前夜


とうとう、明日から、修学旅行に、なった。


私は自室で、ベッドにすわりながら、机をみて、

修学旅行のしおりに、ため息をつく。


そのしおりさえ、いまは太い油性べんで、いろんな文字が表紙と裏にかかれている。


ー少しだけ、机に置いて、トイレに行ってただけなに。


班のみんなに、わからないように、しおりを家に忘れたって言ったけど、柴原さんだけが怪訝な顔になった。


他のみんなは、


ーまたか、やる気あるの?


そういう視線だったのに、柴原さんだけは、心配そうな視線で、私の心がしずむ。


彼女と彼氏の赤木くんは、いまでは学校中にしれわたってるバカップルだけど、


ー赤木くんの視線は、好きじゃない、


頭のいい柴原さんが、なんで、赤木くんみたいな人を選んだのか、わからない。


だって、


ー彼、の方がよっぽどー。


ふと背表紙に、目をうつす。


背表紙にも、油性ぺんで、たくさん落書きがされている。


ご丁寧に、参加メンバー名で消されたのは、わたしだけだ。


まあ、ほかにも、柴原さんから、けされたような色ペンだらけだけど。


私だけ真っ黒に塗りつぶしたかったらしい。


いろの三原色。


正確には。


ー色材の三原色と減法混色。


色材の三原色はY(黄色(Yellow))、M(赤紫(magenta))、C(青緑(cyan))を指します。色を混ぜ合わせるにつれて、色が暗くなる(光のエネルギーが減少する)混色を「減法混色」という。


ただ、最終的には黒になる。


だから、太い油性マジックで、私だけ、消したいのかなあ?


むかし、お祭りに行ったら、お姉ちゃんと一緒に迷子になって、迷子センターで待っていた。


迷子センターには、数人迷子がいて、私と同じくらいの子たちもいた。


浴衣をきた子が私に、人懐っこい笑顔で、きいてきた。


アニメでなんで犯人は、全身黒タイツみたいに、黒、ばかりなのか?


ー黒だと暗闇にひそみやすいし、なんとなく影のイメージだから?


そうしたら、その子は、


ーじゃあ、昼間なら白じゃないの?


明るい日差しなら、白がまぎれこむよ?忍者みたあたに!


元気よく言って、


ーでも、やっぱり、ピンクがいい。


大好きな色がいい!


そう言ってニコニコしていた。


ー目立つよ?


私が言ったら、


ー目立ちたいよ?だって、目立てば、たくさんラッキーだよ?


ヒーローショーとかでも当てられるし、迷子なっても見つけてもらえるよ?


にこにこ笑ってた子が、むかし、いた。


女の子で柴原さんに、


ー似てた?


すぐにお母さんたちが迎えにきてくれて、バイバイしたけど。


ーあの子は、すぐに迎えがきたのかな?


ふと、気になるけど、


「目立ちたいんじゃないよ?」


ーめだっちゃうんだ。


修学旅行の裏表紙、


めちゃくちゃななか、マークされた、


ー蛍光ペン。


蛍。


もう何年もみてないけど、昔から、この地域には、いるんだ。


ただ、やさしく水田に水をひく小さな用水路や清流に、ふわふわとただよう、ホタル。


南九州のこのあたりは、


ーゲンジホタル。


だけど、むかし、お兄ちゃんが言っていた。


ーホタルって世界中に、2000種類以上いるんだよ?


ーでた!オタク発言!


ーただの虫好きだ!男のロマンだ!


相変わらずお姉ちゃんとやりとりしながら、咳払いして、


ー水中にいるのは、10種類で日本のホタルは、じつはとても希少なんだぞ?


ー雌雄関係なく光るんだぞ?すごくないか?相手もひかるなら、モテない代表の俺にもワンチャンあるぞ!


ーライバルが、ふえるだけでしょ!


ー俺の妹がつめたい。


そうお姉ちゃんと、仲良くワイワイ言っていた、


けどー。


私には蛍をみたおもいでがない、


たぶん、幼い頃にみたはずだけど、物心ついた時から、日暮れ前には帰ってる。


部活も遅くなるときには、お母さんが途中まで車で迎えに来てくれる。


告白されるようになってから、あまりひとりでは、出歩くことをやめてしまった。


いつだって、まわりの視線が追ってくる。


知らないうちに、カメラがむく。お母さんは昔から、好きな子を隠しどりはあったよ?


そうかもしれないけど、私はべつにホタルじゃない。


同じホタルでも地中にいたいよ?


わざわざ飛びたくない。


「ーつかれちゃった」


よ?


修学旅行のしおりみたいに、表も裏も、どっちにも、


ー逃げ場なんか、ないよ?


ただ、きついんだ。


行きたくないけど、


「明日菜?ちょっといい?」


いつもなら、ノックして入ってくるお姉ちゃんがいきなり私の部屋に、入ってきた。


「なんか夕飯で元気なかったけどー、って、なにコレ?」


めざとく、机の上にあるしおりをみつけた。


私がなにか言う前に、


「またやられたの⁈」


手にとる。


ーバレた。


「大丈夫だよ?中は、イタズラされてないから」


書いて提出しないといけないから、相手も目立つ行動はしない。


私に対する嫌がらせは、まわりが知ってる。ただ、人数が不特定多数なだけ。


だし、


ーどこの葉の裏に隠れても、むだ。


光ってしまうなら、目立つ。


お姉ちゃんがバラバラと中身を確認して。


「たしかに中はイタズラされてないけど、私が腹立つから破くね?」


「えっ?」


いきなり表をびりびり破いて、裏表紙にまでてをかける。


「なに?この紙?メンバー?まあ、いっか。やぶくよ?」


そういいながら、柴原さんが書いて、のりではったメンバーー表を剥がす。


「あっ、失敗した」


のりではられた、ふたつの名前だけが残って、


「あっ、待って、はがないで!」


私はついお姉ちゃんに、言っていた。


しおりのメンバー表に、しっかり残った名前。


ー柴原真央。


そして、


ー村上春馬。


その二人だけが、のりでしっかり残ってた。


鮮やかに目にはいる、


空色の、


ー蛍光ペン。


ホタルの光は儚くて、ただ、


やさしいんだ。

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