第58話 プリン
58 プリン
「これが泡立て器とそれからピーラーだ。ピーラーの方はまだ調整が必要じゃと思っておる。実際に使ってみて意見をくれ」
泡立て器は前世の記憶のそのままだったけど、ピーラーはかなり大きめだった。
刃の部分だけで15センチくらいあるんじゃないだろうか。そして刃の部分はよく切れそうな業物、という印象。なんだか触るのが怖い。
持ち手は棒状になっていて、軽くするために細くしてあった。
さっそくにんじんの皮剥きをしてみる。
切れる。スパッとなんの抵抗もなく皮が剥けてしまう。けっこう薄く剥けるんだな。でもニンジンを持つ手が怖い。手の皮もスパッとむけてしまうんじゃないだろうか。
「ガンツ!これ切れすぎだよ。もっと刃は切れなくていいんだ。小さい子でも使えるようにしないと。持ち手ももっと小さくして片手で握れるようにして」
紙に絵を描いてガンツに説明する。
「そんなに強度は要らないんだ。その代わりできるだけ錆びにくい金属を使って欲しい。それで子供がお手伝いできるように軽くもして欲しいんだ」
ガンツは僕の描いた絵を覗き込みながらふむふむと頭を上下に動かす。
「刃は切れなくて良いか。そうなると加減が難しいの。そして子供も使える安全なものが良いと。なかなか良い発想じゃな」
ガンツはそう言ってピーラーを持って工房に向かった。なんだかガンツは嬉しそうだった。
さて、夜ご飯は何を作ろうか?
ニンジンを細切りにしてきんぴらの用意をする。
泡立て器があるからな、マヨネーズでも作りたいけど、今日は新鮮なタマゴは買えなかった。きっと加熱しないとダメだろうな。
ガンツがさっきのピーラーの刃の部分を加工して戻ってきた。
さっそくゴボウを笹掻きにするのに使ってみる。ガンツ、まだ切れすぎだよ。スパスパ切れる。
ガンツに割れてしまったガラスがないか聞いてみると、ゴミ置き場からいくつか持ってきてくれた。
指を切らないように気をつけながら、洗って野菜の皮にあてて擦ってみる。
「ガンツ、このくらいの切れ味でもいいんだよ。皮が剥ければいいだけだから。でもできるだけ刃は薄くして、皮が薄く剥けなくなるから」
「ちょっと時間がかかるぞ」
ガンツはそう言って奥に引っ込んでいった。
メインは何にしようかな。
ハンバーグでも作ってみようかな。
ガンツからもらったミンサーでオーク肉をミンチにしていく。ハンドルを回すことで魔道具のスイッチが入るようになっていて、ミンサーのハンドルを回すたびに力強く肉が細かくなっていく。フェルが手伝ってくれるみたいなので、ミンサーで挽肉を作るのをお願いした。
そうこうしている間にガンツが刃の試作品を持ってやってくる。
こんな短時間に3つも。
その中で一番理想に近いものを選んで、それを使いながらガンツにいろいろ注文をつける。
ガンツにも作りやすい形というのがあるみたいで、できるだけ使いやすくて値段を抑えられるような物をお願いした。
ハンバーグのタネを作る。
炒めたタマネギとニンジンをオーク肉とホーンラビットの合い挽き肉に混ぜて成形する。
たぶん肉の味があっさりとしてるから、ソースは少しコッテリとしたものにしよう。
照り焼きソースがいいかな?
