第113話 寝坊
113 寝坊
寝坊した。
いつもは大体夜明けと同時に起きるんだけど、変な時間に寝たから起きられなかった。これじゃあよくないよね。給料をもらったら、3男かガンツに相談して目覚まし時計を手に入れよう。
仕事に遅刻でもしたら大変だ。
フェルはもう先に起きていて姿が見えなかった。
お米の炊き上がるいい匂いがする。食堂に行くとフェルが朝ごはんを作ってくれている。ガンツのところのものだろうか、エプロン姿が可愛かった。
「ケイ。おはよう。もう少ししたら起こしに行こうと思っていたところだった。気持ちよさそうに寝ていたのでな。起こさずにそのままにしておいたのだ」
そう言ってフェルは笑顔になる。
今度エリママのところでエプロンを買おう。可愛いやつだ。僕は固く心に誓った。
「どうだ。今日は私が朝食を作ってみたぞ。大体は保温箱に入っていたケイが作った副菜を盛り付けただけなのだが、魚は私が焼いた。味噌汁も私が作ったのだぞ」
腕を腰に当ててエプロン姿でドヤっとしているフェルが可愛い。やばいエプロン効果で可愛さが倍増している。
食卓には昨日作りおいていたおひたしや、下茹でしたブロッコリーとポテトサラダが大皿で並ぶ。大皿に4切れ、焼いた塩鮭も並んでいた。
顔を洗ってパジャマを着替えて戻ると、ガンツもライツももう食卓に着いていた。
寝坊したことを素直に謝るとみんなに笑われた。
「起こそうかと思ったんじゃがの、フェルがもう少し寝かせておけと言ってな。朝ごはんというかもう昼だが、食事は私が作ると張り切っておるからそのままにしておいた。すまなかったの」
みんなでいただきますを言ってご飯を食べる。
「フェル。お味噌汁美味しいよ。料理が出来ないって言ってたけど全然そんなことないじゃない」
「見よう見まねで作った割にはよくできたと思う。だが、ケイが作るようになんでもできるわけではない。魚を焼くので精一杯だった」
「魚だってよく焼けてると思うよ。とっても美味しい。ありがとうフェル」
「これからもたまには私が作ろう。簡単に作れる料理があれば今度教えて欲しいのだ。構わないだろうか」
「うん。じゃあ一緒に作ってみよう。卵焼きとかかな?最初は」
ご飯を食べ終わるとライツは自分の工房に帰って行った。
僕はガンツに炊飯器を作るにあたり、いろいろ質問される。
最終的に炊いている時に鍋の温度をどのくらいで保てば良いのかと言う話になり、圧力をかけて水が沸騰する温度より高温で熱した方がふっくら炊き上がると言ったけど、ガンツはよくわからないようだった。
あとで実験してみるそうだ。
夕方お風呂に入りに行って、いつものようにフェルの髪を乾かす。
洗濯もしたけど、何故かフェルが私がやるのだと言って僕に一切触らせなかった。何故だろう。見られたくないものでもあったのかな。下着とか。
お風呂でリックさんに会った。リックさんはもうあがるところだったので新年の挨拶をして、それからリンさんに伝言を頼む。弓はライツが快く引き受けてくれたということと、ライツの工房の場所を伝えておいた。
公衆浴場にはリンさんも来ていたらしい。セシル姉さんとローザさんは二日酔いで寝込んでいるそうだ。
日が落ちる前にスラムに戻って来てテントを組み立てる。砂糖入りの麦茶を作って、テントの中で2人で飲んだ。
そして布団の中でゴロゴロしてその日は過ごした。夕飯はあるもので簡単にすませて、フェルは編み物の本を読み、僕はノートを整理した。
新しいノートに大事なことは整理して書き直し、明後日からの仕事の準備をした。
いつのまにか眠ってしまったらしい。夜明け前、大体いつも起きてる時間に目を覚ますと、フェルに抱きしめられていた。
暖房の魔道具のスイッチを入れてテントの中が温まるのを待つ。
フェルが起きたので朝食にする。
フェルにスクランブルエッグの作り方を教えて実際に作ってもらった。
最初に中火でしっかりフライパンに油を馴染ませたら火を弱めてじっくりタマゴに熱を通すのがコツだ。こうすれば失敗も少なく半熟のスクランブルエッグが簡単に作れる。
フェルの隣でベーコンを焼き、そろそろ悪くなりそうなほうれん草のおひたしは味噌汁に全部入れた。
魔力循環しながらゴードンさんの家まで走る。久しぶりに走ったから少しキツかった。
息を整えているとゴードンさんに声をかけられる。
「ケイじゃないか。新年おめでとう。こないだは精米器をありがとう。さっそく使ってみたよ。ヘレンも大喜びだった。ああ今日は炊き出しの日かい?帰りにうちに寄ってくれるかな?採れたての野菜をあげるから」
