第135話 手紙

135 手紙


 日曜日。

 市場でタマゴと牛乳を買い、家に戻って朝食を食べる。

 塩鮭は明日おにぎりを作るから多めに焼いた。


 今日は狩りはやらないことにした。ホーンラビットの肉がものすごく安く売っていたからだ。ギルド主導のホーンラビット狩りが本格的に始まったのだ。


 時間ができたので中級ポーションを作る。大鍋で2つ分、60本も作れてしまった。もらい過ぎだよオイゲンさん。

 今度会った時何本か渡そう。

 フェルにも何本か持たせて、一緒に依頼を受ける人達に配ってもらうことにした。


 炊き出しの会場でカインとセラと合流して、みんなで炊き出しの準備をする。


 2人にこの前買った包丁などをカバンに入れて、それをそれぞれに渡すと、2人はこんなのもらえないと、オロオロしていた。

 お手伝いの報酬みたいなものだからと、納得させると、「これからお手伝いを頑張ります」そう言って、そのあと普通の子供らしくカバンの中身を見て目を輝かせている。


 今日来た冒険者に中級ポーションを渡す。引き換えに冒険者たちから今日のつまみの材料を受け取り献立を考えた。やっぱりみんなくじ引きて順番を決めて来ているようだった。


「1人だけハズレを入れとくのが面白れーんだ」


 お酒を飲みながら冒険者が笑って言う。

 今日の炊き出しも順調に終わった。


 一夜明けていつも通り出勤する。

 今日はこの前作ったソースを試す日だ。

 月曜日は厨房の人数が多いのでこの日にソースを仕込むことになっていた。


 今日はロイがソースを作る。


 仕込みを終わらせ、ロイに教えながらソースを作らせる。慣れればソース作りはそんなに難しくない。

 ロイはすぐに覚えて、自分でまた作り始めた。


 出勤して来た師匠に味を見てもらう。


「問題ない」


 今日もそう一言だけ言われる。


 賄いの時にみんなにおにぎりを出してみた。

 今日は梅干しとシャケのおにぎり。

 師匠のところには皿に少しお米を盛って渡した。


「悪くねえな。原価が安いってのがいい。おかわりさせてもまだパンより安いな。問題は仕込みか。実際どのくらい用意すればいいかわかんねーな」


「保温の魔道具も揃える必要があるわね」


 いろいろ課題は残るが師匠は採用する気でいるようだ。


 店で使う揚げ物のソースは師匠がさまざまな野菜や香草を混ぜて作った。レシピを写させてもらうといろいろ勉強になった。たぶんこの香草の組み合わせはオークステーキのトマトソースにも使ってる組み合わせだと思う。


 それから一週間、目まぐるしく働いた。


 客席が増えたことで忙しさが倍増。でも確実に売り上げは上がったと思う。


 休みの日にホランドさんのお店にトンカツを食べに行った。

 開店前に早めに行って行列に並び、ホランドさんに改めて小熊亭の仕事を紹介してくれたことのお礼を伝えた。

 フェルはご飯を大盛りにして、それは相当な量があったのだけど、平気な顔でペロリと平らげた。


 カインとセラはだいぶ料理が上手くなった。セラは他の炊き出しの日も手伝うことにしたらしい。今週から顔役がやっているの炊き出しのお手伝いもはじめるそうだ。


 そして月曜日。


 いつも通りの時間に出勤して、ロイと2人で仕込みを終わらせる。

 サンドラ姉さんのコーヒーを飲みながら指示をもらって開店の準備をする。


 今日は給料日だ。


 給料が出たらじいちゃんに手紙を書くことに決めていた。

 少しだけど仕送りもしようと思っている。


 手紙には書きたいことが山ほどあって、買った便箋では足りるかどうか心配になる程だった。


 賄いを食べたら1人ずつ2階に呼ばれて給料をもらう。

 一番最後が僕で、緊張しながら師匠がいつもいる書斎に向かう。


「ケイ。ひと月よく頑張った。うちでは見習いは銀貨15枚と決めていたが、お前はもう見習いじゃねえ。一人前の料理人として扱う。銀貨25枚をお前に渡す。お前やフェルが来てから店の雰囲気も良くなった。実際店の売り上げも上がったしな。正当な報酬だ。自信を持って受け取れ」


「ありがとうございます!」


 お金の入った封筒はずっしりと重かった。

 嬉しい。頑張って良かった。


「これからも慢心せず努力を怠るな」


 封筒を胸に抱いて階段を一段一段慎重に降りる。気をつけないと階段を踏み外して転げ落ちてしまいそうだった。


 師匠があんなに話すのを初めて聞いた。

 普段は一言だけしか話さないのに。


 夕方来たフェルも給料をもらっていた。最初に話した金額よりかなり上乗せされていたらしい。フェルが困惑していた。


「ケイ。私のことなど気にせず、ゼン殿に手紙を書くと良い。いろいろ報告したいことがあるのだろう。きっと心配しているから手紙を送るなら早い方が良い」


 お風呂から帰って、僕が手紙をいつ書こうか考えていたらそれを察したフェルが僕に言う。


 お砂糖入りの麦茶をフェルが淹れてくれて、それを飲みながらじいちゃんに手紙を書いた。


 靴のサイズも分からずに、フェルの靴を買いに行き失敗したこと。

 

 王都に着いてフェルの靴を買ったらお金が全部無くなっちゃったこと。

 

 ホーンラビットのエサを撒いてフェルがたくさん獲物を狩ったこと。

 

 先輩冒険者に連れられて、ゴブリン狩りに行き、1人だけ遠くで肉を焼いていたこと。

 

 鍛冶屋と大工のドワーフにいつもお世話になっていること。2人に何かお礼をしたいけど、それができなくて悩んでいること。

 

 ホーンラビットの狩りのやり方がギルドで採用されて大騒ぎになってしまったこと。

 

 それが元で冒険者の人たちにウサギと呼ばれて可愛がられていること。

 

 ホランドさんとマリナさん。いい出会いがあって小熊亭に就職できたこと。

 

 ロイ、サンドラ姉さん、メアリーさんと師匠のこと。

 

 忙しいけど、とにかく今が楽しいこと。


 そして、フェルのことを、一番たくさん便箋を使って書いた。


 王都に来て良かった。毎日が楽しい。そしてじいちゃんにとても感謝していることを書いて、手紙を書き終えた。


 読み返すと恥ずかしくなって出しにくくなるから、封筒に入れてすぐ封をした。


 次の日昼休みにギルドに持って行き、銀貨5枚と一緒に配達してもらうよう手続きをした。送料は銀貨1枚だった。


 手紙の最後には同封したお金で返事が欲しいことも書いておいた。

  

 店に戻って仕込みの続きをする。

 お客さんが増えたことで仕込みの量も増えている。

 忙しいのはそんなに辛くはない。

 むしろ無気力だった村での生活と比べれば、はるかに充実している。


 住む部屋の目処が立ったみたいで、次の休みに店に来て欲しいとこの前、店に来たゼランドさんから言われている。


「ケイ。ボーッとしてんじゃねえ。食料庫の在庫を見て、今日のサラダはお前が決めろ。中途半端なものは作るんじゃねえぞ」

 

「はい!」


 王都での生活はまだ始まったばかりだけど毎日が楽しい。

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