第57話 生活は続いてる   2024.01.05改定

 57 生活は続いてる     ※タイトル変更


 目が覚めるとフェルにしがみつかれるような体勢になっていた。


 寒かったのかな。最近朝がいちだんと冷えるようになった。

 布団の中から手を伸ばしてボロ市で買った暖房のスイッチを入れる。徐々にテントの中が暖かくなってきた。


 そろそろ本格的に冬が来る。


 なんだかんだともう10日くらい、このテント生活は続いてる。冬服を買った時にエリママが言ったように、最近気温がぐっと下がったように感じる。


 王都では雪が積もることは滅多にないそうだが、冬のための準備はそれなりに必要だろう。

 こうして2人でくっついて寝ていればそれなりに暖かいんだけど。

 冬のテント生活は辛かったと赤い風のローザさんも言っていたし。


 やがてモゾモゾと体が動き出し、フェルが目を覚ました。

 おはようと声をかけて着替え始める。


 外に出ると息が白い。

 焚き火とかするとしたら薪を用意しなきゃいけないよね。どうしようかな。


 顔を洗い食事の支度をはじめる。

 なんとなく朝はご飯と味噌汁というのが定番になってしまった。

 味噌汁を作ってから、ご飯が炊けるまでの間、弓の練習をする。


 あまっている野菜とか、おひたしとかいろいろ使って残り物の野菜炒めにしてしまう。

 お肉はないけど、なんだか朝からボリュームたっぷりの食事になってしまった。


 ギルドに行ってめぼしい依頼を探していると、ギルドマスターから声をかけられる。


「ケイ。ちょっと相談があるんだが、今話せるか?」


 なんだろう。ギルマスが直接声をかけてくるなんて。

 ギルマスの部屋に案内されてソファに座るよう言われた。


 ギルマス自らがコーヒーをいれてくれて、恐縮しつつも一口飲んでみる。美味しい。


「お?わかるか?こう見えてコーヒーを入れるのは得意なんだ。豆もオレが選んでまぜ合わせてるんだぜ」


 僕の表情が変わったのをみてギルマスが言う。

 確かに美味しいコーヒーだ。


「先週はホーンラビットの討伐ご苦労だった。お前たちが先週依頼をこなした村から礼状が届いている。ギルドとしてもその働きに感謝している。まずはありがとう。この時期はあちこちの農村からホーンラビットの討伐依頼の申し出が出ていてな。人手が足りない場合はギルドの職員が出向くこともある」


 そう言ってギルマスは自分でいれたコーヒーを一口飲んだ。


「礼状によるとお前たちの狩りのやり方は少し変わっているみたいじゃねぇか。効率よく討伐できて農家の男たちでも安全に作業ができそうだと、お前たちがこの間行った村の村長からの手紙に書いてあった。その村の村長とは昔からの知り合いでな。お前たちのことをよろしく頼むと書いてあったぞ」


 わざわざ僕たちのことを手紙に書いてくれたんだ。人から感謝されるとやっぱり嬉しいな。


「さて、ここからが相談なんだが。ホーンラビットの被害というのは実際、一件一件で見れば大した被害ではない。だから今まで対策らしい対策は取られてこなかった。だが全体としてみるとなかなかバカにできない数字になってきていてな。王城でも何か対策を練らなくてはならないのではという話が出てきているんだ。そこでお前たちに相談なんだが、お前たちの狩りのやり方をギルドに教えてもらえないだろうか?」


