第53話 ウサギ狩り
53 ウサギ狩り
朝起きてフェルを起こして服を着替える。
何故だろう。フェルが僕の方をチラチラと見ている。僕の着替えなんて見てて面白いのかな?別にいいけど。
ホットミルクを作り、身体を温めてから、フェルはいつもの走り込み。僕は弓の練習をする。
身体強化をしなくてもライツの弓をなんとか10回は引けるようになった。
少しずつだけど体力がついてきたことを実感する。
朝食を食べてギルドに向かう。
朝の走り込みをいつものようにこなした後なのに、フェルは「ギルドまで軽く走って行くぞ」と言う。
フェルは軽く流す程度、僕はほぼ全力で、ギルドまで走った。
ギルドにあったホーンラビットの依頼票を剥がして受付に持って行くと係のお姉さんがとても喜んでくれた。
3ヶ月以上も放置されていた、いわゆる塩漬け依頼だったらしい。
報酬は銀貨2枚。複数の人の参加を希望するという内容だが、依頼料は1人銀貨2枚ではなく、この案件で、銀貨2枚。
2人でやったら1人あたり銀貨1枚だ。
素材は自由にして良いとのことだが、条件は悪い。依頼を誰も受けたがらないのもよくわかる。
「受けてくださってありがとうございます。お気をつけて行ってきてください」
受付係のお姉さんに見送られて、依頼を出した集落に向かった。
ゴードンさんの集落から、さらに北に1時間ほど歩けば今回の依頼主の住む集落がある。
依頼主の家に行き、討伐の依頼できたことを伝えると、怒られはしなかったけれど、来るのが遅いなどいろいろ嫌味を言われた。
クズ野菜がほしいと言うと、面倒くさそうではあったけど、好きなだけ持っていけと、大量にくれた。ここでもホーンラビットの被害は結構大きいみたいだ。
今日は柵を作る資材がないので、従来通りのやり方で狩りをする。
餌は少しずつ撒くことにして、何回かに分けて狩りをして行くことにした。
依頼主が僕たちがきちんと仕事をするか様子を見ている。なんか感じ悪い。
依頼主に許可をとって、用水路でホーンラビットの血抜きをする。
次々と狩られるホーンラビットの数に依頼主は驚いていた。
「そんなに狩っても追加料金など払わんぞ」
そんなことを言われたが、気にしないで作業する。
午前中だけで35匹ホーンラビットが狩れた。
午後もう少し狩ったら今日は帰ろうかな。
お昼を食べながらフェルと相談する。
午後にもう少しだけ狩った後、依頼票にサインを記入してもらい、今日は帰ることにした。
依頼主は、どうして日が暮れるまでやらないのかと詰め寄って来たけれど、王都に戻るのに時間がかかるから南門から入れなくなると言い訳してさっさと村を出た。
ギルドに戻る前に、遠回りだったけど南の森に寄り、柵を作るための木材を採取した。
今日やってみて思ったのは、やっぱり柵があった方が圧倒的に楽だし、安全に狩りができる。
なので、次の狩り場ではきちんと柵を準備して作業しようと思っている。
フェルがスパスパ太い枝を切り落としてくれる。どうなってんだろ。その剣の腕前。
今日の成果はホーンラビット47匹。
僕もだいぶ狩るのが上手くなったと思うけど、フェルにはやっぱりかなわない。
フェルの狩った分は2割増しで買い取ってもらえて今日の報酬は依頼料と合わせて銀貨10枚と銅貨20枚になった。
ギルドについたのは結構遅い時間だった。
すでに今日、依頼をこなした冒険者たちが食堂で酒を飲んでいる。
受付には僕たちが最初にギルドに来た時お世話になったサリーさんがいて、詳しく依頼時の状況など尋ねられた。
依頼自体は大したこともないのだけれど、報酬が少なすぎることがよくないと正直に言った。獲物の数が少なければ収入としてはかなり苦しいものになるだろう。
僕にはフェルがいるから戦闘力としては過剰なくらいなので、かなり多くのホーンラビットを狩ることができるけど、新人の冒険者では厳しいだろう。かと言って中堅の冒険者では旨みが少なすぎる。
サリーさんに柔らかくそのことを伝えると、またこの依頼を受けてくれるかどうか聞かれた。
正直に、次受けるかどうかはわからないと伝えると、サリーさんがもう同じ報酬額では依頼を受けないことにすると言った。
いくら先方が困っているからとはいえ、ギルドでも少しどうかと思っていたらしい。
誰も受けたがらない依頼は、結局依頼としては成立していないのだから、次回はもっと公正な額を支払ってもらうことにするそうだ。
酔っ払った冒険者たちが一緒に飲んでいけと絡んできたけど、その誘いをやんわりとかわして、今日も公衆浴場に寄り、お家に帰った。
