第30話 夢
30 夢
大さじ小さじ、フェルのカバン、魔道コンロ、安い椅子、お茶腕か……お米を炊くための専用の鍋も欲しいな。土鍋とかあるかな。食器はもっと欲しいけど……もう少しお金が貯まったら考えよう。
3男が戻るまで買い物リストを確認する。
椅子にチェックを入れて、新しく土鍋と書いておいた。
それから調理器具と食器の並ぶコーナーに向かった。
大さじ小さじはすぐに見つかった。そんなに高くなかったので3組買う。小さじは塩と砂糖の瓶にそれぞれ入れておくとして、大さじは何かと便利に使えそうだからいっぱいあってもいいか、いちいち洗うの面倒だし。
フェルがどこからか買い物カゴを持ってくる。
「さっき3男がきて渡していったぞ。細かいものはこれに入れておくといいそうだ。3男はもう少しかかると言ってた。あの男、意外に気が利いてていい仕事をするな。見た目は軽薄そうなのだがな」
フェルがカゴを見せて言う。
うん。僕もそう思う。あんな見た目をしてるくせによく気のつくいい奴だ。
土鍋は売って無いな。3男に聞いてみるか。
もしなければこれかな?厚手だし値段も手頃。ご飯炊く以外でも何かしら使えそう。
お茶碗は……陶器はやっぱり高いな。磁器だともっと高くて買えない。木の食器ってご飯がくっついちゃうからな。できれば陶器のお茶腕にしたいけど、あれ、この木製のお椀、色付きだ。珍しい。
「そのお椀いいと思うよー。領都の知り合いのお店で仕入れてきたんだけど、かわいいでしょ」
3男が戻ってきた。
「その知り合いは前に王都の貴族街で高級な食器ばかり売っててねー。けっこう有名な店だったんだけど、だいぶ前に店を閉めて、領都に引っ越したんだ。今はそっちで庶民向けの安くて見た目のいい木製の食器を売ってるんだ。もっといろんな種類を買ってきたんだけど、けっこう人気があってね。そこにあるのが最後だよ。色のついていないのより少し高いけど、中に塗ってる塗料が工夫されててねー。汁物が染み込みにくくて、料理もくっつきにくいんだ。持ちやすく底の方も工夫されてるからオススメだよ」
確かにこれなら米粒がくっつきにくいかもしれない。漆を塗ったようなものかな。
その色付きのお椀をフェルと選んだ。僕は薄い水色にして、フェルは内側は赤だけど外側がピンク色のかわいいデザインのものを選んだ。
「僕にも夢があってさー。いつか領都に支店を出したいんだー。今お金を貯めているところなんだけど、領都っていい街でさー。物価も安いし、料理も美味しいんだ。何より住んでる人たちが優しい人ばかりでさ。なんかあったかいんだよねー。ケイくんたちも機会があれば行ってみるといいよ。あとは何かあるかな?」
3男に土鍋の特徴と大きさを説明して取り扱っていないか聞いてみた。
「あー、残念だけどうちではそういうのは扱ってないよ。でも心当たりはあるかなー。土を焼いて作った食器でしょ。やっぱり需要はあるんだー。確か鍋も土でできてたなー」
そう言ってから少し3男は困った顔になる。
「でもちょっとめんどくさい事情があってね。作ってる人たちは知ってるんだけど、すぐには仕入れることができないんだ。ひと月、いやー、もうちょっとかかるかなー。入ったらギルドでケイくんあてに伝言を頼むから、しばらく待っててよ。ピッタリのやつ作ってもらって仕入れてくるから」
さっき見てた中くらいの鍋を買うか迷ったけど大きな鍋なら2つあるし、ここは我慢して3男の土鍋入荷の知らせを待つことにする。
3男に魔道コンロを見せて欲しいと言うと、魔道具コーナーに連れて行かれる。
「野営用に使うってことだよね?じゃあ小さい方がいいよねー。1つあればいいの?2個くらい持ってたら便利だよ」
1個はもう持ってると3男に言う。
「あー、1個はもう持ってるのね。そしたらこれかー、もう1個はあれ?ちょっと待ってね。ああよかったまだ残ってた。この2つのどちらかがいいと思うよー」
3男はそう言ってカウンターの下から魔道コンロを出してきた。
「こっちが銀貨4枚で、こっちが3枚。両方ともだいたい機能はおんなじなんだけど、こっちの値段が高い方が新型でねー。少しだけ燃費がいいんだ。こっちはその前の商品で、今ちょっと値下げしてるんだー。古いけど火力の調節がとてもやりやすくて、2年前まではうちの人気商品だったんだよ。入荷待ちにもなったくらいいい商品なんだー」
そう言って3男が安いほうのコンロを持ち上げる。
「あ、ここ傷ついてるねー。だから下げてあったんだー。火はー、あぁ大丈夫。問題なく使えると思う。ケイくんが気にしないならこれ半額にしてあげてもいいよ。その代わり父には内緒にしてね。お客様に傷ものを売りつけたって怒られちゃうから。もしも壊れたら僕がいる時に持ってきて欲しいな。修理するか、もしも直せないときは新品と交換してあげるから」
フェルの顔を見ると、目を合わせて頷いたので魔道コンロを買うことにする。
「あとはまだある?うちは布以外ならだいたいなんでもあるから、布とか服とかは斜め向かいに姉妹店があるからそこにいってみて。ギルドカードの割引きもやってるからそこでも安く買えるよ。うちの母さんがやっててねー。興味があったら覗いてみてよー」
3男にフェルに似合いそうなカバンがないか聞いてみた。
「マジックバッグのこと?マジックバッグは入荷待ちで、今は予約販売にしてるんだ。大丈夫?けっこう高いよ?」
「普通のカバンでいいんだ。戦闘中も邪魔にならないくらいの大きさで、フェルがふだん使う小物や、タオルとか、ポーションとかも入れれたらいいな。カバンはこないだ案内されたとき見なかったけどある?」
「それならいいのがあるよ。オススメがね。きっと気に入ってくれると思うよー。カバンは2階にあるんだ。こっちに階段があるからついてきてー」
そう3男は言って2階に登る。
僕らはその後をついていく。
「ごめんねー。そういえば父が言ってたよ。テントの説明に夢中になりすぎて2階を案内するのを忘れてたって」
そう言って3男が棚を探す。
「えーとこれだよ。こうやって斜めに背負って。ここで長さを調節するんだ。うん、このくらいかな。お尻が全部隠れないくらいにして、ここに隠してあるベルトで腰に固定するんだー」
実際に自分で背負ってみて3男はその場で回転する。
「ほら、くるっと回ってもカバンがずれないでしょ。街を歩くとき嫌だったら腰のベルトは外して隠しておけばいいんだよー。ポーションは横のポケットに3個入るようになってて、あー、戦闘中はカバンの中に割れ物入れないでね。尻もちついたら割れちゃうから。ポーション入れるところは厚い皮の仕切りがついてるから転んでも割れにくいと思うよ」
そう言って3男は少し小声になる。
「実はこれも売れ残りでね。今の値段はもともとの定価から2割引いてあるんだー。冒険者割引きも使えるから実際の定価の値段の半額近く割引きになるよ。使ってる素材はいいからそれでも少し高いけど、長持ちするからいいと思う。冒険者用だからね。それで売れ残っちゃった理由はねー。母さんが女性の冒険者もオシャレをするべきだってここに布を貼っちゃったんだ」
3男が可愛くデザインされている赤と白のチェックの布を指す。
「かわいいし僕も母さんも気に入っているんだけど、王都の、特に南門の女性の冒険者はかっこいいデザインの方が好きみたい。みんな赤い風ってパーティに憧れてるみたいなんだ。赤い風のパーティメンバーはみんなカッコいい女の人ばかりなんだよー」
フェルが3男の背負っていたショルダーバッグを身につけて、ベルトをした。
そのまま少し体を動かしてみて、ポーションのポケットの使い心地を確かめる。
そのかわいいデザインのカバンはフェルによく似合っていた。
「どうだ?似合うか?」
フェルが聞いてくる。
「とっても似合ってるよ。背負った感じはどう?使えそう?」
「体に密着するのがいいな。ポーションも取り出しやすそうで良い」
そう言ってカバンを下ろしてカバンの中もチェックする。
中にもチェックの布地が縫い付けられていて、布も丈夫そうだった。
「3男!これも買うよ!」
僕は値段も見ないで3男に買うことを告げた。
3男は喜んで、ありがとうございます。と僕らに言った。
売れ残って心苦しい思いをしているお母さんのことを気にしていたのだろうか。3男は安心した顔になる。
下に降りて武器コーナーに行く。そこには高級そうな金属製の武器や防具が並ぶ。
「3男、木で出来た盾とかってあったりする?フェルに防具を買ってあげたいんだけど、ちゃんとしたものを買う前の繋ぎで使いたいって言うか……」
「木製の盾かー。うちでは扱ってないんだよねー。なんか昔はいっぱいあったみたいだけど、かと言って適当な武器屋で探しても、だいたいすぐ壊れちゃうからあんまりオススメしないよ。どうしてもって言うなら友達の大工を紹介してあげるから行ってみる?僕の友達だって言えば相談に乗ってくれると思うよ。腕はいいから盾くらいならすぐ作ってくれると思う。忙しくなかったらの話だけど。なんか偏屈なドワーフのおじさんなんだけど武具のこともよくわかってるから下手に武器屋で買うよりいいものができると思うよ」
3男は意外に顔が広い。
仕入れのことも、何がどこにあるのかもちゃんと把握していて、3男の勧めてくる商品は質も良くてお買い得なものばかり。
チャラそうだけど優秀なんだな。
「これで全部かな?土鍋の件はちょっと待っててね。とある大貴族が絡んでるから、今少しずつ根回ししてるところなんだー。あ、ごめん。これ内緒ね」
「さて会計かー。テントは父が決めた値段だからこれは後から足すとして…3割引きでこれが半額だから…あれ、なんかキリが悪い数字だな。美しくない。んー。まあいいか。これをこうしてっと。じゃあテントと合わせて銀貨15枚でいいよー。持ってる?」
あれ?かなり安くない?いいのかな。
僕は財布から銀貨15枚取り出して3男に渡した。
「ありがとー。なんかケイくんたちとは長い付き合いになりそうな気がするよ。これからもよろしくね。そういえばケイくんたちはどこに泊まってるの?この近く?たまには遊びに行こうよ。僕が王都を案内してあげてもいいよ」
「僕たち、その……ちょっと恥ずかしいんだけど、南門の外で野宿してるんだよ。フェルと2人で」
「そうなの?いいなーあそこ門番の目もあるから実はけっこう安全なんだよねー。あー、それでテントなのかー。いいなーうらやましいなー。ねーご飯とかどうしてるの?中で食べてから門の外に出るの?」
「お金を節約してるからいつも自炊なんだ」
「ケイの料理はすごく美味しいのだぞ。昨日食べた肉なんて、あまりの美味しさに気絶してしまうと思ったくらいだ」
フェルが、僕の言葉に被せるように言う。
「そうなんだー。いいなー。いいなー。外で食べるご飯っておいしいよねー。そうだ、今夜僕も行っていい?テントは自分のやつ持っていくからさー。なんだかケイくんの料理食べてみたくなっちゃった」
「ほんと?良いものいっぱい買えたし、いっぱい値引きしてもらったからご馳走するよ。でも良いの?家族の人たち心配しないの?」
「僕は昔から変なことばっかりしてきたからねー。いまさらうちの家族が僕になんか言ってくることなんてないよー。あのバカまたおかしなことしてしょうがないやつだなって笑われて終わりだよ」
「じゃあ7時に南門の前で待ち合わせよう。来なかったらご家族に止められたんだなと思って門を出るから、そのつもりでね」
「絶対行くよー。7時ね。わかった。そうだ、友達の大工、ライツって言うんだけど、工房は西門から北に5分くらい歩いたところだよ。中央から西門行きの乗り合い馬車が出てるからそれに乗っていくと楽だよー」
3男にじゃあまた後でと手を振って商会を出た。
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