第10話 村を出る

 10 村を出る


 家に帰る途中で馬に乗った騎士たちに追い越された。騎士たちはそのまま村から出ていった。

 あいつらお礼の一つもなかったな。まぁ別にいいけど。


 家に帰ってもすぐにフェルのところに行かず、報告したい気持ちを我慢して、じいちゃんの手伝いをする。

 村人が客としてまだいるので慎重に、いつも通りの行動する。

 

 案内しながらこっそり回収した山菜とキノコを使って、今日の夕食のスープを作った。

 料理を作りながら、じいちゃんに、2、3日したらフェルと一緒に村を出ようと思っていることを打ち明けた。

 じいちゃんは突然の話に驚いていたが、やがてニヤニヤしながら。


「そうじゃな、あんなにかわいい娘さんを1人追い出すわけにもいかんしな。2人で王都に行くのか?道中仲良くするんじゃぞ」

 

 じいちゃんは見透かしたような表情で僕を見てくる。

 何日か落ち着くのを待ってこっそり村を出るつもりだと言うと、村長だけには話して身分証をもらってこいと言われた。

 王都や、大きな街に入る時必要なんだって。

フェルの分は無くしたとか言ってお金を払えば大丈夫らしい。その後冒険者ギルドで身分証を作ればいいんだそうだ。

 そうすれば王国の人間として扱われるとじいちゃんが言っていた。


 じいちゃんとばあちゃんは東の国から駆け落ちしてきたので、入国するのにけっこう大変だったみたい。1人でも身分の確かな者が同行した方が手続きが楽なのだそうだ。


 最後のお客が帰った。しっかり戸締まりをして2階のフェルを呼んだ。

 心配そうな顔をして降りてきたフェルに全てうまくいったことを伝える。

 ほっとした表情でフェルがお礼を言ってくる。


 これからの話は夕食の後にすることにして先にみんなでご飯を食べた。


 食器を片付け、お茶を入れる。


 最初に僕が話を切り出した。


「えーと、作戦通りフェルは死んだと思って、鎧の残骸を回収して連中は帰ったよ。あいつらほんと最低だね。もしフェルが捕まったらみんなで犯したあと殺すつもりだったみたいだよ。話してるの聞いちゃった」


 フェルが顔を歪めて怒りをあらわにする。


「それでこの先のことなんだけど……この先フェルはこの村では暮らせないと思う。騎士たちが来ちゃったからね。村人にあれこれ聞かれて、脱走した騎士だと分かったらきっと村から追い出されるよ。かと言ってこのまま部屋に閉じこもってるのも限界があるし、そのうち村を出て別の街で暮らす必要があると思う」


 フェルは真剣な顔で僕を見ている。


「それでさ、提案なんだけど、2、3日様子を見てほとぼりが覚めたら……フェル。僕と一緒に王都に行かない?僕も来年この村を出るつもりでいたんだ。王都に行けば人がたくさんいるから、よほど目立たない限りはバレないと思う。どうかな?」


「そんな、ゼン殿はそれで良いのか?確かに心強いが、こんな急に」


「そうじゃな。確かに急な話ではあるが、ケイがもともと来年村を出る話だったのは本当じゃ」


「村から出ていったらもう二度と会えなくなるかもしれないのだぞ?」


「こちらにも少し事情があってな。ケイの奴は村長の息子に目をつけられとって、いろいろ嫌がらせを受けてきたんじゃ。あの息子が次の村長になったら村にケイの居場所はないじゃろう。その時にはワシはもう生きてないかもしれん」


「いや、しかし……」

 

 フェルがオロオロとしながら僕とじいちゃんを交互に見る。


「王都に出て働いて暮らすことにはもともとワシも賛成してたのじゃよ」


 じいちゃんはフェルに優しい声で言う。


「とは言っても、ケイは弱い。弓の腕は良い方だが、剣など全く使えん。本格的に教えようとしたころに父親と母親の両方をいっぺんに亡くしたからな。ワシが教えてもよかったんだが、こいつに全く剣の才能を感じなくてな。つい得意な料理ばかり教えてしまった」


 じいちゃんはお茶を飲み一息ついて話を続けた。


「もしフェルさんが良ければ、ケイのことを旅の道中、守ってやって欲しいんじゃ。できる範囲で構わん。かなうなら王都に着いても時々様子をみて、気にかけてくれたらありがたい」


 じいちゃんがそう言うとフェルもようやく納得した表情になり。


「そういうことであれば私に任せてくれ。2人から受けた恩はこのようなことで返し切れるものではないが、少しでも返せるとするならばこちらとしてもありがたい。道中、さらに王都でのケイの護衛、引き受けよう」


 そう言って了承してくれた。


「決して私は見捨てたりはせぬぞ。騎士とは受けた恩には必ず報いるものだ」


 目を輝かせながら、フェルは胸を張っている。


 その後さらに細かく3人で話し合って、出発は3日後の朝に決まった。


 次の日は店は休み。

 じいちゃんと物置部屋をあさる。

 母さんが薬を作るのに使っていた魔道コンロを持っていっていいというので、調合セットと一緒にマジックバッグに入れた。

 大きめの鍋ももらって道中に料理が作れるようにした。


 パンは6個。1週間の僕の配給分をマジックバッグに入れる。食器とお箸、フォークやスプーンなども2人分もらった。

 