ホーンラビットを30匹ほど狩ってからゴードンさんの家に行く。
箱いっぱいの野菜をもらってしまった。
子供達にも挨拶をして僕たちは王都に戻った。
ギルドで解体して、出会う人たちと新年の挨拶を交わした。リンさんもいて、弓の件でお礼を言われた。リンさんは今日も手伝ってくれるらしい。
ゴードンさんから野菜を山ほどもらってしまったから何か一品増やしたいな。
フェルに相談するとポテトサラダが良いと言う。大量のじゃがいもを潰すのはフェルがやってくれるらしい。
頼もしいです。フェルさん。
先にポテトサラダ用に使う野菜を茹でていたらリンさんがリックさんと一緒に手伝いに来た。
リンさんは本当に料理が上手くなりたいらしくて、今日の雑炊を作るのを任せることにした。
「あたし、こう切ったり、焼いたりするのはできるんだけどねー。味付けするとみんな微妙な顔をするんだー。料理は好きなんだけどみんながやらせてくれないの」
リンさんは野菜を切りながらいろいろ話してくれた。
確かに包丁を使う様子は様になっている。
「へー。スープを作る時にも野菜を入れる順番があるんだねー。アタシ全部一気に入れちゃってたよ」
「それでも構わないんだけどね。でもたとえば人参はよく煮込めば甘味が出るし、じゃがいもは一緒に煮るとにんじんが甘くなるのを待てずに煮崩れしちゃう。ネギとか葉っぱの野菜はあまり火を通しすぎると溶けちゃうし、食感もなくなる。それでも煮込めばちゃんと美味しくはできるからいいんだけど、順番にこうやって作る料理に合わせて茹でていくともっと美味しくなるんだ」
「ふーん。ウサギもいろいろ考えて料理してたんだねー」
「味付けも順番があるんだよ。まずお砂糖から。次に塩。お砂糖はけっこう思い切って入れちゃって後から塩で調節するといいよ。それで酸味が必要なら酢を入れて、あとは味を整えてって感じかな」
「ふーん。この黒いやつはいつ入れるの?」
「これはしょうゆって言うんだけど、味の決め手になる場合は最後に入れてる。あんまり火を通し過ぎちゃうと苦くなったりするし」
「それで今日は最後に少し入れたのね」
「そうそう。とりあえず塩と砂糖を使う時は砂糖が先って覚えておくといいよ。あとは少しずつ味を見ながら足していけばたいてい上手く行くんじゃないかな。濃すぎたら少し水で薄めたらいいわけだし」
「なるほどねーなんかアタシにも出来そうな気がして来た。ウサギありがとう」
リックさんには唐揚げを任せてしまっていた。さすが盾職。安定してなんでも任せられる。
唐揚げはリックさんに任せて、僕は今、リンさんに雑炊の作り方を教えながら次の鍋の具材を用意している。
冒険者たちが3人来て炊き出し会場の整理を始めてくれた。そのうち1人がオークの肉を僕にくれた。昨日はウサギが狩れなくてなとその人は笑って、何かに使ってくれと渡して来た。
冒険者たちが手伝ってくれたおかげで今日もスムーズに配給ができた。
焚き火を囲んでお酒を飲んでいる3人にオークカツを差し入れた。完成したばかりのトンカツソースも添えて。
「お?これ俺が持って来たオークの肉か?すげーうめーじゃねーか。この黒いソースはなんだ?こんなのはじめて食べたぜ」
「定食屋ミナミでそのうち出す新メニューですよ。教えてもらったから作ってみたんです」
「ミナミってお前がこないだまで働いてた店だろう?」
「こんな料理を出すならまた行かないとな」
リンさんたちとフェルにも振る舞って、トンカツ定食はなかなか良い評価をいただけたようだった。
後片付けをして公衆浴場に行き、フェルの髪を乾かしながら明日の予定を2人で話す。
フェルはリンさんたちと依頼を受ける約束をしたそうだ。セシル姉さんとローザさんはギルドで明日会議に参加するらしい。
フェルが先週ずっと受けていた依頼は王都付近のオークの生息数の調査だった。
その調査結果を元にいろいろ話し合うのだそうだ。調査と言いつつも見つけたら殲滅するのでほとんど狩りと変わらなかったとフェルが言う。おかげでけっこう稼がせてもらったと笑っていた。
明日はゴブリンの討伐依頼を受けるらしい。優秀な盾職と斥候がいるのだから大丈夫だろう。終わったら夜に小熊亭に来るそうだ。小熊亭で賄いを食べれるようにそのうち交渉してみようかな。
寝坊するのも怖いので早めに休んだ。フェルは素振りをしてから寝るらしい。
最近弓の練習してないな。ちゃんとやらなきゃ。そんなことを考えながらいつのまにか眠っていた。
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