第31話 弓

 31 弓  


 3男に言われた通り中央に出て、西門行きの馬車に乗る。乗合馬車の料金は1人銅貨1枚だった。

 乗って20分くらいで西門に着く。

 そこから北に向かって5分ほど行けば、3男が言っていた通りたくさんの木材が立てかけてある広い敷地の工房があった。

 建物の中に入ると暇そうにしている髭もじゃのドワーフが座っていた。


「いらっしゃい。どうした坊主なんか用か?」


 髭もじゃのドワーフが僕らを睨む。ちょっと怖い。


「3男に言われて来たんですけど、木製の盾を作って欲しくて」


「おう、なんだよ3男の知り合いか?坊主の年で家なんて建てるわけねーから、何事かと思ったじゃねーか。木製の盾か。あーそうか、わかったぞ、坊主、冒険者になったばかりか。ちゃんとした装備が手に入るまで木製の装備で凌ぐつもりだろ。今どき珍しいやつだな」


 髭もじゃのドワーフはそう言って大きな口を開けて笑った。


「そうなんです。お金がなくって。でも危険はできるだけ避けたくて、盾はこの子に装備させたいんですが、あんまり壊れやすいものじゃなくて、ある程度は丈夫なものを持たせたいんです」


「なるほどな、坊主、それはいい心掛けってやつだ。良いぜ、暇だし作ってやるよ。それで予算はいくらだ?いくらまでなら出せる?」


「できれば銅貨で買える範囲の値段がいいんですけど、銀貨1枚くらいなら出せます。いえ、命を守るものだからもう少し高くても構いません」


 そう言うと髭もじゃのドワーフは感心した様子で自分の顎に手を当てた。


「なるほど、坊主、よくわかってんじゃねーか。さすがにそんなに高くはならねーよ。銀貨1枚出せるか?いい素材で作れば結構高いが、捨てちまう廃材でいいの選んで作ってやるよ。外側に金属も貼ってやるから下手な盾より頑丈だぜ」


 髭もじゃのドワーフは立ち上がって、工房の中の素材を探し始めた。


「キラーウルフの爪で壊れちまうようじゃそんなの盾でもなんでもねー。ただの飾りだ。オークの棍棒を受けても壊れないような頑丈なやつ作ってやるから安心しな。さすがに剣だと壊れちまうかもしれねーが、まあ嬢ちゃんの腕前なら問題ねーだろ。ただ、魔法にだけは気をつけろよ。硬いと言っても所詮は木だからな。ファイアボールを何発も受ければ燃えちまう。おっと自己紹介がまだだったな。俺の名前はライツって言うんだ。すぐできるからそこで待ってろよ」


 そう言ってライツは店の奥に素材を取りに行った。


 工房の隅に弓がいくつか並んでいる。

 その中の一つが気になって手に取って少し引いてみる。結構硬い。


「おう、坊主それに目をつけたのか。それはまだ坊主には早えと思うぜ」


 ライツが戻ってきた。


「それは俺の自信作だ。おめえがそれを引けるようになったら売ってやっても良いぜ、試しにちょっと引いてみるか?」


 そう言われて、ちょっと広いところで弓を構える。きついけどなんとか引けた。

 そのままなんとなく心の的に狙いをつけて、矢をつがえてない弓の弦から指を離した。パキンと高い音がして、狙った的に当たった感覚になる。

 いい弓だけど、僕の筋力ではあと2、3度撃てば力尽きてしまいそうだ。


「おう、なかなか様になってんじゃねぇか。坊主、弓の腕前は結構いい線いってんな。ちゃんとした弓を使えばきっとオークだって殺せるぜ。そいつは銀貨15枚だ。けっこういい素材を使って趣味で作ったもんだけどな。素材は俺が取って来たやつだし、銀貨15枚はまあ、オレの技術料だな」


 銀貨15枚の弓なんて買えないよ。

 そんなにお金が使えるんならフェルにもっといい装備をあげられるはず。


「ライツさん。僕にはまだ少し早いと思います。この弓がちゃんと使えるようになったら売ってください」


「いいだろう。俺はおまえさんが気に入った。そのときが来たら店に来い。それまで残しておいてやるから」


 そう言ってライツは笑顔になった。


「さて嬢ちゃんの盾だが、腰のものを見る限り得物は片手剣だな。だが、たまに両手でも使うんだろ?盾って言ってもあんまりデカいやつじゃなくて、相手をいなしたり、体勢を崩したりするのに使う感じでいいか?」


 フェルが驚いた表情で頷く。


「よしわかった。30分で作ってやる」


そう言ってライツはあっという間にフェルの盾を作ってくれた。腕に固定する側のベルトの長さを、実際にフェルの腕にあてがって測ると、慣れた手つきでそのベルトを盾に固定する。


「昔はな、鉄も高かったから木の盾を装備するやつはいっぱいいたんだ。いい木工の職人もいっぱいいたからな。戦争が終わって鉄の値段も安くなって、いつの間にか木工職人の数も少なくなっちまった。技術ってのは使う人間がいねえとすぐに廃れちまうんだ。ほら、自信作だぜ、この場でつけてみろと言いたいが、革のところの接着剤がまだ乾いてないからな。明日まで我慢しろ」


 そう言ってライツは鉄板を貼り付けた新品の盾を僕に渡した。持ってみると意外に軽かった。フェルも持ってみてその軽さに納得したように頷く。


 マジックバッグに盾を入れて、ライツに銀貨1枚渡し、お礼を言って工房をあとにした。

















 

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