第35話 作戦
35 作戦
「今日のアンタたちの様子を見させてもらう限り、3日後のゴブリン討伐作戦に混ぜても全く問題ないと思ってる。ゴブリンの拠点は南の森、さっきの場所から1時間ほど森の奥に入って行った場所にある」
セシル姉さんは拠点のある方向を指差して続ける。
「参加するパーティはアタシたちを含めて6組、Bランクが4組、Cランクは2組だ。キングや他の上位種がいたとしても、この戦力はゴブリンの殲滅の戦力としては過剰すぎる。ギルドからは徹底的に根こそぎ駆除しろと言われている。まぁ、王都に近いからね。仕方ない」
そしてセシル姉さんはニヤリと笑い。
「そこでアタシ達は別行動することにした。突撃前に拠点のゴブリンを誘き出し間引くことを提案した。うまくやればこっちの方が突入部隊よりいい稼ぎになる。上位種が何体かこっちにくれば、向こうの部隊と同じくらい稼げるはずだ。向こうは参加したパーティで等分するが、アタシらは丸ごとパーティメンバーで山分けさ。こっちの方が割りがいい。頭数が多すぎるんだよ。たかだかゴブリンキングごどきにこんなに人数集めて」
そしてさらにセシル姉さんは悪そうな顔になる。
「さて、アタシらの作戦はこうだ。その辺のホーンラビットを捕まえて、その血の匂いでゴブリンを誘導する。そう、アンタ達が今日やったみたいにね。誘導したゴブリンをこの荒れ地に誘き出し、まとめて片付ける。アタシが草刈りでもしようかと思っていたって言ってたのは、ここをその作戦で使うつもりだったからさ。拠点に偵察に行ったのはアタシ達だからね。作戦の段取りはもう完璧さ」
「セシル姉さん。ゴブリンは狩った魔物を調理して食べないの?」
「そりゃあゴブリンだって食い物はうまい方がいいに決まってるさ。けどせいぜい焚き火で炙るくらいだね。キングがいるような大きな拠点になれば汁物を作ったような跡があったりするけどね。今回のゴブリンの拠点にもおそらくキングがいるだろうから。なんかしら煮炊きして獲物を調理して食べてるんじゃないか?」
「キングの報酬ってけっこう高額になるんじゃないの?セシル姉さんたちはそっちに回らなくてもいいの?」
「報酬はいいがあいつ体がでかいからめんどくさいんだ。みんなで囲って削ってから倒すんだけどね。けっこう固いからなかなか削れないんだ。それに面倒なアーチャーやメイジは基本拠点から出ないからね。拠点を攻略するにはそいつらも処理しなくちゃいけない。あっちに混ざれば指揮もさせられそうだし、めんどくさい相手と戦わなくちゃいけなくなる。それに比べたらこっちは雑魚のゴブリンの相手して、楽してぼろ儲け。ざまみろライアン。アタシに全部丸投げしやがって。たまには自分で指揮を取れってんだ」
ライアンというのは南支部のギルドマスターの名前らしい。ギルマスが冒険者だったころ、新人のセシル姉さん達はけっこう面倒見てもらったらしい。僕はさっき思いついたアイデアをセシル姉さんに話してみた。
「姉さん。ホーンラビットの肉を焼けばもっといっぱいゴブリン集められないかな?今日僕たちがいっぱいホーンラビット狩ったから、きっと食料が少なくてゴブリンたちもお腹が空いてると思うんだ。拠点まで匂いが届くかわからないけど美味しそうな匂いで釣り出せないかな?」
セレナさんは顎に手をあてて考え込む。
「ローザの風魔法ならいけそうだね。それで血の匂いも混ぜれば……いいじゃないか。やってみよう。じゃあケイは後方でホーンラビットの肉を焼きな。討伐が終わったらアタシらの食事にするから美味しく作るんだよ。護衛にはうちの魔法士をつける。フェルはアタシともう1人の剣士とで前衛だ。もう1人、アタシらのパーティに斥候役のやつがいるんだが、そいつは誘き出す役目と、戻ってきたら自由に遊撃させる。アタシ達だけだとちょっと忙しすぎると思ってたからね。アンタ達が入って人数もちょうどいいよ」
そのあと僕は南の森の近くを戦いやすいように整地した。その間残りの餌を使ってフェルとセシル姉さんはホーンラビットをもう少し間引いた。森からゴブリンが3体血の匂いに惹きつけられて出てきたらしい。討伐証明である左の耳を切り取った。
セシル姉さんのマジックバッグは時間停止の機能がついてたので、狩った獲物とゴブリンの死体はそれに入れてギルドで処理することにした。ギルドではスライムを飼っていて、ゴブリンの死体はお金にならないが、持っていけば捨ててくれるそうだ。
僕がホーンラビットの頭を、律儀に昨日森に投げていたというとセシル姉さんは大爆笑して僕を馬鹿にした。
そりゃそうか、解体して素材として使えない部分もけっこうあったからな。ちゃんとギルドでもゴミの処理は考えられているんだ。
また朝のように走って王都に戻る。
入場手続きは行列ができていたので3人で会話しながら順番を待った。
セシル姉さんに、アンタらどこに泊まってるんだい?と聞かれて昨日泊まっていた場所を指差すと、呆れた顔で、あとでスラムの顔役を紹介するからこれからはそこで寝ろと言われる。
戦災で親を亡くし、孤児院で育ったセシルさん達4人は、成人したら逃げるように孤児院を飛び出し、そのあと冒険者になったのだそうだ。最初はお金がなくて、先輩冒険者にそのスラムの顔役を紹介してもらって、ひと月くらいそこで野宿してたそうだ。
王都の孤児院は教会が運営しているが、食事や生活環境はひどいもので、さらに孤児院の子供の中に才能のある子や見た目の良い子が見つかると、どこかの貴族に売り飛ばされてしまうらしい。
セシル姉さんのパーティのローザさんという魔法士が、教会に目をつけられてしまったので、孤児院を逃げるように出たのだそうだ。
「ケイ。そういやアンタ身体強化の魔法は使えないのかい?」
セシル姉さんが僕に尋ねる。冒険者はほとんど使えるのだそうだ。中には特殊な人もいるようだが、そういう人でも強化系のスキルを何かしら持っているらしい。
魔法を本格的に習う前に両親が亡くなってしまったことを伝えると、ちょうどパーティメンバーを紹介しようと思っていたから、ローザさんと一緒に教えてくれるらしい。
フェルも身体強化は使えるらしく、気づかなくてすまなかったと謝られた。
門で手続きを済ませて、ギルドに素材を卸す。
今日の成果は236体。
どれも状態がいいので2割増しで買い取ってもらってホーンラビットだけで銀貨56枚ももらえた。セシル姉さんにも分前を払おうとしたが、10年早いと笑って断られた。
解体主任のおじさんが今日も手伝ってけと言うが、セシル姉さんが間に入って、話をつけてくれて、おじさんは渋々だが諦めてくれた。
他のパーティメンバーは今日は訓練場にいるらしいので3人でそこに向かった。
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