フェルと一緒にハンバーグのタネを作る。ガンツに工房で働く人の人数を聞くとガンツも含めて全部で8人いるらしい。
その人たちの分も用意する。今回のことでいろいろ迷惑かけてそうだしね。
おにぎりを作るやり方の応用だとフェルに説明し、2人であれこれ言いながら整形していく。形の悪いものは僕が少し手直しした。
ハンバーグが成形できたら少し寝かしておいて、その時間でタマゴを使ってデザートを作ろうと思う。
作るのはそう、プリンだ。
プリンは実際牛乳とタマゴと砂糖があれば作れる。
単純だからこそ奥深いのかもしれないけど、丁寧に作ればそんなに難しいことはない。
まずタマゴを割り、泡立て器で丁寧に溶いていく。
温めた牛乳に砂糖を入れてそれをタマゴに混ぜる。
味見して少し甘さ控えめなくらいに味を調整した。
ガンツはお酒が好きそうだからな、カラメルソースは甘めにしてみようかな。
ザルを使ってプリンの溶液を濾して準備はできた。
容器はお茶を飲む湯呑みを使った。
鍋に布巾を敷いて容器を並べ蒸していく。蒸し器とかないけど、たぶんなんとかなるだろう。
プリンを蒸している間にカラメルソースを作る。けっこう砂糖っていろいろ不純物が混じってるんだな。一度きれいな布で濾して不純物は取り除いておいた。
蒸しあがったプリンは外に置いて冷やしておく。このところ急に寒くなってきたから、外に置いておくだけでもけっこう冷たくなるはずだ。
さて、ハンバーグを焼き始めよう。
フライパンに油を敷き、熱していく。
数が多いのでフライパンは2つ使った。
ガンツの厨房のフライパンいいな。お弟子さんか誰かが作ったのかな。いつか作ってもらおう。
お肉の焼けるいい匂いに釣られて1人、また1人とガンツの弟子たちだろうか、厨房に集まってくる。
お弟子さんたちにテーブルのセッティングをお願いして仕上げに取り掛かる。
焼き上がったハンバーグを次々に照り焼きのタレに入れていく。
このタレは後で濾して継ぎ足して使っていくつもりだ。
保冷庫がないからな。少し不安だけど頑張って管理していこうと思う。
別で炊いておいたご飯も炊き上がったので次々にお皿に盛っていく。
ピーラーの試しをいろいろしていたから、サラダはニンジンのサラダだ。
細切りにしたニンジンをさっとゆがいてから、ゆで卵と混ぜて塩と胡椒で味付けしたシンプルなサラダ。
開拓村でもらってきた野菜はこれでほとんど使い切った。
ハンバーグときんぴらとニンジンのサラダを皿に盛り付けて、レタスをちぎって少しお皿を飾った。
こうやってちゃんと人に振る舞うように料理を作るのは少し楽しい。
小熊亭の料理を知ったからかな。盛り付けとか、見た目も気にするようになってきた。
最後にガンツがやってきて、テーブルについた。
「ケイ、今日はみんなのために料理を作ってくれてありがとう。皆も感謝して味わって食べるように。ワシらには食前に祈る習慣がないのだが、ケイは何かあるか?あればそれに付き合おうと思うが」
「僕も特にないんだけど……食べる前にはいただきますって言ってたよ。今日の食材を用意してくれた全ての人に感謝しますとか、命をいただくことに感謝しますっていう気持ちなんだけど……」
「良いではないか。いただきます。それでいこう。きょうの料理を作ってくれたケイとフェルに感謝する。いただきます」
「「いただきます」」
「これは小熊亭で出しているハンバーグですか?ソースが少し違いますが……なんですか?これは甘さの中に深みがある味。全く別の料理に思えます!それからこの皿に盛られた、お米ですか?これがまたハンバーグとよく合う」
興奮してガンツの弟子たちが次々と感想を伝えてくる。
「お肉が……小熊亭みたいなものを用意できなかったんです……なのでソースで少し工夫して、お肉の味をごまかすというか、すみません、恥ずかしいんですけどあんまり高級な食材は使ってないんです。でも口に合うようでしたら嬉しいです」
「ケイ、これは美味しいぞ。照り焼きと言っていたが、この肉のソースは最高だ。少し濃いめな味付けだが病みつきになる。ご飯のおかわりはあるか?」
フェルがいつにも増して勢いよく食べている。
「今炊いてるから少し待ってね。あ、そうだガンツ、米を炊く鍋もっと作って欲しいんだ。できれば魔道具になってて、自動でお米が炊き上がるようなものが欲しいんだけど……できるかな?」
「すぐにというわけにはいかんが、何回か試作品を作ってみてになるの。少し金がかかるぞ」
「代金はすぐにっていうわけにはいかないけどなんとかお金は貯めてみるよ。でもまずはフェルの装備を買わないとね」
「そういえばお前たち、ギルドの依頼で遠征に行くのではなかったか?ライツがついていくとか言っておったが」
「あぁ、ライツの予定空いてたんだ。そうなんだよ。ギルドの職員にホーンラビットの狩りのやり方を教えるんだ。報奨金が出るって言ってたからもしかしたらそのお金で残りの装備買えちゃうかもね」
「それならば後払いで良いから全部持っていけ、あとで調整してやる」
「ありがとう!ガンツ。これでやっと安心だよ」
もともとフェルのために防具はしっかり揃えてあげたかったのだ。
これで僕たちの王都での目標がやっと1つ達成できた。
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