修学旅行 1日目 春馬


朝、いつもより、登校時間は、


ーはやいようで、遅かった。


単純に、部活の朝練よりは、遅くて、朝練ない日よりは、はやかった。


ようは、なんか中途半端な時間に、学校に集合した。


福岡へ南九州の片田舎からでるためには、車が効率よかった。


クラスに一台ずつ割り当てられる。


「おい、春馬。ちゃんと、きてるぞ?神城」


黄原が俺の背を叩いてきた。


ついその方向をみて、


ー見なきゃよかった。


神城が柴原たちといた。浮かない顔で、手荷物をバス運転手に預けている。


ー眠れなかったのか?


顔色がいいとは言えないけど、柴原たちに、小さく笑っていた。


チラッと柴原がこちらを見て、目があった。


ーけど、すぐにそらして、神城と一緒にバスに乗った。


そりゃあ、そうだろうな。


「なんだよ。真央のやつ、無視しやがって」


赤木が俺の後ろで舌打ちをしていた。俺たちは、自由行動は同じだけど、クラスがそもそも違うから、違うバスにのる。


赤木。


あか。


テストなんかで、兄貴が使ってるチェックシートやペンの色だ。


赤と緑。


どっちも、わりと濃ゆい。


緑で赤をけす。


赤で緑をけす。


半分ずつなら、シートを2枚重ねるのかな?


あれは、半透明だけど、濃ゆい。


光の三原色。


ー赤、青、緑。


なのに、ない。


ーブルー。


修学旅行の出発日。そらは、雲もあるけど、青い空がみえる。


青空だけど、空色だ。


俺はふと、校庭の西側にある山をみる。山は、もう初夏だから、若葉の緑が強い。


あの山頂に夕日がおりるとき、不思議な気分にいつもなる。


南九州の片田舎からは、海が遠い。


田畑と山があるけれど、水平線や地平線は、見れないけど、太陽はのぼる。


ーそして沈むと、半世紀近くまえの古いミザールの望遠鏡の出番になる。不思議な、


ー0。


は、たぶん、いまはちがう意味を持って、俺の世界にいるけど。


むかし、引き算をマイナスから足し算でやるクソガキだったのは、たしかだよなあ。


まあ、いっけど。


なんで、柴原は、きいた話では、チェックペンをわざわざ使ってだんだろ?


俺は、不思議に思いながら、バスにのりこんだ。


チラッとたまた神城、やっぱり、神城だった。


俺は真ん中の方の二人席の窓側だ。黄原が隣に座った。


「変わるか?席?」


「いや、いいよ。俺は別に酔わないし」


黄原はそう言うと、少し呆れて俺をみた。


「ちゃんと、気づかいできて、優しいんだけどなあ。もっと、言葉や顔に出せばいいのに」


黄原の小言は、スルーするのが、俺だ。


あの異世界から、いつも逃げているのは、俺とじいちゃん。


親父や兄貴は、きちんときいていた。


兄貴は、異世界でもいい子らしい。


最近、黄原は、新しい世界だと、異世界を舞台にした小説や漫画を俺にすすめてくる。


正直、


ーリアル社会で、ひとり異世界に取り残された錯覚になる俺は、


ー異世界に行ったら、異世界人側になるか、また迷子だろうなあ。


ちなみに、黄原がいうには、リアルのまま、異世界に行くらしい。


ー?


行くと、それなりに適応するらしく、ヒーローやヒロインになれる。


「まあ、いいだろ?それが小説や漫画の新しい世界だし、そもそもエンタメだしな」


そう黄原はまじめに説明してくれた。俺は、ただうなづいた。


黄原が大好きな世界を俺に否定する権利はないし、わりと黄原が面白いと言うやつは、あとから流行ってる。


そういう種類の人間がたしかに存在するのは、みてきた。


そういう意味では、その世界の最先端を開拓していく人間がいる。


黄原は、いつも俺を気にして、優しいけど、黄原の親友は別にたくさんいる。


クラスにもいて、よくそいつらと盛り上がってる。


正直、お小遣いやお年玉をためて、年上の従兄弟のくるまで、


ー福岡のコミケにいく。たくさんかうぞ!


俺は、不思議に思ってきいた。


ー三毛猫好きなのか?


猫なら、たぶん、西洋猫がはやりだぞ?


そんなに黄原って猫好きだったかなあ?


