春馬と黄原の夜


夕方、大浴場でひと騒ぎおきて、俺は、というか男子全員が長ーい廊下に、正座してる。


ーなんで、俺まで?


って、セリフはこういう時に、つかうんだろうなあ。


例によって、首謀者は、赤木。


ー神城明日菜の風呂を、覗き見しようぜ。


まあ、こっちは、まだまだかわいい?


けど、中には、スマホもちこんだり、特殊なカメラあったり、たちちが悪いのは、


ー女子にも、いた、


機転をきかせて、1日目は、柴原が前もって、柴原が信頼してるバスケ部の女性顧問に、相談していたらしい。


被害は、神城だけの問題じゃない。


いまは、まるで瞬間移動の、どこでもドア、みたいな時代になってる。


流行りはじめのいまは、まだ防衛手段がない。ただ、記録はのこり、きっと。


ー中学生の悪ふざけ、では絶対に通らない。


というか、誰よりもネットを知ってるからの悪ふざけ、なんだろ?


それとも、ネットを知らないのか?


たまにニュースになるようなことを、やろうとしている奴らにくらべたら、赤木がマシに思えた。


まあ、やったらダメだし、やられた女子はトラウマになるぞ?


だって思春期だし?


きっと、ネットには、違う確実なモノがマナーやルール、取り締まりがいる。


けど、そんなネットワークを、作れるんだろうか?


それには、個人情報なんかにかまってられない、ものずごく強制力があるナニカがいる。


ーけど。


必ずそこに、いろんな利権は、からんでいくだろう。


柴原の進言を若手バスケ顧問は、真剣にとらえてくれて、女性教師が女子を。


男性教師が男子を。脱衣所前で所持品検査した。


対象はカメラとスマホ。本来なら持ち込み違反の化粧水たぐいは、スルーされたらしいが、しゃれにならない器具もあり、こってり絞られている。


案の定、入室前にしらべたら、スマホを持ち込む女子や、男子が数人もっていて、いま処分の話し合いが行われている。


中には、すでに映像もあったらしく、こちはら保護者に連絡がいく。


ーそこまでして、みたいのか?


ーリベンジ、ってそういう意味?


ーまあ金には、なる、な?


けど確実に捕まり、誰も幸せになれないぞ?下手したら、いろんな命を奪うぞ?病むぞ?一生だぞ?


って、考えけど、やっぱり。


ーなんで、俺この場所に、いるんだろ?


まあ、うちも赤木や黄原がスマホを、持っていた。


ー大切なデータがたくさん入ってる!俺の推しは俺の宝だ!盗まれたらこまる。


って言うから、素直にスマホの画面を押したら殴られた。


ーそっちの押しじゃない!


らしい。あとから延々と説明された。


なるほど、推薦からの推しかあ。


そのうち推薦選挙、


ー推し選挙?


めちゃくちゃ、納得。


すげえな?黄原って、時代の最先端だ。


けど、それなら貴重品ロッカーつかえよ?ルールを破ってる以上、それはたんなる言い訳だ。


ーこういう時は、班の全体責任。


すきだよなあ?学校って、連帯責任。


ほんとうに、子供の頃からいわれる。


ークラス全員の◯◯。


まあ。悪いことじゃないけど、


ー反抗期まっさかりな、中坊にやっても、逆効果じゃね?


黄原なんか、へんに闘魂を燃やしている。


なんと闘う気だよ?


とりあえず30分の苦行を味わったあと、俺たちは大浴場にはいった。


温泉らしく、足がすっきりする。


俺は、あまり酔わないけど、長いバス旅、はたしかにつらい。


福岡までだと、俺の地域からなら、車がいちばん便利なんだけど。


ひろい浴槽で、うーん!と背伸びをする。


「春馬、やっぱり、運動部だよなあ?」


「ー?」


「ほそく見えるけど、ちゃんと筋力があるよなあ?俺なんかほら?」

.

黄原の二の腕は、ぽよぽよ。


フニフニまでは、いかない。


そういえば、と、黄原が俺に、ニヤニヤしながら擦り寄ってきた。


ー裸で擦り寄られると、ちょっと、気味悪い。


おもわず、後ずさるけど、背後は、湯気で濡れた壁だ。


ー絶対絶命?


じゃないのは、わかる。だって、左右あいてる。


その空いていた右隣に、黄原は座って足をのばした。


「明日の自由行動、神城と同じでラッキーだったよなあ?班全員の写真くらい撮るだろうし」


ーそれが最初で最後だろうな。


きっと、柴原が発案して、班の写真は、撮るだろう。


それが、きっと、


ー俺と神城の、最初、で、最後、の写真だよな?


俺は無表情だったけど、黄原は、続けた。


「ツーショット写真をお願いしたら、撮ってくれるかな?神城」


黄原はオタクなだけで、常識的なヤツだ。むしろ好みが限定されてる分、


ー無害。


わりと有能なやつ。将来的には、そっちの道に行きたいらしい。


裏方、ってやつ?


いろんなステージを作りたい。そう言っていた。


将来の夢か。


ーラッシー。


は、夢とかあったのかな?


夜こっそりラッシーをみると、たまに、寝言で小さめの声で吠えてる。


ムニャムニャしてる。


口元は動いてる。


まあ、そういう夢じゃないけど。兄貴はこの地域でいちばんいい高校を、いまは夢見て勉強してる。


サッカーの中体連もすぐそこだ。


地区大会優勝を、目標にしてる。


俺のいる野球部の先輩たちもそうか?いや、けど、


あんまり真面目に、やってない。


三年生は厳しいが、2年はゆるい。


ーゆるくみえるのは、俺のせいらしい。


いつも、ふざけてんのか?


って先輩から怒られてる俺は、相変わらずボールひろいと、素振り、そして、バッティング練習用のピッチャー。


ポジションすら、いまだに、ない俺だ。


最近、みかねたリトルリーグ出身の後輩が、バットの持ち方、ボールの投げ方を、暇な時に教えてくれるようになった。


ちなみに女子マネ。


女子の後輩に、指導されてる俺だ。ねらいは、兄貴らしいけど。


兄貴が俺に、かまうことないぞ?


中学生になったら、そんなもんだろ?


ただ、俺は、助かってるけど。


そういえば、あの異世界人たちには、お土産かうかなあ?


いちおう。お礼と、土産?


そんなことを、ぼんやり考えていたら、


「そういえば、赤木たちが言ってたんだけど。女子が半袖なったらチャンスだぜ?」


「なんの?って言うか、お前、さっき怒られてたよな?」


「おっ?のってきたな?女子のここの柔らかさってさ?」


「二の腕か?」


「おっぱいのやわらかさと同じって、説があるらしいぞ?」


ーそれを知って、こいつは、どうしたいんだ?


「さわったら、痴漢じゃん?」


「カメラで望遠だ!」


「通報するから」


「お前、マジで通報しそうだな」


黄原がひきつり顔で.ため息をついた。


「なんか最近、いつもにも増して暗いから、励ましてやろうとしたのに。失敗だな」


「くらい?もともとだろ?」


俺が言うと、黄原は、あきれた顔をした。


「俺も気のせいかとも、思ったけど。お前の母さんからも、なんか変だって、言われたんだよ」


「ああ。なんだ、あの異世界人か。やたら、俺に最近、かまうんだよなあ」


「お前、自分の母親まで異世界人扱いやめてやれ?まあ、俺からみても、おばさんのお前の扱い方、なんかイヤだけど」


竜生先輩となぞだよなあ?あつかい、


って首を傾げてるけど、まあ、いいや。


兄貴ができるんだか。仕方ないよなあ。口うるさいし煩わしくは、たまに俺でもあるけど。


ー異世界人だし。


明日で、たぶん、こんな感情はおわる。


俺はそう思ってた。



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