第55話 協力
55 協力
次の日。
今日はまずギルドで報酬を受け取る予定だ。
朝ご飯を食べながら、休日なのに炊き出しに結局付き合わせてしまうことをフェルに謝る。
「私なら心配しなくてもいい。休みの日でも訓練はするつもりだったしな。私のことは気にするな。むしろケイの負担が大きいのではないか?私はそれが心配だ」
見ていて気持ちよくなるくらい勢いよく朝ご飯を食べながら、フェルが言う。
今日は目玉焼きともらった野菜のおひたし、味噌汁だ。
そのくらいなんでもないことだと言うフェルにまたお礼を言った。
ギルドで報酬を受け取る。
キラーラビットは銀貨5枚の報酬になった。毛皮などの素材はそこまで高く買い取ってもらえなかった。素材の価値はホーンラビットと実はそんなにかわりないらしい。
ホーンラビットの肉も村にだいぶ配ってしまったので報酬は依頼料と合わせて銀貨50枚だった。
銀貨5枚ずつお互いの口座に入れて銀貨40枚を装備品のための積み立てにする。
次はフェルの盾かな?
ギルドを出てスラムの顔役のところに向かった。
炊き出しをしたいと話すと顔役のおじいさんはとても喜んでくれた。
おじいさんは炊き出しを週2回、火曜と金曜とやっていて、僕たちは毎週日曜日に炊き出しをすることになった。
食器などは貸してくれるそうなので用意はいらないそうだ。助かる。
今日が土曜日なので、炊き出しはさっそく明日から始めることにする。
日曜日は市場の店がほとんど休みになるので今日のうちに買い出しに出かけようと思う。
市場に向かう。
温かい料理で、材料費が安くて、お腹に溜まるもの。
雑炊とかになるだろうか。
いつもは大鍋4つにスープを作って、パンを1個ずつ付けていると顔役のおじいさんが言っていたからそれでだいたいの分量の見当をつける。
予算的には銀貨1枚いかないくらいに納めたい。
まずは米を大量に購入することにする。
いつも米を買っている店の主人が急にこんなに買ってどうしたのかと聞いて来たので、スラムでこれから定期的に炊き出しをすることになったと伝える。
すると店の主人は少し考え込む表情になり、そしてこの量を定期的に買ってくれるならば値段は3割引でいいと言ってくれた。
炊き出しは週1回やっていくつもりなのでこれからもまとまった量を購入することになる。
さらに主人は手紙を書いてくれて、市場の真ん中の方にある調味料のお店に行って店の人に渡せば同じように安くしてくれるはずだと言う。そこは親戚がやっている店なんだそうだ。一度行ったことがあるお店だった。あの時は塩と砂糖を少し買っただけだったけど。
スラムのために何かしたいと思う人たちは街にある程度いるらしい。店の主人は教会に寄付をしているそうだが、一向に教会がスラムのためになにかする様子がないことから、もう寄付をやめようかと思っていたそうだ。
店の主人にお礼を言って今度はその親戚がやっているという調味料の店にいく。
手紙を見せるとその店でも調味料を安く譲ってくれた。
ゴードンさんのところでも炊き出しの話をして協力してもらえないか相談する。
売れ残った野菜をあげるから夕方近くにまた来てほしいと言われた。
さすがにただではもらえないので、いくらかお金を払うことにして一旦ゴードンさんのところを離れた。
お昼を食べに小熊亭に行ったけど、満員で外にもけっこう人が並んでいた。
中を覗くといかつい顔のマスターがカウンターでハンバーグを焼いている。奥の方にはあの長髪のオネエさんの姿も見える。
みんな忙しく働いていた。
けっこう待ちそうだったので、諦めてギルドの食堂で食べることにした。
フェルは食事の後、訓練場に行くみたいだ。
一番安い定食を2人とも頼んで、食堂で昼ごはんを食べた後、フェルは模擬戦の相手を探しに行った。
僕も訓練場で弓の練習をすることにした。
練習場には誰もいなかった。ここでは銅貨2枚払うと練習用の矢を貸してもらえる。初めて来たけどけっこうちゃんとした練習場だった。
なんとなく体をほぐしてから、ライツの弓を構える。
田舎でやっていたように、まずは的の真ん中を狙う。放った矢は吸い込まれるように的の中心を射抜く。
そこからは少しずつ的の下の方を狙って3本、次に的の上の方に3本。体の軸がずれないように意識をしながら弓を射る。
縦に7本矢が刺さった。さすがにきれいに真っ直ぐとはいかなかったけど。
矢を回収して少し休憩した後、もう一度同じことを繰り返す。
ライツの作った弓はすごい。引くのにけっこう力がいるけど、放った矢の軌道が全くブレない。
狙ったところからたまに少しズレてしまうのはきっと僕の体がしっかり安定していないからだ。
フォームを意識して5回それを繰り返せばもう腕の筋肉がパンパンだ。情けないなぁ。
「ずいぶん器用なことしてるじゃないか」
いつの間にかセシル姉さんがそばにきて僕に声をかけてきた。
「見てたんですか?声かけてくれればいいのに」
「なんか集中してるみたいだったからね。一息つくのを待ってたのさ。弓の腕はいい方だと思っていたけど、すごいじゃないか。弓は誰かに習ったのかい?」
「父が狩人だったんです。もう亡くなっちゃいましたけど、弓は子供の頃父から習いました。動かない的にならけっこう当てられるんですけどね、森で狩りをしても全く獲物が獲れなくて。矢を射ろうとすると獲物が気づいてかわされちゃうんです。僕は狩りが下手なんですよ。」
「狩りが下手だって?そりゃおかしな話だね。あんたくらいの腕前があればいっぱしの狩人として充分やっていけると思うけど」
僕は村で狩りをしていた時のことを話す。獲物なんて1週間に一度仕留められればいい方、5年間もほとんど毎日森に入っていたのに狩りの腕は全く上達しなかった。
「今度機会があれば狩りのやり方を教えてやるよ。アタシは弓はそんなに得意ではないけど、リンにでも教わるといいさ」
フェルと合流してギルドを出た。セシル姉さんはまだ訓練場で模擬戦をしていくらしい。
市場のゴードンさんのところに行くと、牛乳屋のおじさんともう1人知らない男性がいた。
「待ってたよ、ケイ。俺も何か力になれないかって思ってさ、とりあえず市場にいる近所の連中に声をかけてみたんだ。こっちは牛乳屋のラウル、そして何こいつは隣の家のマルセルだ。うちで売ってる野菜はこのマルセルのところとうちで採れたものなんだ。いい機会だから紹介しとこうと思ってさ」
「初めましてマルセルさん。それからラウルさんにはいつもお世話になってます」
「いつも牛乳を買いに来てくれてる青年だよね。ラウルだ。ゴードンから話は聞いたよ。うちの店も協力させて欲しい」
「マルセルだ。こないだはホーンラビットを退治してくれてありがとう。おかげでかなり被害が減ったよ。売れ残りや、商品にならない野菜をあげるから使ってくれ」
「俺が市場に来れないときはマルセルが店番してるから何かあったら遠慮なく相談してくれ」
ゴードンさんたちと支払う金額を相談する。さすがにタダではもらえないから、いくらか支払うと言って、結局カゴいっぱいの野菜を銅貨10枚で来週から売ってもらうことになった。
ラウルさんのところは銅貨5枚でその週に余った分などいろいろ用意してくれるらしい。
ちょうど玉子が欲しかったのでラウルさんに相談したら今日余った分を銅貨5枚で譲ってくれた。
ゴードンさんとは来週の土曜日の午後に野菜を受け取る約束をした。
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