第18話失恋と、若い男性水死体
美鶴から連絡が取れなくなってから数日。会社の職員休憩室で昼食を取っていると、同じ時間に休憩室のソファーに腰掛けていた宮田が心配そうに声を掛けてくる。
「山脇君はついこの間、妖艶な二股彼女に振られたんですよ」
端で見ていた黒崎が頼んでもいないのに代理で答える。否定するのも疲れそうなので耕司はそれを黙って受け入れた。
「そうなの?」
珍しく宮田が心配そうな様子を見せる。それにも返答せずにいると
「私の可愛い後輩を弄ぶなんて許せないわ。でもそんな娘ならうまくいかなくて良かったかもしれないわね」
一人納得している。
「失恋を忘れるには新しい恋を見つけるのが良いっていうわ」
「何ですか、宮田さん。随分年下にいくんですね。大分好み変わりました?」
「なんで傷心の後輩に自分のことを奨めるのよ。黒崎、あんた本当ばっかじゃないの!」
怒鳴られても黒崎はにやにやとしている。懲りない人だ。
隣で二人が騒いでいると、つけっぱなしのテレビから昼の地方ニュースが流れたので宮田が急に真剣な表情を見せた。
「これ見た?」
画面を見るとこの近くの湖畔沿いで若い男性が水死体で浮かんでいたというニュースが放送されている。
「早朝に発見されたらしいけど、多分ランニングとかしてた人じゃないのかしら。朝から悲惨よね」
発見された水死体は無職の二十九歳の男性で、体内からかなりのアルコールが検出されたとのことだ。警察は事故、事件の両面で捜査している、とキャスターが伝えた。
「私この亡くなった人、どこかで見たことあるのよね。確か介護関係の人だった気がするんだけど。それにしても足元が覚束なくなるほど飲んでおいて、湖畔沿いを歩くなんて危険極まりないわね」
「俺分かりますよ。飲んだ後って何か水の音聞きたくなるんですよね」
妙に落ち着いた声で黒崎が独りごちている。
「黒崎君やめなさいよ。会社に来ないと思ったらニュースに出てましたなんて洒落にならないから。そんなに水の音が聞きたいなら、トイレの水でも流しときなさい」
「嘔吐したついでに?」
「そうそう」
二人の会話が悪ふざけの雰囲気を呈してきたので耕司は社内に設置されている自動販売機に向かった。濃い目の設定にして出来立ての珈琲の入った紙コップを取り出すと、辺りに心地よい香りが広がる。ぼんやりしていた頭が覚醒していくと同時に、今までのことが全て夢であったら良いのに、そう思われてならなかった。
それは美鶴と連絡が取れなくなったあの日の夜からのことなのか、それとも彼女と出会ったことそのものなのか。珈琲の香りを嗅いだだけでは判然としなかった。
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