第11話 街道        2023.12.20改定

 11 街道


 村を出て1時間くらい歩けば街道に出る。

 そのまま北に向かってその道をずっと歩けば、やがて王都に着く。

 行商人の話だと歩きで王都に行くならひと月くらいかかるらしい。

 村から一番近い町までは馬車で1日の距離。歩いたら3日くらいかかると言っていた。

 どこか大きめの街で乗合馬車に乗るといいらしい。そうすれば王都までは1週間くらいで行けるそうだ。


 街道に出ると空はもうすっかり明るくなっていた。

 腰を下ろせそうな岩があったのでそこに座ってフェルとおにぎりを食べた。

 具も入ってないただの塩結びだけどフェルは大きなおにぎりを3つも嬉しそうに食べた。


 フェルは美人だけど、笑った顔はとてもかわいい。

 特にご飯を食べている姿がとても好きだ。

 美味しそうにたくさん食べてくれる。

 こんな人と旅ができて幸せだなって思う。


「フェル。このまま1つ目の町を素通りして2つ目の町に行こうと思うんだ」


「それは構わないが、何故だ?街に入りづらい理由でもあるのか?」


「ないとは思うけどあいつらが手配書みたいなものを出してたらちょっと厄介だ。たぶん2つ目の街までは5日くらいかかると思うんだけど、その間は野宿して行こうと思う。その町に着いたら乗り合い馬車とかがあると思うから、2つ目の街までは我慢しよう」


 フェルも僕の意見に賛成のようだ。


 僕は立ち上がって右手をフェルに差し出す。


「これからよろしくね。フェル。2人で頑張ろう」


「こちらこそよろしく頼む。ケイ」


 フェルも立ち上がって僕と握手した。


 そこからは楽しくおしゃべりしながら2人で歩いた。


 夜は途中の野営地のようなところで交代で休んだ。僕が先に寝て途中でフェルと交代する。

 朝が来たら僕がご飯をつくってフェルを起こした。

 時計がないからよくわからないけど、フェルの方が睡眠時間が若干短い気がする。


 町に着いたのは村を出て5日目の昼だった。

 寝不足と歩き疲れで2人ともかなりボロボロだ。

 5日間歩くっていうことを正直ナメてた。

 持ってきた食料もほとんどなくなってしまっていた。

 

 とりあえず宿を探して2部屋頼み、それぞれ部屋で休む。夕食付きで1人銅貨25枚。

 部屋でそのまま眠ってしまい起きたら夜だった。

 フェルの部屋をノックしたらしばらくして返事が帰ってきた。

 どうやらフェルも今起きたようだ。ドア越しに先に下に降りてると伝えて宿の食堂に向かった。


 フェルを待つ間にカウンターにいる宿のおばさんに、王都行きの馬車が出てないか聞いてみる。

 直行の馬車はないけれど、ここから3つ村を越えた先にある比較的大きな街までなら馬車が出ているそうだ。

 そこからなら王都への直行便も出ているとのこと。


 明日の朝8時に門のところから馬車は出るらしい。おばさんが宿にかけてある時計を指差して教えてくれた。

 馬車は途中1泊して、街に着くのは次の日の夕方くらいになるそうだ。


 食料を買いたいので、早朝から空いている店はあるかと聞くと、街の中心で朝市をやっているからそこで大体のものは買えるとおばさんが教えてくれた。


 フェルが下りてきたので夕食を2人分お願いしてフェルと席に着いた。

 料理が来るまでさっき聞いた話をフェルにする。


「すごいなケイは。本当に15歳か?今まで村を出たことはないと言っていたではないか。旅をするのがはじめてだとは思えないぞ。どこでそう言うやり方を習ったのだ?ゼン殿からか?」


「行商人とかからちょっとね」


 そう適当に誤魔化した。


 夕食は豚肉の煮込み料理で、大きめの野菜が美味しかった。おばさんにお金を払ってお湯を桶で2つもらった。

 

 フェルがお金のことを心配してくるので、節約すればなんとか大丈夫だと伝える。


「もし次の街で王都行きの馬車のお金が足りなかったら、皿洗いとかしてお金を稼ごう。その間きっと野宿になっちゃうけど2人でやればなんとかなるんじゃない?大きな街らしいから、たぶん何かしら仕事はあると思うんだ」


 そういうとフェルは頷く。


 部屋に戻って体を拭いてその日はすぐ寝てしまった。


 翌朝、まだ暗いうちに起きて身支度をする。昨日の残りのお湯でタオルを濡らし、顔を拭いた。使ったお湯はそのまま置いておけば良いとおばさんが言ってたので部屋の隅に置いておいた。

 下に降りて時計を見たら6時だった。

 フェルの部屋に行ってノックをすると、すぐフェルが出てきた。ちゃんと起きてたみたいでよかった。


 荷物を持って下に降り、おばさんに朝食を頼む。朝食は銅貨5枚だった。

 パンは食べ放題で、昼食用に少し持っていっていいかと聞いたら「好きなだけ持っていきな」と笑いながら言われた。


 鍵を返しておばさんにお礼を言うと、馬車に乗るのなら先に門のところに行って予約してから朝市に行くといいと教えてくれた。

 まだ7時前だけどこの時間には予約が始まっているそうだ。

 もう一度おばさんにお礼を言って宿を出る。


 門のところで馬車の予約をしてお金を払うと、御者の人に割符のようなものを渡される。

 たぶん切符のようなものだろう。


 予約する時に身分証を見せる必要があったが、フェルの身分証は僕と同じ村から来たということで、特に問題にはならなかった。

 

 フェルと朝市に行く。

 なんだかのどかな町だな。朝市に集まってる人たちの表情も明るい。故郷の村とは全然違った。


 朝市で食料を買う。スープに使えそうな野菜を選び、肉は全体的に値段が高かったので、一番安いホーンラビットの肉を少しだけ買った。

 りんごが安かったので大量に買った。日持ちもするだろうしいいだろう。


 「しばらくりんごだけになっちゃうかも」とフェルに言ったら、笑顔で「それでも私は構わないぞ」と言ってくれた。


 手早く買い物を済ませて門のところに戻った。フェルは僕の買い物をする様子を感心しながら見ていた。


 馬車は時間通りに出発した。

 隣に乗り合わせた人は、僕たちが通り過ぎたひとつ目の町から乗り合い馬車で来たらしい。

 前の町では変な騎士たちが酒場で大騒ぎしていて大変だったと言っていた。

 きっとあいつらだ。

 やっぱり避けておいて正解だったな。


 馬車はけっこう揺れて、快適とは言えなかったけど、歩くよりはマシだった。


 だけどフェルが途中暗い顔でため息をついていたのが少し気になった。



















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る