明日菜 修学旅行のしおり


「おはよう?明日菜。今日もかわいいね!」


教室に入ると、すぐに柴原さんが私に笑って、そう挨拶してきた。


その声に反応して、教室中の視線が、私たちに一瞬で、集まるのを感じる。


小さな頃からある、ある種の視線。もう日常にはなっているけど、


ーいまだに、なれない。


は、ある。だって、目立つ理由が、私自身には、ない。


生まれた時から、あるものだ。


けど…。


「おはよう、柴原さん」


同じく目立つ彼女は、あまり気にしてない。


ーなんでだろう。


私と柴原さんの違いは、なんだろう。


柴原さんは、バスケ部レギュラーだけあって、身長もたかい。


窓際のいちばん後ろの席にすわる。前の座席が柴原さんだった。


頭のいい彼女は、クラス副委員長もしている。


ー頭、の、差、かなあ?


私はため息をつきそうになるのを、こらえながら、きょうの時間わりを確かめる。


もうすぐ修学旅行だから、1時間は、そのための学活だったはず。


まだ、なにひとつ書き込んでいない、まっさらな修学旅行のしおりをだす。


内心、


ー1時間目、さぼったら、よかった。


私がいなくても、修学旅行は、準備よく計画がたっていく。


ー旅行なんて、好きな子が計画すれば、いい。


だって、


ーどこに行っても、きっと、


なにも、変わらない。


三年生になったら、最上級生には、なるけど、


ー受験がくる。


なぜか、


受験、戦争。


って、言葉がある。


ーだれを相手に、


戦い、争うの?


私はお姉ちゃんのいる学校か、女子校を目指すつもりで、将来、とくになりたいものもないけど、


ー数学は、苦手だから、文系かなあ?


お兄ちゃんは南九州の片田舎からは、通えない大学に行ってるけど、


ーどこに行ったって、変わらないよ?


それなら、大好きな、やさしい家族と一緒に、南九州の片田舎で暮らしたい。


ひとりで、お部屋でゴロゴロしていたい。


ー修学旅行なんか、なければいいのに。


サボってしまう?


前日くらいから、お腹痛いふりして、サボってしまおうかなあ?


2日目の自由行動が男子と一緒だとは、お母さんやお姉ちゃんには、言ってる。


仮病だとは、わかっちゃうだろうけど、たぶん、許してくれる。


けど、


ーいつまで、逃げれるのかな?


休んだって、なんにも、きっと、変わらない。


そう思って、しまうんだ。


笑って、許してくれるだろうけど、内心は笑ってくれてない。


心配させてる、


ーきつい、なあ。


小さなため息が、でそうになり、慌てのみこむ。


休んだって、お姉ちゃんやお母さんが気にするだけだよ?


そんな家にいれる?明日菜?


ーどっちも、嫌。


だけど、いまの私にそれ以外の選択肢なんか…。


「明日菜!」


いきなり大きな声で名前を呼ばれて、ビックリした。


柴原さんが、私をみている。


「な、なに?」


「なに?は、こっちだよ?いま、話を、きいていた?」


「自由行動?」


たしか、今日は、そのための1時間目だ。


そういえばー。


「赤木くんたち、3人だと足りないよね?あとふたりは?」


柴原さんの彼氏、他のクラスだけど、よく私たちのクラスに遊びにきているのを見かける。


柴原さんが前の席だから、必然的に目に入ってくる。


赤木くんあわせて、派手な目立つタイプの子たちが、あとふたりいた。


私以外の班の子たちは、ラッキーだとよろこんでいた。


それぞれ運動部で活躍してるらしい。けど、班の人数には、足りない。


「ああ、あっちのメンバー用紙、まだ、明日菜にさ、渡してなかったよね?」


「神城さんが、いちども、打ち合わせこないからだよ?」


「習い事や、用事なら、仕方ないって」


「まあ、明日菜は、あんまり興味なさそうだしね。修学旅行」


柴原さんが笑いながら、一枚のプリントを机の上にだした。


私は、そのプリントに羅列された文字を、目で追って、息をのんだ。


ー村上、春馬。


赤木くんと同じ班に、


ー彼がいる。


しかも、


「赤木たちは、知ってるよね?名前はともかく、顔は、わかるだろうけど、他にね、黄原って子と、野球部の村上が一緒だよ?」


柴原さんは、そう言うと、空色の蛍光ペンで、


ー村上春馬。


を、なぜかマークした。


その色に、私の心臓がドクン!と音をたてる。


「真央、村上にも同じことしてたよね?なんで?」


「村上竜生先輩なら、わかるけど。そういえば、神城さん、竜生先輩と噂になっていたよね?」


言われて、私は胸のザワザワを抑える、


「竜生先輩?私はそんな噂、知らないし、誰とも付き合ってないけど?」


きっぱりと否定する。


一瞬、教室が凍りつく。


なんで、こんな時にだけ、静かになるの?


「おっかなあ」


「怖っ」


ヒソヒソと、まったくひそめていな声が耳にとどく。


ー男女両方の声。


私は、今度こそ、ため息をついた。

 

「あー、お疲れ様?」


柴原さんが苦笑いしている。たまに、不思議に思う。


こういうところが、少しまわりにいる女子とは、違う。


「なに?あれ、感じ悪い!」


「神城さん、無視だよ、無視!」


睨み返してくれる子たちが言ってくれるけど、私の身体がさらに重くなる。


ー私の存在が、周りを、嫌な気分にする。


また、だ。


私が、いなければ、


ー誰も、もう喧嘩しない?争いなんか、なくなるの?


それなら、私はー。


「明日菜!これを、しおりの目につくとこ、あっ!私がはるね!」


「えっ?あっ、ちょっ?柴原さん⁈」


なぜか焦った声で、柴原さんいいながら、素早い動作で、私のしおりをうばいとる。


ーさすが、バスケ部。


へんなことに感心してると、まんなかより、ちょっとずらした位置にのりをつけ、日本が世界に誇る救急絆創膏?セ◯テープで周りを張り付けた。


救急絆創膏会社だから、できた早業1か月?だけど、この方法なら、


ーのりの方がたぶん、とれにくい。


ー?


なんで、ぜんぶをのりで、はらなかったの?


「なんで、裏表紙?」


「目立つでしょ?もっと、目立つようにする?」


赤いチェックペンをもちだす。私もたまに試験勉強で使うけど、マークした時点てみにくい。


そして、


「明日菜、覚えていてね。私の名前は、柴原真央だよ?」


ーなにをいまさら。


「ー知ってるよ?」


「柴の原、だよ?柴は雑木。若い時は、若葉は、みどりだよね?」


「ーう、うん?」


なんかよくわからないけど、私はうなずく


だって、柴原さんは、私を見てるようで、


ーなにを視界に、いれたの?いま?


がある。


不思議な瞳で私を見ている。


赤いチェックペンと、


「みどりのチェックシート?」


「そうだよ?明日菜。私はみどりだよ?空色や水色じゃない。だけどね?」


なぜか柴原さんは、赤いチェックペンで、あの空色のマークと柴原さん以外を、


ーチェック、して。


「ほら?消えるんだよ?」


みどりのシートが、ふたり以外を消した。


残ったのは、


ー村上春馬。


ー柴原真央。


の、文字。


「ね?だいじょうぶだよ?明日菜、私たちが、かならず守るから」


そう言いながら、柴原さんは、またみどりのシートを外した。


残ったのは、


ーレッド、ライン、?

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