明日は少し遠くの地域に出かける予定だ。
向こうで1泊して狩りをするつもり。
結構疲れが溜まっていたので、夕食は簡単に雑炊を作って食べた。
雑炊を作りながらホーンラビットの肉を甘辛く煮込んでおいたので、明日のおにぎりの具に使おうと思っている。
こうしていろいろ前日に準備することが出来るようになったのも保温箱のおかげだ。
だんだんと出来ることが増えてきて結構うれしい。
洗い物はフェルがやってくれた。
寝る前にフェルが身体をほぐしてやるから横になれと言い出した。
薄着のフェルにマッサージされるのもちょっと恥ずかしいし、なんかものすごく痛くされるような気がする。
フェルには今日はなるべく早く休みたいからと言って断った。
実は少し興味はあったのだけれど。
次の日、いつものように朝の支度をして、昨日の雑炊の残りを食べて出発した。
僕は少し疲れが残っていたのだが、フェルはいつものように朝の走り込みにも行った。
心配したけど、軽く流して来るだけだから問題ないと言って、いつもと同じように走って行った。
フェルの体力は無尽蔵か。
今日行く地域は、王都に着く前日に宿泊した街と王都とのちょうど中間あたりにある。
集落の規模としては村になるのだけれど、村にはまだ名前がなく、皆が共同生活をしながら助け合って暮らしているところなんだそうだ。
昨日、先輩の冒険者にその地域のことを教えてもらった。
その名もなき村は、依頼主であるそこの村長が、何も無いただの荒れ地から1人で作ったらしい。
10年前の戦争の後、戦地から戻った村長はもらった報奨金とそこからさらに借金をしてその土地を買い、戦争で不幸に見舞われた人たちを集め今の集落を作ったのだそうだ。
怪我をして満足に働けなくなった者、夫を亡くした未亡人、孤児になってしまった一部の子供達。そういう人たちの受け皿になるために、土地を耕し、皆で協力しあって生活を始めた。
依頼料は1人銀貨2枚、5人までなら受け入れ可能と書かれていた。
決して高額な報酬ではないけれど、昨日の依頼よりはフェアな感じがする。
「ウサギ狩りに飽きたら声をかけろよ。いい狩り場に連れて行ってやるからな」
いろいろ教えてくれたその先輩の冒険者は先日ギルドで宴会になった時にいた人だ。たしか名前はブルーノさん。
他のギルド支部はよく知らないけど、南支部の冒険者たちはみんないい人たちだ。
たぶんセシル姉さんの影響も大きいのだと思うけど。
まだ開いたばかりの市場で食料など急いで買い込み、軽いランニング程度のスピードで目的地に向かった。
途中何度か休憩を挟んで、昼前にはその名もなき村についた。
村長に会い依頼を受けにきたことを話す。
村長の案内で被害の多い場所を見て回った。
村の南側、東側それと北東の畑、この3ヶ所だそうだ。東側が何か嫌な感じがする。
東側の奥には巣があるのか、何か大きな気配がする。
試しに北東側で、餌を撒いて狩りをしてみる。
北側から来る奴もいるが、ほとんどは東の方から集まって来る。
やっぱり東側に巣があるんだと思う。
30匹くらい狩った後で、村の人にも協力してもらい、被害の多い3ヶ所に柵を作っていく。
土魔法を使いながら手早く杭を打ち込んでいくと村人たちが驚いた。
便利だけど地味なんだよね。僕の魔法って。
村にあった木材も提供してもらって、夕方には、結構しっかりとした柵が出来上がった。
村人たちは本当にこれで上手く行くのか、まだ半信半疑な感じだったけど、今日わずかな時間で約30匹のホーンラビットを狩ったことで一応信頼はしてくれてるみたいだった。
今日狩ったホーンラビットは村人に振る舞うことにした。明日も村人が狩りを手伝ってくれるらしく、そのお礼も兼ねてホーンラビットの焼肉を振る舞う。
ホーンラビットの肉はオークの肉より淡白な味だけど、自家製のポン酢で食べると、さっぱりして美味しかった。
村人たちも久しぶりに肉をお腹いっぱい食べることができてとても楽しそうだ。
村で消費する食材は僕たちが最後に泊まったあの街で仕入れてくるのだけれど、そこまでいっぱいお肉を買ってくることができず、村の人たちにとってお肉は貴重なのだそうだ。
村長に明日は朝早くからホーンラビットの狩りを始めると伝えて、まだ宴会は続いていたけど、村の隅にテントを張らせてもらって先に休むことにした。
マッサージをしてやるというフェルの誘いを必死に断りその日は早くに眠った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます