第36話 身体強化 2023.12.24改定
36 身体強化
セシル姉さんのパーティはセシルさんを含めて4人。
背の高い痩せ型の男性は剣士のリックさん。
僕より少し身長の低い小柄な斥候のリンさん。
フェルと同じくらいの身長で長い髪を後ろでまとめた魔法士のローザさん。
リックさんとリンさんは茶髪で、ローザさんは綺麗な金髪だった。
パーティ4人が集まると、セシル姉さんの鮮やかな赤い髪が際立って見える。だから赤い風ってパーティ名なのかな?
僕は周りの同じ歳の人と比べたら身体は低い方だ。フェルの方が頭ひとつ分身長が高い。僕より背の低いリンさんは女性でも小柄な方だろう。
ぼんやりリンさんを見てたら、回し蹴りをされた。今身長のこと考えてたろ、お前だってちいせーくせに。とリンさんに馬鹿にされた。
ちゃんとした食事を摂れば身長だってもっと伸びるはずだ。保冷庫を買ったら毎日牛乳を飲もう。探せば市場にきっと売ってるはずだ。
ローザさんとセシル姉さんが、まずは魔力の循環のやり方を教えてくれる。リンさんはその様子を見ながらときどき茶々を入れて来る。
フェルとリックさんは遠くの方で模擬戦をしている。リックさんは中型の盾を使うみたいだ。
ローザさんが僕の背中に手をあてて、魔力を流しそれを動かす。
10分くらい練習して僕もその感覚が掴めた。
毎日この魔力循環を練習して魔力のコントロールが上手くなれば、魔法を使うのが楽になり、その威力も上がるのだそうだ。普通は親とか、教会の神父とかからみんな教えてもらうのだそう。ローザさんには魔法の才能があって、独学でマスターし、メンバーに孤児院で魔法をおしえたんだそうだ。
ローザさんは、闇魔法以外全ての属性に適正があり、聖魔法も使えて、なんと上級の回復魔法も使えるんだそうだ。
たまにギルドの治療院を手伝っているらしくて、腕を切られても、切られた腕を捨てずに持ってくれば多少時間がたってても繋げてあげると言っていた。
その魔法の才能と美しい容姿のせいで教会の司祭に目をつけられ、女好きのとある大貴族の側室になることを勧められたが、のらりくらりとそれをかわして、成人したらすぐ孤児院を出たらしい。
お金がなかったので僕たちのようにテントを買い、スラムでひと月野営しながら4人で生活したのだそうだ。
「あの時は冬だったから寒くて辛かったわ。寒くて我慢できない時はみんなでくっついて眠ったの」
そう言ってローザさんは笑った。
魔力を循環して練り込んだら、今度はそれを体全体に広げていけば身体強化の魔法になる。慣れれば一瞬でできるようになるから頑張って練習するようにと言う。足だけ強化すれば全体を強化するよりもっと素早く動けるようになるとリンさんが教えてくれた。
魔法の威力も魔力循環して魔力をもっと練り込めば威力が高まると言われたので、練り込んだ魔力でドライヤーの魔法を使ったが、少し温度が上がった程度だった。
「ま、才能っていうのもあるわよね。でも諦めないで練習するのよ」
ローザさんになぐさめられた。
その後身体強化の魔法を練習する。体全体に魔力を広げるのは難しかったが、練習していると何かがカチッと噛み合ったような感覚があり、僕も身体強化の魔法が使えるようになった。
こいつ足でも魔法が使えるんだぞ、とセシル姉さんが言い出して、ローザさんとリンさんにやり方を教える。2人ともすぐコツを掴み、リンさんは回し蹴りに風の刃をまとわせて、ローザさんは僕みたいに足元の土を柔らかくした。
調子に乗って歩きながら土を柔らかくしていたらギルドの職員さんに睨まれたので慌てて土を固めた。その様子をローザさんがみていて、なるほどといった表情をする。どうやら何か掴んだみたいだ。
汗を拭きながら模擬戦から2人が戻って来た。フェルの表情は明るかった。いい鍛錬になったみたい。
少し休んだらセシル姉さんにスラムの顔役を紹介してもらう。