あとから、不思議すぎてきいたら、真面目にコミケの説明をされたら、関東なんかではニュースにもなる代物だった。


ビックリした。


きいたら親父の中学時代にもあったらしい。


さらにビックリした。


まあ、あの踊りは、なかったって、言ってだけど。


小学生時代に有名なネズミのアニメの制作について、国語、の授業でよんだ。


外国人の開発話が、外国語や社会じゃないのか、いまいち、なんで国語なのかは、わからないけど、まあ、いいんだろう。


俺の場合、もはや、そこから黄原に言わせたらズレてるらしい。


小1の時に、ただマイナスを、マイナスと勘違いした。


たぶん、その時の教師が、雑学として教えてくれたんだ。


引き算、の、


ー「−」。


プラスは、そのままブラスドライバー。


だけど、ブラスドライバーがネジ穴をこわすと、


マイナスドライバーでネジをまわしたり、ゆるめたり、する。


だから、俺にとっては、マイナスは、めちゃくちゃべんりな、


ーブラス。


そもそも、山に夕日が消えるとさ?


同じように、こんどは、日本は、


ー夜がくるんだ。


親父がくれた古いミザールの望遠鏡がさ?昔からの変わらない空を、みせてくれる。


時計だって、さ?


いつだって、


ー0になる。


一周まわって、ZEROになる。


はじまりの、0,


おわりの、0,


だけど、いつだって、


0÷0=♾


いつだって、とけないルービックキューブのようにぐるぐる考えて、遊べる。


ただ、楽しい、


ー0の世界。


めちゃくちゃ楽しいけど。


初夏の朝日に、バスの窓が反射してる。


俺はポケットから、透明がかった川原から拾ってきた石を手のひらで、もてあそぶ。


初夏の太陽、バスの窓ガラス、そして、ただの川原のきれいな石。


むかし、じいちゃんと、一緒に遊びながら、探した石。


子供なら、よくやる行動のひとつだけど、最近は異世界人から、怒られている。


兄貴も、


ー中学生になってまで、そんな子供っぽい遊びを、するなよ?


あきれている。


夏休みのひきさんドリルみたいに。


ー理由もきかずに、ダメだと禁止して、違う道へと導いていく。


いや、それは、たしかに、そうなんだよ?春馬。


じいちゃんが言った。


ただ、ひたすら引き算ドリルを、マイナスから足していく俺に、じいちゃんが言った。


ーけど、よおく考えてごらん?


そう言って、


ーひき算、だよ?


マイナスには、ひくって意味があるんだよ?


プラスになるのは、もっとさきなんだ。


この数字は、いまは、「ひく」んだよ?

 

そう教えてくれた。たったひとつの、


ーただの記号。


に、たくさんの意味があると教えてくれた。


だから、異世界人が立ち去ると俺は、ドリルをできた。


俺の頭を撫でながら、じいちゃんが言った。


「ただ、お母さんや竜生も正しいんだよ?この世界には、たくさんの考え方があるんだ。お前は、たぶん、これから先、たくさんの不思議を知るだろう。だけどな?春馬」


そうじいちゃんは、言って、俺の手を引いて、庭にでた。


暑い夏の日。


ー世界には、な?


暑さにへばった庭の木や花に、ホースで水をかける。


先端を少しだけつまんで、霧状にして。


ーほら、きれいな世界だ。


じいちゃんがあの夏に作った庭いっぱいの、水の巨大スクリーンにうつしだされた、


ー虹。


そして、


俺は、チラッと視界の隅に、校門をでる神城のバスをみる。


手のひらで作る影にうつる。


ーただの川原で拾った石ころがさ?


俺の手のひらで、


ー小さく分光してるんだ。


虹のふもとには、宝物があるんだぞ?春馬。


だけど、じいちゃん、虹は近づくときえちようよ?


なら、虹を宝箱に入れよう。


そうじいちゃんが言って、教えてくれた。


川原で、許可なく、川に入るなと何度もいわれながら、探して、見つけた石で、


ーほら、春馬。


おまえだけの、宝箱だ。


笑っていた、じいちゃんと、夏休み。


じいちゃんの心臓は、もう、


ー終わりの、0。


なんだろうか?


そして、明日の自由行動で、俺と、柴原は、


ーいや、俺は?


ぎゅっと下唇を前歯でかんで、俺は手のひらの石を虹ごと握った。


ーかたくて、冷たい、石の感触をにぎりこんだんだ。


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