第46話 ホーンラビットの香草焼き   改訂

 46 ホーンラビットの香草焼き


 目を覚ましたら隣にフェルがいる。

 それだけでなぜか嬉しくなる。

 

 ご飯が炊けるまでの時間を使って、弓の練習をした。

 今日は6回、綺麗に引けた。


 じゃがいもで味噌汁を作り、腸詰と、昨日少しだけ残していた唐揚げをフライパンで温めて朝食をとった。

 牛乳は飲みたかったけど、今日は市場まで走るのはやめた。


 どうせこのあとセシル姉さんにさんざん走らされるのだ。


 お弁当箱にご飯だけを詰めてマジックバッグに入れて、姉さんたちとの待ち合わせ場所に向かった。今日のおかずは現地調達だ。


 南門に行くとまだセシル姉さんたちは来ていなかった。

 鎧がしっくりこなくていろいろ引っ張っていたら、フェルが肩の長さを調節してくれた。隙間がなくなり鎧はピッタリ僕の体に馴染んだ。


 セシル姉さんたちが来てあの荒れ地に向かう。


 「急ぐぞ」


 また全力で走らされる。

 必死にみんなの後を追いかけた。


 到着したらセシル姉さんが作戦と、配置の確認をして、それぞれ作業を開始する。


 まずはエサを撒いて、ホーンラビットを10体ほど捕まえる。血抜きした血は袋に入れてリンさんが自分のマジックバッグにしまう。

 リンさんはその血を拠点の近くから誘うように撒いて行き、僕は肉の焼ける匂いを森の方向にローザさんの風魔法で運んでもらう。


 ガンツからもらったナイフでホーンラビットをささっと解体する。ガンツのナイフはその切れ味もそうだが、握りやすくて手に馴染むから使いやすい。あっという間に解体が終わってしまった。

 お願いしたらガンツは僕に包丁を作ってくれるかな?でもまだ僕には不相応かも。 

 どんなに道具が良くても身の丈にあってないとね。

 修練にならない気がする。


 ローザさんが、森の近くギリギリに魔法で泥沼を作っていく。


 僕は安全な場所で料理の支度を始めた。

 セシル姉さんたちが魔道コンロを2台貸してくれて、4口のコンロで塩とハーブに漬けておいたホーンラビットの肉を焼いていく。

 

 辺りに肉の焼ける美味しそうな匂いが漂う。


 ローザさんが来て風魔法でそれを森の奥に向かって飛ばしていく。

 

 もっと香りが強い方がいいかと思って醤油を少しだけ肉に垂らした。

 醤油のこげる匂いが食欲を誘う。


 みんながこっちをちらちら見ながら食べたそうにしている。その姿が滑稽で思わず笑ってしまった。


 1回目の肉が焼き終わり2回目の肉を焼いていたらリンさんが戻ってきた。

 

 肉の焼ける匂いは拠点まで届いて来ていて、それに釣られたゴブリンの集団がまもなく到着するとのこと。


 全員に緊張が走る。


 ほどなく森からガサガサと音がしてゴブリンが現れる。


 ゴブリンの集団が僕の方を見てギャアギャアと何か声を上げた。


 ゴブリンは気になるけれど、肉の焼け具合も気になる。肉を少し持ち上げてその焼き色を見た。


 雄叫びをあげながら突進してくるゴブリンたちを前衛の3人があっという間に切り捨てて、死体の山を作っていく。


 僕は肉を焦がさないよう注意しながら、表面をカリカリに仕上げていく。


 ゴブリンの死体の山が、腰ぐらいの高さの防壁のようになったころ、ローザさんが走り込んで防壁の前を通過してこっちに戻ってきた。

 防壁の前にまた泥沼ができている。


 「逃げる時にちょうどいいわ。私、みんなより足が遅いから」


 ローザさんが笑って言った。


 そんなローザさんに笑顔で答えて、別にしておいた香草と、調味料の液体をフライパンに入れフタを閉める。


 上位種、ソルジャー2!ホブ4!