「これも持って行っていいぞ」


 じいちゃんが僕が使ってた包丁を渡してくる。

 じいちゃんは何年か前に新しい包丁を行商人から買って、今まで使っていた古い包丁を僕にくれた。以来、大切に手入れして使ってきた。

 いい包丁はそれなりの値段がするし、正直助かる。


 じいちゃんにお礼を言って包丁を受け取る。


 今日も雑貨屋屋さんに行き、旅に必要なものを買い揃える。

 胡椒やハーブは作りためていたものがマジックバッグに入ってるから、塩だけ多めに買った。


 家に戻って夕飯を食べてその日は早くに寝た。


 次の日は朝早く起きて、先に1人で朝食を済ませて山に向かった。

 キノコや山菜、胡椒の実など片っ端から採取する。じいちゃんが不自由しないようにある程度保存がきくのものは採取して残していこうと思っていた。


 家に戻ったのは昼過ぎだった。

 フェルと2階で昼食を食べてから、身分証を受け取りに村長の家に向かった。


 幸いなことにバカ息子は不在だった。

 ゼンから話は聞いていると、村長は言い、身分証になる書類を受け取った。


「戻ってきても村には仕事はないからな、帰ってくるんじゃないぞ」

 

 村長は冷たく僕に言った。


 家に帰るとじいちゃんがニワトリを1羽絞めていた。

 そんな贅沢をしていいのか気になったけど、これから1人になるからそんなにタマゴも必要ないので良いらしい。

 少しさみしい気持ちになったけどじいちゃんの心遣いに感謝する。


 畑の薬草を収穫して初級ポーションを作った。

 けっこうたくさん作ったけどほとんどは家に残しておくつもりだ。


 その日の夕食はじいちゃんがご馳走をつくってくれた。

 子供の頃にみんなで食べた懐かしい料理が食卓に並ぶ。

 お腹いっぱいになっても、無理矢理詰め込むようにして全部残さず食べた。


 動けなくなった僕の代わりに、フェルが麦茶を入れてくれて、洗い物もしてくれる。少し手つきは危なかったけど。

 洗濯以外の家事は苦手なんだそうだ。フェルは恥ずかしそうに顔を赤くしていた。


 次の日、朝早く起きて米を炊き、おにぎりを作る。海苔はないので塩結びだ。具も入ってない。

 水筒に麦茶を詰めて、水が入った樽をマジックバッグに入れる。

 水は昨日準備したものだ。フェルが浄化魔法を使えたので、わざわざ沸かさなくても良くなった。

 フェルは簡単な回復魔法や浄化魔法なら使えるんだそうだ。そういう便利な魔法がうらやましい。


 最後に自分の包丁を丁寧に布に包んでバッグに入れた。


 フェルが身支度を済ませて降りてくる。

 その姿を見て驚いてしまった。

 長かった髪を肩までの長さに切り揃え、どこにでもいる村娘のような格好をしていた。


「旅の邪魔にもなるので昨夜寝る前に切ったのだ。変装にもなるしな。どこかで売れるかもしれないから持っていてくれ」


 そう言ってフェルが髪の毛を僕に渡してきた。


 ちょっと不揃いの部分は僕がハサミで整えてあげた。

 短い髪も似合うんだね、というと顔を赤くしながら顔を洗いに行くと言って洗い場の方に逃げて行った。


 その間にマジックバッグに手を突っ込んで中身の確認をする。こうやると頭にリストのように中身のイメージが浮かんでくるのだ。

 僕のマジックバッグは馬車2台分の容量がある。時間停止の機能はないけど、マジックバッグとしては中くらいの価値があるものらしい。

 忘れ物がないか確認した。


 弓と矢は邪魔になるのでバッグに入れた。

 一応ナイフだけは身につけておこうと腰に差そうとしたら、ナイフを貸して欲しいとフェルが言う。丸腰は嫌なのだそうだ。


 しばらくしてじいちゃんが部屋から降りてきたので、別れの挨拶をする。


「じいちゃん元気で長生きしてね。王都に着いたら手紙を書くよ。いつ届くかわからないけど。王都で何かいい仕事につけたらそのうちじいちゃんのことも呼べるようになるかもしれない。とにかくがんばってみるね」


「ワシのことなど気にせんでも良い。しっかりやるんだぞ」


 じいちゃんの目には涙が浮かんでいた。

 フェルもつられてもらい泣きしてしまったようだ。


「フェルさんを悲しませるようなマネはするんじゃないぞ」


 そう言われて、わかったと答えた。


 もう出発しよう。長くなると別れづらくなる。


 まだ薄暗い朝の村を、フェルと2人で静かに出ていく。


 じいちゃんはずっと見えなくなるまで僕らを見送っていた。


 












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 今後ともフェルのこと、よろしくお願いします。

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