅先でも簡単にスープが作れるんだもの」


 そうだ。店で使うとかに関係なく、コンソメスープの素は作り続けていくことにして、いつかきちんとレシピを完成させよう。そしてその時は僕もレシピ登録を最安値でやるんだ。

 中途半端なものにはしたくない。

 がんばろう。


 今日のロイの賄いは美味しいサンドイッチを作るというよりも、ロイの店で売っているパンの紹介みたいなものになった。一個一個のパンがほんとに美味しい。

 そのパンにそれぞれ思い思いに具を挟めて食べる。

 これはこれで美味しいし、楽しいんだけどお弁当として出すには少し大掛かりすぎた。

 

 なんかやっぱり、コレっていう決め手になる具材が欲しいよね。

 

 でもロイがいろいろパンを持って来てくれたおかげでサンドイッチに使うパンは決めることができた。

 あとはサンドイッチの具をどうするかだ。


 夜の営業が始まった。金曜日は冒険者が多い。


「昨日は美味いメシがたくさんあったんだってな。できる時でいいから今度食わしてくれ。ていうか、もうこの店で出してもいいんじゃねーのか?そしたら俺たちも気兼ねなく頼めるんだがな」


「僕なんてまだまだ半人前もいいとこだよ。無理、無理。でもちゃんと仕事ができるようになったら何か新しいメニューを考えてみたいな。あ、炊き出しの時でよかったら何かつまみで出してあげるよ。何がいいか考えとくね」


「くじ引きが外れちまったんだよ。ヒモみたいな白い麺の料理がすげーうまかったって聞いてるぜ」


 うどんのことだな。あれは流石に炊き出しでは出せそうにない。

 でも工夫次第かな?いや、さすがに伸びちゃうし、他の人の目もあるし、難しいな。焼きうどんにしてみる?

 

 ギルドの受付のところにくじが置いてあったらしい。そのうち当たりを引いた20人が昨日ご飯を食べにきたみたい。

 もう少し呼んでもよかったかな?

 まあいいか。


 夜の営業はホールをフェルに任せて僕は黙々と料理を作る。

 サラダとスープを用意しながら明日の賄いのためのスープの仕込みをした。

 

「ねえ、ロイ。明日のお昼にサンドイッチ用のパンを4人分頼むよ。1人2個で8個お願い」


「わかったっす」


「あとハンバーグのタネが余りそうだったら教えて、別に残らなくてもなんとかするから大丈夫だけど」


 通常の仕事はそつなくやれているから、特に師匠に何か言われることはなかった。

 注文の様子を見て付け合わせに使う野菜も仕込んでいく。

 飲み物はサンドラ姉さんにお任せだ。

 なんかカウンターはスナックみたいになってる。

 スナック「サンドラ」だ。

 

「ケイこの分の肉は使っていい。どうせ余るはずだ」


 師匠が焼く前のハンバーグが乗ったトレイを僕に渡す。

 賄いで使う分にはこれだけあれば充分だと思う。


「トマトソース使ってもいいですか?」


「構わん。保冷庫に入っているのから使え」


 炒めたタマネギを少し足して、ハンバーグをほぐしながら炒めていく。

 胡椒を少し多めに入れて。塩とお酒、バジルを刻んで入れる。

 トマトソースを少しひき肉がひたひたになるくらい入れ、お昼に買ってきた唐辛子の粉を混ぜる。

 味見してみてほんの少しお醤油を入れた。


 あとは水気が飛ぶまで加熱すればいい。

 トマトソースとスパイスのいい香りがする。


 フェルと賄いを食べながらときどき様子を見にいく。


 作ったのはタコスミートだ。

 タコライスの上に乗っている少しスパイシーな肉。きっとサンドイッチにも合うと思う。

 出来上がりを味見してみるとまあまあの出来だけど、タコスミートとしては少し物足りない。もっとスパイシーでもいいかも。

 ノートに書き込んでいると師匠が味を見にきた。少し気になっていたみたいだ。


「香草が足りねえな。もう少し複雑な味になってた方がいい」

 

 何をどうすればいいとは言わなかったけれど、師匠から味の感想をもらったのは初めてだ。

 

 そういえば昨日のうどんはどうだったのだろう。何も言われてはいない。


 入れるなら……オレガノ?あとは何か、キツめのスパイスの香りがするもの?