けっこう年配の人で、ちゃんとした仕事に就いていて蓄えもあるらしいのだが、10年前に戦争から戻ってきてからはスラムに小さな家を建て、ここに住む人の支援と配給などもやっているんだそうだ。
スラムの一角を案内されて、テントがあるならこの辺りがいいと教えてもらう。ここならあまり人も来ないので、貴重品以外なら多少荷物を置きっぱなしにしても大丈夫だそうだ。
大きな木があって、雨の日はその下で料理すれば、びしょ濡れになることもなさそう。目印に折りたたみの丸テーブルを置いてギルドに戻った。あとで防水の布でも買えば置きっぱなしにしても大丈夫そうだ。
公衆トイレが少し遠いのが難点だけど、臭いがするよりはいいと思う。
その後またギルドに戻った。セシル姉さんが食堂でご飯を奢ってくれるそうだ。
報酬も支払ってないのに悪いよというと、草刈りの手間が省けて助かったから大丈夫だ、と強引に連れていかれる。仲のいい冒険者の人たちも紹介してくれるそうだ。
ギルド戻ったらもう日が沈みかけていた。
食堂にいた冒険者達も巻き込んで、乾杯をする。僕たちはお酒が飲めないので果実水だ。
適当にじゃんじゃんもってこいとセシル姉さんが注文してたくさんの料理がテーブルを埋める。出てくる料理は食べたこともないものもいっぱいあって、気になったものは食堂のマスターに作り方を教えてもらった。
宴会の様子を見て、どんどん冒険者達が増えていく。セシル姉さんが紹介してくれたおかげでみんな優しくしてくれる。
この日はとても楽しかった。はじめてギルドの一員として認められた気がした。
最後の方にはギルドマスターも参加して、こっから先はオレの奢りだ、好きなだけ飲めと言ったのでみんな大喜びだ。
ギルマスが僕たちのところにきて、今日の討伐の話になる。
「おまえらパーティ登録してないだろ、パーティ名キラーラビッツで登録しといたぞ。セシルが少し手伝ったと言っても、1日236体のホーンラビットを持ってくる新人ははじめてだ」
ギルマスは大きな声で笑った。
それを聞いた冒険者が今度奢ってくれと言い出すが、セシル姉さんが新人にたかるんじゃないと叱る。
10時になる前に僕たちはみんなに挨拶をしてギルドを出た。公衆浴場は11時で閉まるのだ。
遅めの時間でもお湯はきれいだった。ちゃんと循環して浄化しているんだろう。
外は少し寒かったので受付前の休憩スペースでフェルを待った。フェルに冬用の服を買ってあげたいな。
明日は休みにするつもりだ。きっとホーンラビットの数も少ないだろう。
明後日はゴブリンに食べられる前にもう少しホーンラビットを間引いておこうと思っている。
来週からは狩りの場所も考えなきゃいけないな。
フェルが来たので髪を乾かしてあげる。
魔力循環のおかげで、これまでより優しく風を吹きかけられるようになった。上を向いて気持ち良さそうな顔をするフェルを見て、少し欲情してしまったのは秘密だ。
あかりの魔道具を照らしながらテントを組み立てて、フェルと中に入る。ちゃんと下には草を敷いた。昨日より乾燥していて、草の匂いもあまりしなかった。
麦茶を淹れて、お砂糖を少し入れてフェルに渡す。
フェルが自分の隣を手で叩き、もう少しこっちに来いという。
テントの中で2人で寄り添って座れば、暖かくて心地よい。
少しずつ生活が変わっていく。靴屋で全財産ひっくり返して、頭を下げたことがもう懐かしく思えてしまう。
フェルともいろいろあったな。
少しずつ仲良くなれている気がする。
何気なくフェルの方を見ると、フェルも同時に僕の方を見た。
目線があって2人とも笑顔になる。
そのあと今日あったことをいろいろ話して、話疲れたら、毛布を重ねてまた2人くっついて眠った。
フェルが僕の手を握る。
少しためらいがちにその手を軽く握り返す。
その手のぬくもりに吸い込まれるように眠りに落ちた。
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