 森からリンさんの声がする。


 「ソルジャーはアタシとリックでやる。フェルはゴブリンを!多少抜かれても前に集中しろ、フォローはローザがする。リン、ホブをやれ!暴れ出す前に始末しろ!」


 セシル姉さんが早口で指示を出す。


 僕はフライパンの蓋を開け、少し料理酒を入れた。


 蒸し焼きにしてやる!


 少し悪乗りし過ぎた。

 

 森から現れた大きめのゴブリン4体のうち2体が投げナイフを食らってその場に倒れる。

もう2体も間をおかず、ナイフの餌食になった。


 フライパンの蓋を開けるといい感じだ。ホーンラビットのお肉は美味しそうに震えている。


 ボロボロの剣を振り回すゴブリンソルジャーは、セシル姉さんがあっという間に一体の首を飛ばし、リックさんもその剣を盾でいなしてとどめを刺す。

 すごい。2人とも強い。


 そして僕はホーンラビットの肉を裏返し、もう片面にもタレがしっかり絡むようにした。


 途中ゴブリン1体が前衛を抜いてこちらに突っ込んできたが、ローザさんが風魔法で瞬殺。

 安定した布陣だ。


 2回目の肉が焼き終わり、3回目の肉に取り掛かる前に、何かスープでもあった方がいいかと思い、トマトベースのスープを作ることにした。

 水を入れた鍋を火にかけ、ささっとニンジンとジャガイモをむき、一口大に切って鍋に入れる。


 大きな体のゴブリンが倒れた。

 ホブゴブリンってやつだろう。

 

 タマネギとホーンラビットの肉を炒めてそれも鍋に入れて煮込んでいく。


 戦いは混戦状態だ。


 ガンツにピーラーを今度作ってもらおう。皮剥きが楽になる。

 買い物メモに書いておく。 


 前衛の3人は防壁から少し下がり、ゴブリンをどんどん倒していく。

 ホブと呼ばれた大きいゴブリンがめちゃくちゃに棍棒を振り回して、前衛を困らせる。


 鍋に入れた具材に火が通るまでの間、少し手が空いたのでライツの弓を構え、その大きなゴブリンの心臓を狙って矢を放った。

 うん、イメージ通りに撃てた。


 放った矢はホブゴブリンの心臓を貫いて森の奥に消えた。


 余計なことをした。


 前衛の動きが止まって、少し場が混乱してしまった。


 セシル姉さんがこちらを見て、親指を立ててハンドサインを送ってきた。どうやらこれでよかったみたい。怒られなくてよかった。

 でも矢の回収が面倒だからもうやめておこう。


 スープにトマトを刻んで入れて、少し酸味の効いた美味しいスープが出来上がった頃、ゴブリンとの戦いも終盤に差し掛かっていた。

 スープに隠し味として少しだけ醤油を足した。


 後方でゴブリンたちに指示をしていた大きめな個体のソルジャーが倒れると、ゴブリンたちは一斉に逃げ出し始めた。

 それをリンさんとセシル姉さんがものすごいスピードで追いかけ、それらを掃討していく。残った前衛の2人は泥沼に足を取られて転ぶゴブリンたちを次々と処理をした。


 僕もものすごいスピードで、昼食の仕上げに取り掛かる。


 そういえばみんな体くらい拭きたいだろうなと思って、手を止めてみんなのためにお湯を沸かしておいた。


 ローザさんが魔法で大きな穴を掘り討伐証明の左耳と魔石を抜いたゴブリンをどんどんその穴に投げ込んでいく。


 セシル姉さんとリンさんが森から戻ってきて、マジックバッグから死体を出し同じように処理をする。

 2体取りこぼしてしまったそうだ。

 拠点の奴らへのお裾分けだな、とセシル姉さんが悪そうな顔で笑った。


 穴は結局2つになり、最後にローザさんが、浄化魔法のさらに上位の聖魔法をかけ、穴を埋め戻して戦いは終わった。


 














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