 前にカレー(仮)を作った時に使った香草はなんだっけ?

 確か一番カレーの匂いに近かった香草を使った気がする。


 次の日、昼の仕込みをしていたらサンドラ姉さんが食糧庫にある香草を自由に使ってもいいと言う。


「え?僕あんまり香草の値段しらないんですけど、大丈夫なんですか?」


 主に森で採取していたので街の相場とかあまり詳しく無い。気をつけないとけっこう高価なものもあるから心配だ。


「クライブが何を使ってもかまわんと言っとけ、って言ってたわ」


 サンドラ姉さんが師匠の声色を真似しながらそう教えてくれた。ちょっと似てたから面白かった。


「香草とかなら薬師ギルドに行ってみるのもいいかもしれないわね。薬草と香草は同じ扱いをされることが多いから、ギルドの素材売り場の値段はだいぶ参考になるわ。市場で割高なものを掴ませられたりしないように今度いろいろ見てきたら?あ、でも今は薬師ギルドの会員じゃ無いとギルドの売店は利用できなくなったのかしら?前は大丈夫だったんだけど……」

 

 薬師ギルドか……。登録料って高いのかな?あんまり高いようならメリットがあまり無いかも。


 食料庫であらためて香草とかスパイスを探すと、師匠が補充してくれたようだった。種類が増えている。ひとつひとつ香りと味を確かめてみてなんとなく3種類、選んで持ってくる。


「サンドラ姉さん……この3つ、値段いくらなの?」


 僕の心配そうな顔を見てサンドラ姉さんが笑う。


「心配しなくてもその量だとそんなに値段はしないわ。いいんじゃない?試しに使ってみたら」


 サンドラ姉さんが選んだうちの2つは油で少し加熱した方が良いと言うので少量の油で熱してみた。確かに香りが立ってきた気がする。


 昨日仕込んでおいたタコスミートに混ぜ入れてじっくり弱火で火を通す。

 ふんわりスパイスの香りが厨房に広がった。

 あとは出す前に味を整えよう。


 少し迷いながら作ったせいか、少し味はまとまっていなかったけどおおむね理想に近いタコスミートができた。


 バターを塗ったパンにレタスとタマネギのスライスを挟んでタコスミートをたっぷり入れる。

 パンはあえて焼きたてにはしなかった。


「なかなかいいじゃない。試作としては充分よくできてるわ」


「後から香草を足したりしたから手順があまり良く無いです。味が上手くまとまってない」


「レタスとか刻んでしまってもいいんじゃ無いっすかね。店で出すようにキレイにサンドイッチにしなくてもその方が手間じゃなくて楽だと思うっす」


「ロイは月曜日、もう一個のサンドイッチを何か考えてみなさい。ケイは今日のこれをもう一回、今度はクライブが納得する味に仕上げて。心配しなくてもいいわ。ハンバーグの残ったタネとトマトソースを使ってるってことでクライブの評価はかなりもらえてるから。私たちは食材が乏しかった時代から店を始めているからね。クライブはとにかく食材を無駄にするのが嫌なのよ」

 

 食材が乏しかった時と言えば戦争があった頃だろうか。

 その頃のことはあまり知らない。

 ガンツにもライツにもその頃のことはなんとなく聞けないでいる。

 誰も話をしたがらないってことは多分いろいろ思い出したくも無いような辛いことがあったんだろうと思う。


 仕事の終わりにいつも通り公衆浴場に寄って湯船に浸かる。


 明日は早起きして狩りに行ったあとで市場に行ってスパイスを探そうかな。

 でも冒険者たちからもらった薬草も早くポーションにしてしまわなくては。

 出来上がったポーションはどうしよう。

 ギルドに寄付でもしようかな。


 意外とやることが多くて少し思い悩んでいた僕を見て、フェルが言う。


「なんだか楽しそうだな、ケイ。明日は私も一緒に狩りに行くからな」

 

 

  

 

 

 

 


 

 


 

 




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