第147話 決まっている
147 決まっている
布団から出ようとしたらフェルもちょうど目が覚めたみたいだ。
暖房の魔道具をつけて着替えをする。
今日の朝は少し冷える。部屋の中なのに吐く息が少し白かった。
震えながら台所に行ってお茶の準備をしつつ台所を温めた。
大鍋を簡易の蒸し器にして、朝食用のおにぎりを温める。
お弁当用に普通のご飯を1合くらい炊いておいた。
コンロの発する熱でだいぶ台所もあったまってきた。
温まったおにぎりは保温箱の中に入れておく。出発前に取り出せばいくらか温かいまま食べてもらえると思う。
フライパンで塩鮭を焼いて、その隣でだし巻き玉子を作る。出汁は多めにして少し濃いめの味付けにした。そして味が目立たない程度にマヨネーズも入れる。
出汁の研究はずっと続いていて、今日の出汁は昨日の夜のキノコの戻し汁に少しだけ鰹節もどきを削って入れておいた物だ。
それを少し煮出してから使ってみた。
支度が終わったフェルが暖房の魔道具を持って来てくれる。
出来たばかりの温かい麦茶を淹れて、ほんの少しお砂糖を足した。
僕の隣でフェルがそれを飲む。
少しフェルの口元が緩んだ気がした。
ふわトロのだし巻き玉子は何度か練習の末、ほぼ完成に近づいている。
出汁を卵液に多めに入れて、出来るだけ半熟のままふんわりと巻いていくのだ。
こうなると卵焼き用の四角いフライパンが欲しくなる。
ちょっと料理道具にお金使わせてもらおうかな?
空いているところにご飯を詰めて残りのスペースにおかずを詰めていく。
だし巻き玉子はどうせリンさんに盗られるだろうから多めに入れてあげた。
少し見た目が地味だけど仕方ない。
小さなお弁当箱にリンゴを剥いて入れたら完成だ。
2段の重箱みたいなお弁当箱があったら便利なのかな?そのうちガンツに頼んでみてもいいんだろうか?
まあお弁当箱の需要がどこまであるかにもよるよね。
フェル手作りのお弁当袋にそれらを入れて、さっきからワクワクしているフェルに渡す。この瞬間がいつも楽しい。
外から馬車が到着する音が聞こえた。赤い風のみんなにあいさつしたら、朝ご飯を渡して馬車を見送った。
やっぱりフェルは心配そうにしていたけど、出発する時は僕にむかって手を振ってくれた。
僕も準備して早く出なくちゃ。
朝ご飯は残った出汁に塩で味をつけて、ご飯にかけてお茶漬けにした、余った塩鮭を解して入れて海苔をちらしたら、まだいろいろ足りてないけど鮭茶漬けの出来上がり。それをフェルに作ったお弁当の余りと一緒に簡単に食べる。
やっぱり出汁だよなー。だいぶ近づいたけど、旨味の感じがまだ足りない。
だし巻き玉子はだいぶ、ふわトロ感が増していて美味しく思えた。あとは出汁がうまく作れればいいのだけど。
片付けは帰って来たらやることにして、水筒に麦茶を詰めたら、装備を着て家を出た。
王都に入る手続きをする南門と違って西門はそこまで混雑することはない。
けれど西門から出る場合は西門からまた王都に入る決まりになっている。
出る時に名簿に自分の名前を書いてギルド証を見せた。
西門を出ると、見渡す限り麦畑が広がっている。まだ早いうちから畑を耕す人たちの姿が見えた。
南門にある道よりも人通りが少なくて歩きやすい。
ゴードンさんの集落に向かって移動を始めた。魔力循環しながら走って向かう。
額に少し汗が滲んできた頃、ゴードンさんの家が見えてきた。
集落の場所は南門からより西門からの方が近そうだと思っていたけど、実際はそんなに時間は変わらなかった。道が少し遠回りだったのだ。
ゴードンさんの家に行き、以前に作った柵のところで狩りを始める。
野菜クズを撒いてホーンラビットを狩った。
少し時間はかかったけど12匹のホーンラビットが狩れたので、ゴードンさん一家に挨拶してから王都に戻った。
西門から入って一度家に帰る。
急いでホーンラビットを解体して、炊き出しの鍋の出汁をとった。
合間でフェルのお弁当に使うふりかけなどちょっとした物も作っていく。
余ったタケノコで煮物も作った。
時計を見たらもういい時間だ。台所を急いで片付けて、まだ少し温かい鍋をマジックバッグに入れて家を出る。
少し遅くなってしまったので中央から乗合馬車に乗ってまずギルドに向かった。
討伐証明の角を提出して、内蔵などのゴミを引き取ってもらう。
受付で今日の狩りをした場所について簡単な報告をした。意外とあっさり報告は終わって、受付の人に次は別の場所にしてほしいとお願いされた。
急いで炊き出しの場所に行って準備を始める。合流したカインとセラと一緒に準備を進めた。
今日作るのは一番最初に炊き出しで作った雑炊だ。
セラが作りながら嬉しそうにしている。
一生懸命背伸びして鍋の中をかき混ぜているセラを見かねて、冒険者の人がどこからか廃材を拾って来て簡単な踏み台を作ってくれた。
どこで用意したのかわからないけど、カラン、カランとベルを鳴らして冒険者達が炊き出しの呼び込みをしてくれる。
なんだかだんだんとみんな進化してるな。どうなってるんだろう。
フェルと出会ってからまだ半年も経っていない。
せいぜい3ヶ月と少しなのに、いつの間にかその存在がずいぶん大きくなってしまった。
いないってわかっているのに炊き出しの最中何度もフェルの姿を探してしまう。
一度「フェル、そこのお醤油取って」と言ってしまったほどだ。
さみしいというのとは少し違う。何かしっくりこないというか、自然な感じじゃないような気がするんだ。
もう日没だから帰り道かな?
今日のお弁当は気に入ってくれたかな?
怪我しないで無事に帰って来てくれるといいな。
最後の唐揚げを揚げたら、フェル達の分の夕食を作り始めた。
多めに作って余った分は冒険者達のツマミになる。
あまり手の込んだものは作れないのだけど、品数だけは多くした。
炊き出しが終わって程なくして、フェル達が帰ってくる。
話したいことがいっぱいあるけれど、まずはじめに言うことは決まっているんだ。
「フェル。お帰りなさい」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます