第43話 似たもの親子
43 似たもの親子
エリーさんの店の2階では、3男が棚に置いている服を器用に立ったまま、たたみ直していた。
3男が僕に気づいて、素早く服を折りたたみ棚に戻す。
「ケイくん!どうしたの?1人?こっちの店にも来てくれてうれしいよー。今日はどうしたの?あ、わかった冬服だね。お金はいくらまで使えるの?一緒に選んであげるよー」
3男がいてくれてよかった。エリーさんだとなんだかんだいろいろ買わせられそうだったから。それでもたぶん僕の予算には合わせてくれるのだろう。安くしてくれるのは助かるが、ちょっと心苦しい。これからもいろいろ買いに来たいので、出来るだけ甘えないようにしたい。
「3男、いてくれてよかったよ。フェルは今、下でエリーさんと服を選んでる。僕は追い出されちゃって、上に3男がいるから服を選んでてって言われて僕だけ2階に案内されたんだ。3男はこっちの店にもいることがあるんだね。けっこう忙しいんだ」
「あはは。うちの母さんはフェルちゃんに洋服を選んであげたいーってずっと羨ましそうに父に言ってたからねー。父と僕だけずるいって、昨日なんか私も門の外でご飯が食べたいわってずっとごねてたんだよ。父が必死に説得してたけど。そんな心配しないで母さんに任せるといいよ。ここでは母さんが一番強いんだー。あれこれいろいろ持ってくると思うけど、母さんならケイくんの予算に強引に合わせてくれると思うよー。実はこっちのお店はあんまり利益とか関係ないんだ。本店で充分利益が出てるからねー、こっちの店は母さんの趣味みたいなお店なんだ。父はここまで店が大きくなったのは街の人のおかげだってずっと言ってるから、そのお礼のつもりもあって母さんの好きにさせてるんだー。赤字になっても怒らないんだよ。僕にはすごい怒るのにぃー」
3男は天井を見上げて悔しそうな顔をする。相当怒られたりしてるのかな?
「3男。それで相談なんだけど、あんまりエリーさんに迷惑かけたくないから、僕の服は安い服で見繕ってくれない?これからもここで買い物したいから、あんまり後ろめたい気持ちにはなりたくないんだ。仕事着にしたいから、動きやすくて丈夫なほうがいいな。あと冒険者用の服も1着お願い。安いのでいいからさー。お金はできればフェルのものを買う方にいっぱい使いたいんだ。フェルにはいつもおしゃれな格好をしてほしいし、フェルの喜ぶとこ見たいから」
「そういうとこがケイくんらしいっていえばらしいけど。そんなの気にしないで母さんに任せちゃえばいいのに、その方がお得だよ。まあケイくんがそう言うなら、ピッタリの物を選んであげるよ。任せてー。今頃母さん自分の娘に洋服買ってあげるつもりでいろいろ揃えてるんじゃないかな?これは私からの贈り物ーとか言って、いっぱい選んでるとおもうよ。母さん女の子が欲しかったってずっと言ってるもん。僕はこんなだし、兄たちはもうけっこういい歳のおじさんだしね。家の中に華やかさがないって僕に言うんだー。僕のせいじゃないのにねー」
独り言を言うように3男はいろいろ僕に話しかけながら、白いシャツ2枚と、薄いブルーのシャツ、下に着る肌着を何枚かもってきた。
「ケイくんは落ち着いたら街で仕事を探すんでしょ?こないだご飯を食べてた時チラッと言ってたからねー。白は清潔感もあるし、2着くらい持っておいた方が良いよー。こっちのシャツはケイくんに似合うかなーと思って。同じ型の色違いだけど、この服は大量に作って安く買えるようにしてるから、けっこう売れるんだー。着てる人も多いかもしれないけど、男ってあんまりそう言うの気にしないからね」
3男はいつものようにマイペースで僕に次々オススメの商品を持ってくる。
「南地区の奥さんたちは旦那さんに着せるってよく買っていくんだよー。うちの人気商品の1つなんだ。それでこっちの肌着だけど、これは少しいいやつを持ってきた。少しだけ他のより高いんだけど、肌触りが良くってねー。しかも汗が乾きやすいんだ。仕事するならこれが良いと思うよ。王都の男の人ってあんまり厚着しないんだ。寒い日でもその肌着の上に1枚このシャツを着て、それで生地が厚めの外套を羽織るんだよ。ガンツのおかげで暖房の魔道具が王都の家庭に広まっているから、お店の中とかはいつもあったかいんだー。外を歩く時だけ外套を羽織ればいいんだよー。あ、中に着るシャツはこっちだよ。好きな色を選んでくれる?」
そう言われて3枚長袖のシャツを選んだ。
値段は特に見なかった。3男にお任せだ。きっと僕の希望に合わせたいい感じの値段のものばかりなはずだ。
3男は僕がシャツを選んでいる間に広げた白いシャツにズボンを当てがっていろいろ選んでいた。
「もっと暖かいズボンもあるんだけど、ちょっと値段が高いんだー。これはどの季節でも着られるズボンで、丈夫だからけっこう長持ちするよー。僕思うんだけど、ケイくんこれから身長伸びるんじゃない?また買い直さなきゃいけなくなるから、とりあえずズボンは1着だけにしよう。洗濯が大変だとは思うけどー、ほら、ケイくんたちが通ってる共同浴場があるじゃない。あそこの裏に洗濯の魔道具があるんだよー。銅貨5枚かかるけど払えば使い放題だしね。洗剤もサービスて付いてくるんだ。そこで洗濯するといいよー。こっちの濃いめの緑のズボンとこの茶色のズボンどっちにする?」
僕は茶色のズボンにした。
パンツと靴下は適当な一番安いものにする。
それから3男が申し訳なさそうに僕を見て言った。
「あとはー、たぶん夜寝る時の服なんだけど。それはたぶん母さんが自分で選びたがると思うんだー。そこだけは付き合ってあげてくれない?母さん機嫌が悪いとちょっと怖いんだー」
僕は笑って了解した。
それから3男は商品を持って、用意してくるから、いろいろ見て待っててと言い残して、選んだ服を持って店の奥に入って行った。
2階の奥には寝具が並んでいる。
それを見ながら時間を潰していたら、3男が商品の入った袋をカウンターに置いて、僕の方にやってきた。
「あー布団ねー。これから寒くなるし必要だよねー。ここに布団とか並べたのは僕の提案なんだよ。男物の洋服を買いにくるのは年配の女性が多いんだー。中には自分で買いにくる人もいるけど、旦那さんの体の大きさを測って買いにくる女の人のほうがずっと多いんだよ。だから生活に必要なものはここに置いた方が売れるんじゃないかって始めたら大当たりでさー。売り上げが伸びたんだよ」
見渡すと確かに、タオルや雑巾など細々した生活用品もいっぱい並んでいた。
「この店は王都では珍しい4階建てになっててさー。3階は布とか、針と糸とかを打ってて、4階は倉庫にしてるんだー。4階に商品を運ぶのは大変なんだけど、ガンツとライツが頑張ってくれてね。4階に直接行ける昇降機の魔道具を作ってくれたんだー」
それを聞いてガンツとライツにさっき会ってきたことを伝える。
3男は嬉しそうに笑い、喜んでいた。とにかく僕が2人に気に入られたことが嬉しいらしい。
そうこうしている間にフェルとエリーさんがやってきた。
フェルは僕がもう服を選び終わってしまったことを残念がっていたけれど、なんとかそれをなだめて、布団を選ぶ。
寝袋の方が良いんじゃいかって思って3男に本店に良いものがないか聞いてみる。するとちょうどいいものがあると言う。
それを聞いてフェルに提案したけと、フェルは布団が良いと言って譲らなかった。
「どうせ一緒に寝るのだから布団は1組あれば良い」
そう頑固に主張する。
良いのかな?一緒に寝るって言っても同じ布団は不味くない?今までは毛布しかなかったから仕方がなかったけどこれってなんて言うの?同衾?
フェルに「人に知られたら大変なことになるよ」とか言ってもフェルは譲らない。
3男に助けてもらおうと目線を送ると、3男はエリーさんに引っ張られて店の奥に消えてしまう。
仕方ないので一番安いダブルベッド用の布団にした。
エリーさんと3男が戻ってきて、エリーさんはパジャマを持ってきた。
それを見てフェルがなんだかもじもじしている。
これから寒くなるからと言ってエリーさんがパジャマの上に羽織れるお揃いのデザインのカーディガンのようなものも持ってきて、それも買うことにした。あーそうか。たぶんフェルとパジャマはお揃いなんだろう。
3男の洞察力がすごい。
あとはタオルを数枚買って、エリーさんの勧めでお揃いの色違いの枕も買った。ちょうど欲しかったからうれしい。
フェルが刺繍はやめて編み物にすると言って3階でエリーさんに道具を選んでもらった。
フェルはエリーさんに本を1冊もらって、それを自分のカバンにしまった。
料理に使えそうな少し目の粗い、濾し布に使えそうなものがあったので多めに買った。
あとはマントね。と言って2階に戻る。
僕の冒険者用の服は3男が選んでくれて、その間にエリーさんが2枚のマントを持ってきた。
縫い直したのはここよ。と指差すが、よく見ないとわからなかった。僕のマントは角が少し黒く染まっていたけど、そんなの気にしないのでそのマントにする。どうせ汚れるし気にしない。マントのお金はいらないそうだ。不良品だから生地として再利用して何かに作り変えるとこだったらしい。
エリーさんが代金は銀貨10枚で良いと言う。
僕がもう少し払いたいと言っても、数字が美しくないとか言って譲らない。
たしか3男もそんなこと言ってたな、大丈夫かなこの似たもの親子。
3男はこうなったらもう母さんは人の言うこと聞かないからあきらめてと僕の肩に手を乗せて、僕は銀貨10枚払って店を出る。
次は本店で買い物なんだけど、3男は僕に水筒を返すからと言って付いてきた。
そして仲良く3人で向かいの本店に入った。
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