 別に僕としては構わないけど、フェルはどうなんだろう。僕はフェルの方を見た。


「もともとあの狩りのやり方はケイが考えたものだ。ケイの好きにするといい」


 僕の気持ちを察したのかフェルがそう言ってくれる。


「もちろん冒険者にとってはこういった稼ぎになるやり方は秘密にしておきたいものだろう。だがお前たちはあの村でやり方を村の連中に丁寧に教えてきただろ。村長の手紙には無償で狩りのやり方を教える、そういうお前たちを心配するようなことも書かれていたぞ。遅かれ早かれお前たちの真似をする奴らもこれから増えてくるだろう。そうなる前にギルドからこういう狩りのやり方があると、公表してしまった方がいいんじゃないかと思うんだ。今なら考えたお前たちに報奨金も出せる。ギルドとしても新人の冒険者に、安全で効率的な狩りの方法を指導できる。装備が整うまでの駆け出しの依頼としてはこれはかなり有効で価値があると俺は思っているんだが……どうだ?報奨金はそれなりの額を出すぞ?悪い話じゃないと思うが」


 ギルマスは駆け出し冒険者の死亡率を減らしたいと考えていたはずだ。僕としてもその役に立つなら協力したい気持ちはある。

 実際ゼランドさんのところではいろいろ値引きしてもらって、だいぶ助かったのは事実だし。そのきっかけってギルマスからゼランドさんにお願いしたことから始まっているんだよな。


「僕としては全く異存はありません。むしろこれが誰かの役に立つとしたら大いに広めるべきだと思っています」


「そう言ってくれて嬉しいぜ。じゃあ細かい話を詰めるとしようか」


 そのあとギルマスとこれからの予定について話し合う。


 まずは王都に来る途中で滞在した穀倉地帯の街で3日間、僕たちのやり方で狩りをしていくことになった。

 あのユニットバスのあった宿屋があった街である。その周辺で狩りをしながらギルド職員にやり方を教える。

 ギルド側からは2名同行することになった。用意するものなどを聞かれて、バリケードになる柵をあちこちに立てる必要があると思うと言うと、大工も同行させるとギルド長が言った。僕がライツのことを話すと、ギルマスも知り合いだそうで、予定を聞いてみると言っていた。


 出発は明日の午前中。夕方には街に着いて次の日から狩りをはじめることになった。

 急な出発になってしまったのは土曜日には王都に戻りたいと僕が言ったからだ。

 日曜日にはまた炊き出しをしなくてはいけない。


 ギルドを出たのは昼過ぎで、中央の方にある公園でフェルとお弁当を食べた。

 ギルマスが昼食を奢ってやると言っていだけど、もう用意してしまっていたから仕方ない。


 明日の準備をするためにゼランドさんの商会に行った。

 昨日の炊き出しの時に欲しいと思った大きめのザルやお皿を買い足して、暖房の魔道具を見る。


 テントの中に置ける小型のものはボロ市で手に入れたけど、外に置けるようなものとなると、けっこう大きくて値段もそれなりにする。


 レンガみたいなのを積んでかまどでも作ろうかな。そうなると薪を買わなくちゃいけなくなるな。森で木を切っても乾燥させなくちゃいけないし。魔法でいけたりするのかな。薪を作る生活魔法、そんなのあるのかな。


「おぉ、ケイにフェルじゃないか、買い物かの?」


 声をかけてきたのはガンツだった。


「ちょうどいい。お前たちこのあと時間あるか?」


 ガンツはこの前僕が欲しいと言った泡立て器と、ピーラーの商品化の打ち合わせに来ていたんだそうだ、ゼランドさんがこれは売れると、ピーラーを使ってみて興奮気味に言ったらしい。

 今ゼランドさんは材料の手配と、値段を決めるための会議中なんだそうだ。

 長くなりそうなのでガンツはあまり高い値段にはするなと言い残して出てきたらしい。


「ケイ、夕飯を作ってくれないかの。お主が作ってほしいと言ったピーラーというやつと、泡立て器だったか、実際にそれを使って何ができるのか知りたいんじゃ」


 ピーラーと泡立て器を使った料理って難しい。ピーラーはともかく、泡立て器を使うのってなんだろう。


 お菓子でも作ればいいのかな?

 プリンとか?


 市場に行って材料を買ってからガンツの工房に向かった。

 

 

 




 


 




  


 

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