第160話 サンドイッチ

 160 サンドイッチ


 みんな楽しそうに騒いでいたけど、夜の9時を過ぎる前にはみんな素直に解散した。

 セシル姉さんが声をかけるとみんなが素直に後片付けして帰っていく。

 

 エリママたちは迎えの馬車で帰り、カインとセラは冒険者たちが送って行ってくれた。なんだかんだでみんな面倒見がいい。


 ゴードンさんたちは暗くなる前に先に帰ってて、ホランドさんとアントンさんは調理場の後片付けを少し手伝ってくれた。


 ライツは明日テーブルとか椅子の片付けに来ると言って千鳥足で帰ったし、ガンツは空いてる部屋でいびきをかいて寝ている。

 

 2人のそれぞれのお弟子さんは笑顔で帰って行った。丸投げか。

 客用の布団を用意しておいてよかった思う。


 生活魔法をうまく使ってパパッと洗い物を終わらせたけど、外は暗いし、テーブルや食器を片付けるのは明日やることにした。


 今フェルはシャワーを浴びていて、僕は今日作った料理のこととかをノートにまとめている。


 パジャマに着替えたフェルの髪をリビングで乾かしながらいろんな話をする。


 ひと段落ついた、と言うわけじゃないけど王都での目標はひとまず達成された気がしてる。

 

 まだ何も始まってはいないのだけれど。

 

 そんなことを考えていたらフェルが僕の顔を見上げて話をする。

 今日も正面で髪の毛を乾かしている。

 パジャマ姿はまともに見られない。ずっと上の方を見てた。


「このところ忙しくて何も出来なかったからな。明日は私は家の片付けでもしようと思う」


「食器とかは朝片付けるつもりだよ。疲れたでしょ?ゆっくり休んでてもいいのに」


「明日もケイは仕事であろう?私は夜からだから外の掃除や布団を干したりしようと思うのだ。最近暖かくなってきたからな。心配しなくてもゆっくりやるつもりだ」


 明日は仕事の帰りに公衆浴場に行って、洗濯をしようと約束して、リビングのあかりを消して寝室に向かった。


「今日は楽しかったな。またこういう会を開いても良いかもしれない。実家の感謝祭のようでなんだか懐かしかった」


 ベッドに入ってフェルがそう言う。


 いつかフェルの実家にも行けるといいんだけど、隣国の状況がよくわからない。

 

 フェルも家族に会いたいよね。無事だと知らせることはできないのかな。

 何かいい方法はないだろうか。


 保冷庫には食材も何もないので明日はロイのお店でパンを買うことにした。とりあえず朝ごはんはそれで済ますことにして、お昼ご飯はお店に食べに来るらしい。

 賄いの時間に店に行くとフェルが言っていた。


 明日の賄いは何を作ろうかな?

 そんなことを考えて眠りについた。


 翌朝、走り込みのついでに買い物をする。

 ロイの店でパンをたくさん買った。

 ガンツも食べるだろう。

 出勤する前に簡単にスープを作っておこう。


 まだ寝ているガンツを残して店に向かった。庭の片付けはフェルがやってくれるみたいだ。

 昨日使った食器を棚に戻して、お店に借りた食器をマジックバッグに入れて店に向かった。


 店の掃除をして朝の仕込みを始める。

 そういえばライツのところのお弟子さんたちがお昼の弁当が欲しいって言ってたな。この時間で簡単に作れるものってなんだろう。


 家で作ってもいいけど、家にいる時はなるべくフェルとの時間を大切にしたい。


 仕込みを淡々とこなしながらサンドラ姉さんにそのことを相談した。


「昨日ケイを手伝ってるスラムの子がいたじゃない。見習いって言ってもしっかり雇うにはまだ早いわね。体力もまだあまりないでしょうし。でも朝の仕込みを手伝うことくらいならできるんじゃない?そしたらケイの手が開くでしょう。あなたが少し早めに来て何か簡単なものを作る時間くらい作れるのじゃないかしら」


「でも、おにぎりとか握ってる時間もあまりないと思うんですよね。全員分のお弁当箱を用意するっていうのも難しいし、用意したとしてもご飯を炊いて、それからおかずを作って、とかいうのも時間がないから難しいかも」


「うちのパン、ケイくんが出勤する前に取りにくればいいんじゃないっすかね。そのくらいならうちでも用意できるっす。作った料理は、なんか簡単な入れ物を考えて、スープは向こうで温められるように鍋に入れて渡せばいいと思うっす。いくらなんでもお茶が沸かせるようにはなってるでしょう」


 ロイがそう言ったことでなんだかどうすれば良いのかが見えてきた。別に16個律儀にお弁当を用意する必要もないんだよね。

 

 スープにパンだけでもとりあえずの昼ごはんとしては成立してる。

 向こうで適当に盛り付けたりしてもらえればこっちで盛り付けの手間も少ない。


「ロイ!すごいよ。いい考えだと思う。まずはみんながどんなお昼ご飯を食べてるかってことだよね。それよりちょっといいお昼ご飯が作れればいいんだ。なんかできそうな気がする」


