第10話スピーカーマイク先輩のアドバイス
「ライバルに彼女を諦めさせる方法?」
「し、静かに!」
昨日布団の中で悩んだ末、耕司はこの複雑な状況をできるだけ平和的に解決するため先輩の男性社員に相談することに決めたのだった。打ち明け話を聞いてくれる友人がいないわけではないのだが、こと恋愛に関してほぼ話題にしていない自分が好きな娘ができた、ではなく、女の子の彼氏にぶん殴られることなく彼女と別れさせたいのだ、などと言ったら、相手は度肝を抜かれるに違いないと思いやめておいた。
しかし相談しておきながら、なぜ自分は三度の食事よりおしゃべりの大好きなこの男に頼ってしまったのだろうかと既に後悔していた。
「なに山脇君、そんな複雑な展開になってるの。興味がないふりして意外とやるねえ」
言葉少ない質問に、相手がどのような想像を膨らませているのか定かではなかったが暇潰しのかっこうの的になっているのは間違いない。根掘り葉掘り聞かれるのだろうと覚悟を決めていると、相手は予測に反して真面目な顔で思案している。と、
「それは山脇君がどうこうする問題じゃないと思うけどな」
答えた。
「男ってさ、生物学的には女性より体力的に強いけど、精神的には弱いと思うんだよね。二人の男が一人の女性を取り合うって、動物のドキュメンタリー番組とかでもやってるけどさ、たいていそういうのって当の雌のことは置いておいて、雄だけが盛り上がってる感じだよな。雌が自分を好みと思うかどうか分からないのに。動物の世界では強い雄が魅力的だからそれでいいけど、人間は色々と違うだろ?だから別段山脇君が相手の男と張り合う必要はないと思うんだよね。一番大事なのは当の彼女。彼女が今の彼氏より、どれだけ山脇君を好きなのか相手に伝われば、心がポキンと折れちゃうと思う。ま、でも一発殴られるのは覚悟しておいたほうがいいだろうな」
「やっぱり殴られますか」
「そりゃそうでしょう。横恋慕するんだから」
耕司はまだ殴られたわけでもないのに頬に食らう拳を想像して顔をしかめた。
「まあ、何も相手の男に会う必要はないんだからそう気に病むなよ」
それが絶対に会わなくてはいけないんです、などと言うと話がまたややこしくなりそうなので助言のお礼をして仕事に戻ろうとすると
「しかし山脇君がねえ。ちょっと宮田さん!」
「ちょっ、止めてくださいよ。何考えてるんですか」
「先輩として報告義務があるからね」
「いやいや」
完全に面白がられてやはり相談しなければ良かった、と再度後悔するのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます