第15話そして誰もいなくなった(夜の公園バージョン)
午後八時。
どんな服装にすべきか、どんな雰囲気で赴くべきか悩んだ末、結局どう足掻いたところで殴られることは決定な気がして、普段通りのジーパンとTシャツに、余計なことを極力考えず無の境地で公園のベンチに腰かけている。
足音や話し声が聞こえる度に立ち上がるが求めている姿は見えない。
本当にここで合っているのだろうか。
公園の入り口の表示を見てもやはり聞いた名称と一致している。再度元のベンチに座り直し辺りを窺う。十分ほど過ぎた頃になって急に言い様のない不安が襲ってきた。
自分の知らないところで何か起きたのではないだろうか。会わせたい人がいると言われて激昂した恋人が美鶴を殴っている、または絶対に外に出さないように部屋に閉じ込めているなどなど、考えれば考えるほど良くない想像ばかりが頭を過る。
すぐさま携帯電話を取り出すも美鶴の電話番号を知らないことに気付く。彼女からはいつも非表示か、公衆電話から掛かっていてこちらから連絡を取ったことはなかった。普通は訝しく思う連絡方法も、きっと彼氏の横暴が関係しているのだろうと取り立てて尋ねることもしなかった。耕司は今更ながら、相手に拒否されることを拒む自分の臆病さを呪った。こんな事態は全く想定していなかったのですぐに連絡が取れないことが歯痒い。逸る気持ちで携帯電話のボタンを押しメールを作成するも返信は返ってこなかった。
場所や時間はここで合っているのか。
何かあったのか。
どれにも返事がなくて最後に
「大丈夫ですか」
と書いたけれど、これにも答えはなかった。
「何かなくては電話してはいけませんか」
過去に聞いた美鶴の声が頭で木霊して、耕司はその声に殴り付けられた気がしてその場から動けなかった。
結局午後十時、昨日美鶴から電話をもらった時間まで待ってから、誰も来ないことを確認して場を後にした。
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