 そう言うとロイが慌てる。


「それほどいい考えでもないっすよ。手間のかかる味がついたパンはその時間作れないっすから、出せるのは簡単な丸パンとかになると思うっす。いろいろ手間がかかるパンは朝はあまりたくさん作れないから、うちではお昼に向けていろいろ作ることになってるんすよ。丸パンとスープだけの昼ごはんなんてすこし寂しいっす」


「サンドイッチとかにすればいいんじゃないかしら。丸パンに挟めて食べてもらうみたいな感じにして。要は向こうで仕上げをしてもらうのよ。そしたら挟める具材をこっちで用意すればいいだけじゃない。ロイが今考えてるような賄いの料理をもっと簡単にすればいいの」


 ロールキャベツを包んでいたロイが手を止めて少し考え込む。


「確かにそうっすね。自分は完成品を作ることだけ考えていたっす。そうすればそんなに手間もなくお昼ご飯を用意できそうっすね」


 ロイは真剣に考え込んでいる。ロイ。手が止まってるぞ。


「問題はそれを小熊亭らしいっていう感じに仕上げることだと思うんです。ハンバーグを挟めてもいいけど、もっと簡単にするならどんなものを用意したらいいんでしょう」


「あら?ケイ。小熊亭でやろうとしてるの?あなた個人でやってもいいと私は思っていたんだけど」


「個人でなんて考えてもいませんでした。大体働いてる時間に作るんだから小熊亭としてどうするかって普通考えるでしょう。できるだけ前の日に余った食材を使って、仕入れた材料が無駄にならないものにしたいです」


「ケイは変なとこ真面目よね。適当に作って売り上げを自分のポケットに入れちゃえばいいのに。いいわ。しばらく賄いはサンドイッチにしましょう。とりあえず今日はロイ。あなたが作ってみなさい。パンはどんなパンが良いかしらね?朝たくさん作れるのってどんなのがあるの?」


「わかったっす。ちょっと走って行って店からパンをもらってくるっす」


 ロールキャベツを巻き終えたロイが店を飛び出した。あれ?仕込みは?

 僕は残されたロールキャベツを鍋に綺麗に並べて煮込んでいった。


 賄いの時に師匠に相談する。

 みんなでいろいろ考えを出しあったけど、最終的に僕に全部任せるということになってしまった。なんでだ。

 でもそうか。僕が頼まれたんだから。

 

 カインとセラについては一度店に連れてこいという話になった。師匠も2人のことは話には聞いていたらしい。

 

 大丈夫かな?


 パンに挟む食材が思いつかない。店の余り物で作れて、みんなが喜ぶ美味しいもの。

 休み時間にフラフラっと市場に行って歩きながら考えることにした。


 ロバートさんの肉屋の店先で何をするってわけじゃないけどお肉を見ながら考えていたらエマさんに声をかけられる。

 

 うん。確かにちょっと挙動不審だったと思う。


 ちょうど休憩中だったらしくロバートさんも交えて店先でいろいろ相談してみた。


「やっぱり小熊亭といやハンバーグだろう。ひき肉の残りをうまく使えばいいんじゃないか?」


「ハンバーグでもいいんですけど、もっと簡単に作れるようにしないと毎日大変なんですよね。20個も注文はないんだけど、ひとつひとつハンバーグを焼いてたらけっこう大変だし」


「オーク肉のソテーも美味しいわよね。あのソースは小熊亭でしか味わえないわ」


「そうですよね。作り方はまだ教えてもらってないけど、僕、あのトマトソース大好きなんです」


「だったらその2つで何か作ってみりゃいいんじゃないかな。その日に余ったハンバーグのタネはどうしてるんだい?」


 小熊亭では余ったタネは翌日使わない。

 僕はよく知らないけど師匠が適当に残ったものをつまみにして出すらしい。

 それでも残ってしまったものは捨ててしまうんだとサンドラ姉さんが前に言っていた。


「師匠が余った肉を適当に調理して出してるみたいですけど、次の日に調理済みのハンバーグのタネを持ち越すことはしてないですね。その日店に出すものはその日に作ります」


 その余ったハンバーグのタネで何かできないかな?

 ひき肉と、タマネギとニンジン。

 トマトソースの味付けで……。


 何かスタンダードな料理を作れればいいんだと思う。店で使ってる食材をうまくアレンジして。

 小熊亭らしいもの……でもそう考えるとだいぶ料理が限定されちゃう。


 何か定番なサンドイッチを作って、もう一個日替わりで何か作ればいけそうかも。

 店の材料でつくるんだから美味しければもう小熊亭の味でいいんじゃないかな。


 トマトソースって使っていいのかな?

 

 ロバートさんのところで腸詰とベーコンを買って、市場をぶらぶらと歩きながら店に戻った。


 だいたい僕に全部任せるって言うからいけないんだよ。

 小熊亭らしい料理なんて、僕まだ店でハンバーグすら焼いたことがないんだから。


 夜の分の仕込みの作業を始める。

 シチューは僕の担当だ。


 焦げつかせないように注意しながら、サンドイッチのことを考えた。















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