第54話 炊き出し

 54 炊き出し


 日の出と同時に起きて、朝食を食べたら作業開始だ。朝ごはんは昨日の残りを使って朝から焼肉丼にした。

 スタミナ満点で気合充分だ。頑張ろう。


 村人の中から3人、解体を手伝ってくれることになった。

 みんなで村の南側から北へ1ヶ所ずつ順番で周って行くことにして、この日の狩りは始まった。

 南側でそこそこ狩って、あたりにホーンラビットの気配がしなくなったあと、今度は東側に移った。けれどそこからが大変だった。

 

 ホーンラビットの流れが全く切れない。

次々に集まって来る。

 キリがないので、一旦フェルにその場を任せて、北側の様子を見に行く。

 北側ではそこまで多く狩れなかった。

 やっぱり巣穴が東側にあるんだ。

 東側からホーンラビットがやって来ているのはもう明らかだった。

 急いでフェルのところに戻る。


 20分も離れていなかったと思うけど、東側に戻ると、おびただしい量のホーンラビットが狩られていた。

 珍しくフェルも疲れてきているようだった。


 フェルに声をかけると、まだ大丈夫だから解体を先にやってくれと言われる。

 手分けして血抜きし、目処がついたところで、狩りを続けるフェルのところへ。

 大丈夫だと言い張るフェルと交代して少し休憩してもらう。


 そのあと何度か休憩を挟みながら狩りを続け、ホーンラビットの流れが止まったのは午後2時ごろだった。


 一休みしてから、巣穴を探しに行く。


 巣穴の捜索には村長も参加して、お手伝いの村人たちも一緒に、慎重に辺りを探して行く。

 30分くらい探して、巣穴がいくつか並ぶホーンラビットの拠点を見つける。

 あたりはホーンラビットの足跡だらけだった。


 試しに餌を撒いて、ホーンラビットが出て来るのを待ってみよう。

 そんな話になって、餌を撒こうと巣穴に近づいてみた瞬間、大きな影が勢いよく巣穴から飛び出して来る。


「ケイ!何か来るぞ!」


 フェルの言葉で身構えたおかげで、手甲でその突進をなんとかかわすことができた。

 すぐにこちらに走り込むフェル。


「少し離れろ!私があいつの注意を引く!」

 

 そう言ってフェルは、わざとホーンラビットの大きな角を剣の腹で殴る。


 ホーンラビットは体勢を崩し、地面に転がる。


 どうやら今のでターゲットはフェルに移ったみたいだ。

 フェルの位置から少し回り込んで、ライツの弓を構える。

 フェルがこちらをチラリとみて頷いた。


 素早いフットワークでフェルに迫るホーンラビット。何度か打ち合ってフェルがその身体を蹴り上げた。宙に浮くホーンラビットは素早く空中で体勢を整え、着地する体勢をとる。その着地する瞬間を狙い矢を放った。

 矢はホーンラビットの心臓を貫き通し、荒れ地の奥に飛んでいってしまった。


「これはもしかしてキラーラビットではないだろうか」


 村長が、ボス個体らしいホーンラビットの死体を見てそう言った。

 キラーラビットは僕たちのパーティ名のもとになった、ホーンラビットの上位種のことだ。

 普通のホーンラビットより2回りくらい大きくてその毛皮の色も濃い。


「まさかここまで大きな巣になっているとは、村の者たちに被害が出る前でよかった」


 まだ若々しい40代くらいの村長が、ほっとしたように言う。

 村でもホーンラビットくらいなら駆除できる人もいるみたいだけど、丸一日かけても4、5匹取れれば良い方で、そこまで時間をかけて間引く人手もないことから、だんだんと放置してしまったということだった。


 巣穴を全て潰そうとした僕らを村長が止めた。

 これを機にホーンラビットの定期的な駆除をして、その肉を村で分配したいのだそうだ。

 そのため今回使った柵と、僕たちの狩りの仕方を真似したい。そう村長にお願いされた。


 特別なことは一切していないし、これで村の人たちの生活が少しでも豊かになるとしたなら素晴らしい事だと思う。

 村長には餌の分量や撒き方など、ほんのちょっとしたことなんだけど、コツのようなものを教えておいた。


 村長はいくらか指導料として払おうと言ったけど、それは丁重にお断りした。

 巣を完全に駆除しなかったのは、変に別のところに巣ができるよりは、大体の場所がわかっていた方が狩りがやりやすいからなんだって。


 村長を含めて村人には怪我をして身体が不自由になってしまった元軍人が何人かいるそうで、僕たちの狩りのやり方なら、そこまで歩き回らなくてもできるから、とても喜ばれた。


 血抜きを手伝ってくれた村人の1人も、元軍人だったそうだ。


「これなら足が不自由なワシにもできそうだ」


 そう言って目を細めていた。 

 その人は足を少し引きずっていた。


 村中の人たちから感謝の言葉を山ほど浴びせられて、さらにお礼だと言われて食べ切れないほどの野菜をいただいて村を出た。


 急いで帰ったけれど、ギルドについたのは午後7時過ぎだった。


 2日間合わせて287匹のホーンラビットと1匹のキラーラビットを納品する。


 ギルドの営業は午後8時までなので、報酬の支払いは明日になるとのことだった。


 ギルドを出て公衆浴場に行く。

たった1日入らなかっただけなのに、もうお風呂が恋しくなっている。

 生まれて15年間ずっと風呂無しだったのに。


 いつものようにフェルの髪を乾かす。

 ゆったりとしたこの時間に幸せを感じる。

 今日はフェルに相談したいことがあった。

 やりたいことができたのだ。


「フェル。ちょっと相談したいことがあるんだけど」


「ん?どうした?珍しいな、ケイが相談事とは」


「今日の村でさ、いっぱい野菜をもらったじゃない。とても食べきれない量の」


「そうだな。悪くなる前にどうにかしないとならんな」


「その野菜を使って、スラムの人たちに炊き出しをしてみたいんだ。前に顔役の人が炊き出しのようなことをやってるって言ってたじゃない。それ僕もやってみたいんだ。もちろんお金なんてないから、できる範囲でのことだけど、できるだけ滋養のつくものを作ってあげたくて」


「良いではないか。ケイの料理ならみんなが喜ぶと思うぞ。しかし、一度やってしまうと、また次も、その次もとお願いされてしまうかもしれないが、それは大丈夫なのか?」


 実はこれまでも僕たちの食事を羨ましそうに見ている子供に、食事を作ってあげたことがあった。お腹が空いて我慢できなくなったらまたおいでというと、子供達が何人かたまにご飯をもらいにくるようになっていたのだ。

 いつか余裕ができたらもっとちゃんとしたご飯を食べさせたいなと思っていた。

 

「炊き出しは休みの日にやることにして、使う食材はホーンラビットを自分で狩ってくればいいと思うんだ。他の食材は、なるべくお金のかからないもので。野菜売りのゴードンさんとかに相談すればなんとかやっていけると思う。もちろん家計に負担のない範囲にするつもりだよ。フェルにも迷惑かけないようにするし、どうかな?」


「迷惑だなどとは全く思わないぞ。むしろケイがやりたいというのなら私はそれを応援したい。私もできるかぎり手伝おう。給仕くらいなら私にもできるだろう」


 フェルは笑顔でそう言ってくれたが、真剣な顔をして。


「ただし、1人で狩りに行くのはまだ心配だ。それに休みなく働いて体調を崩すようならやめさせるからな。しばらくは私も狩りに同行しよう」


 そう付け加えた。

 













  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る