第136話 幕間 3

 136 幕間 3


「ほんとに部屋は少なくて良いのかい?増築するのはこの部分だけじゃないか」


「じゃからやりすぎるなとさっきから言っておるじゃろう。宿屋より少し使いやすいようになっておれば良いのじゃ。過分なものを用意すると、ケイはもうオヌシには頼れないと思うかもしれんぞ。気を遣って頼み事をしてこなくなっても良いのか?」


「それは困る。私も家内もケイくんたちのことは息子のように思っているんだよ。もっと頼ってもらっても良いと思っているんだ」


「じゃろう。ワシもいつでも弟子にしてやりたいと思っているが、あやつはその気がないようでな。今は料理人としてしっかりと身を立てたいと思っておる。ワシらにできるのはその手伝いくらいじゃな。もっと欲しい物があるなら遠慮なく言って欲しいのだが、そういうことはアイツは一切言ってこん。ワシがきちんと対価を受け取らなければ遠慮してワシのところからも離れていくじゃろう。あれはとにかく誠実なのだ。対等に人と向き合いたいのか、いつも他人に借りを作らないように行動したがる。実際にはワシらの方がもらいすぎなのにな」


「なら仕方ないかな。お風呂くらい作ってあげても良いのだけど」


「そこまでしてもらわなくても良いのだ。王都にはしっかりとした公衆浴場がある。毎日そこに通い一緒に家に帰る。その時間が私は大切だと思うのだ」


「でもお風呂があったら2人で一緒に入れるのよ?ずっと2人でいちゃいちゃできるんだから」


「そ、それは……まだ早いと言うか……私も覚悟が必要で」


「まあ必要になったら言いなさい。それで、これで作業を始めていつくらいにはできるのかしら」


「んー。単純に小屋を半分増築するだけだからな。2日、いや、ちゃんとやりてえから3日だな。納屋も作っておくぜ。そんなに広い家じゃないからな」


「家具はどうしたら良いだろう。全て揃えてあげた方がいいのだろうか?」


「そこも自重する必要があるの。過分に揃えてはあやつは困るだろう」


「必要ならば2人で相談して買えばいいのよ。全くお金がないわけじゃないのでしょう?」


「うむ。ホーンラビットの狩りの情報を公開したからな、金貨で5枚は部屋を借りるのに使うことにして貯金してある」


「必要な家具……か、とりあえずベッドだな。この部屋に収まる大きさで作ればいいんだろ?2人分」


「いや……その、ベッドはひとつでいいのだ。ふ、布団も一組しかないからな」


「なんだ?それならこの機会に布団を買えばいいじゃねーか」


「違うわ。ベッドはひとつでいいのよ。寝具は私に任せて。寸法はあとで送っておくからベッドはちゃんとしたものを作ってちょうだい。間違っても2個つくったら許さないわよ」


「お、おう。わかったぜ。じゃあ引っ越し祝いとしてベッドは俺のところで出そう。それくらい良いよな?」


「ならばうちは魔道コンロを入れよう。ケイくんには必要な物だ」


「ワシは保冷庫をもう作ってしまった。すまないが寸法を教えるのでこの部分をもう少し広げてくれんか?張り切って弟子たちと良い物を作ってしまってな。これではこの隙間に入らん」


「……ずるいぜ、お前だけがケイの欲しい物を作ってやれるって」


「まあ仕方ないの。家具の発注がこれからあるじゃろうから我慢せい」


「他に必要なものはどうしたら良いだろうか?この際全部揃えてあげても良いのだが」


「そうしてやりたいのはわかるがどうだろうな。ケイはあまり喜ばないかもしれん。過分にこちらが物を贈ればそのお返しに何が良いのかと頭を悩ませてしまうと思うぞ。必要なものがあれば自分で買うと言うじゃろうな。あいつはそういうところがある」

 

「だったらその買いに来た時に値引きしてあげれば良いのではなくて?ガンツもそのつもりなのでしょう?」


「そうじゃな。魔道具を欲しがったならばゼランドの商会を通せとでも言っておくか。ワシに直接言われるとどうも原価で売りたくなってしまう。それではゼランドが困るじゃろう」


「そうなんだよ。ガンツ。直接取引をされてしまうとケイくんに表立って援助ができなくなる。それとなくこちらに頼むように誘導してはくれないだろうか」


「すでにあって販売している物ならそうしよう。じゃが新しいものは別じゃな。その完成品はいつものようにオヌシのところに卸すのだが……」


「家具は俺のところに頼むようにしてくれ。お前らばかりずるいじゃねーか。俺だってケイのために何かしてやりてーと思ってるんだぜ」


「それなら棚や生活に必要な家具はライツの所に直接言ってくれと案内をしようか。私の商会を通せばかなり安くできるのだが」


「だからそれがずりーって言ってんだ。少しは俺のところにもよこせって」


「フェルちゃん新居に必要なものはもう考えた?うちの店にあるものならなんでも持って行っていいのよ」


「こら、エリザベス。そういうのがダメだと言っておるだろう。なんでもすぐ用意してはダメじゃ」


「エリママ、カーテンを作るのは難しいだろうか?既製品より手作りの方がケイは喜ぶと思うのだ。どうだろう。私にも作れるだろうか」


「そうね。カーテンは必要ね。大丈夫よ。そんなに縫うのは手間じゃないわ。ライツ、カーテンをかけれるようにはしてあるの?この図面には書いていないようだけど」


「おっと、それは抜けてたな。ガンツ、レールを作っておいてくれ。寸法はこのあと出すから」


「うちも最近忙しくてな。ゼランド、カーテンのレールならこの前納品したじゃろう。在庫で対応出来んか?」


「おそらく大丈夫だと思うよ。長すぎれば切れば良いのだよね。在庫を回すよう指示をしておくよ。エリー、カーテンは普通のものでいいんだよね?金具もいつもの物を使っていいのかな?」


「大丈夫よ。そんなにおかしな物は作らないわ。じゃあフェルちゃん。カーテンに使う布を選びにいきましょう。」


 首脳会議、そう言って良いのだろうか。

 新居を巡っていくつかお互いに約束しあって会議は終わった。


 ベッドは1つで良い。それだけは譲る気はなかった。

 
















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