春馬と異世界人


俺はへんな味の飴をたべながら、ラッシーと一緒に自宅に帰った。


やっぱり、へんな味だって思いながら。


いつもなら、噛み砕くんだけど、なんかずっと口にいれてる。


ー?そんなに、喉乾いていたかな?


ラッシーが飲んだあと、ペットボトルに残った水を、飲んだんだけどなあ。


なんか飴を、噛みくだく気にならない。


ー?


なんでだろ。


そう思いながら、ラッシーを裏庭のフェンスからなかに入れる。


ラッシーは、涼しい木陰に走っていった。


だいたいラッシーは、その場所にいる。


ー犬小屋じゃない。


ラッシーだけかもだけど。


きちんとラッシーがでないように、フェンスに鍵をして、俺は玄関から中に入る。


「ただいま」


俺にしては、さっき帰った時より、はっきり、声を出した。


小さな頃から、実は、わからなかった。


挨拶の意味が。


だけど、じいちゃんがあの病院で、俺の頭を撫でながら言った。


「おかえり。よくもどったな?」


ずーっと、まっていた。


ーまた、明日。


ただ、それが当たり前だと、思ってた。


当たり前に、


ー明日もあえる。


ただ、信じていた。


そう俺の頭をなでながら、じいちゃんは、


ー誰に、おかえり、って、いいたかったんだろ?


そう思ってたら、ふと、じいちゃんは、俺をみた。


「ああ、春馬か。きちんと、行ってきます。ただいま。さよなら、は、言うんだぞ」


「ーじいちゃん、また明日は?」


そうきいたけど、じいちゃんはまた、ふつうに、うとうとしだした。


ちょうど、親父はいなかった。


トイレに行っていた。


あれ以来、考えてる。じいちゃんが言ってた意味を。


だけど、わからない。


ただ、じいちゃんは、明日も生きてる。


それは、違った。


は、わかった。


ーまた、明日。


その言葉を考えながら、ただ、じいちゃんからいわれたように、言ってる。


ーただいま。


そうしたら、台所から声がした。


「春馬?帰ってきたの?」


だから、言ったよ?


ーただいまって。


「春馬?」


さっきは、玄関で言ったから、もう必要を感じなかったけど、なんとなくじいちゃんを思い出したから、


「ただいま」


ただ、しっかり発音は、できなかった。


ー飴食べてる。


いまだに、噛み砕かないで、口の中にある飴玉。


「きちんと、うがい手洗いしなさいよ?」


毎回言われるし、小さな頃から幼稚園でも、特に冬は言われる。


インフルエンザ予防で。


ふつうにもう習慣なってるし、ラッシーを触るたびに手を洗いなさい。


うちの異世界人は、そう俺にいうけど、


ーラッシー、きれいだけど?


「ラッシーは外で、飼ってるからなあ。まあ、母さんの言うことをききなさい」


たしかに、ラッシーは、外犬だ。妙に納得した。


だって、ラッシー、


ーいつも穴掘りしてる。


黄原の家にいる室内犬は、きれいだ。


人間みたいに美容院に行って、黄原が、


ー俺より、散髪代が高い。


黄原の犬は、カットがいる犬種らしい。


そういえば、羊もたしか毛をきる必要があったような?


そういえば、誰かと犬の毛について話したよな?


手を石鹸で洗いながら、ふと気づいた。


ああ、あいつかあ。


ーみどりのしばふ。


柴原。


ーこれが明日菜だよ?


空色の蛍光ペンで、俺にしらせたやつ。


あれ?


飴玉食べながら、うがいって、どうやるんだ?


ーこの変な味がうがい薬とまじるのか?


そもそも、


ーのどにひっかかるぞ?


だいぶ小さくなったけど。


ー食べる時には、躊躇なく、袋を破って捨てたけど。


そもそも、もらったのは、ラッシーだし?


ラッシーに渡すか?


ー犬に人間の食べ物をあげたら、いけません。


ものによる。は、金魚のエサを食べたあと、親父から説明された。


ご丁寧に犬の飼い方の絵柄つきで。


じいちゃんもとなりで、聞かされていた。


ーアイツは俺の息子にしては、できがよすぎる。


ぶつぶつ言ってだけど、じいちゃんは、必ず。


ー俺の息子、って言う。


ほんとうに俺の子か?は、言わなかった。


親父も言わないし、


ーそういえば、異世界人の母親もいわないなあ?


親父に似たのか?


とは、言うし、


ーほんとうに、誰に似たのかしら?


とは、言うけど、


ー私の子じゃない。


は、言われたことがない。


ただ、


ー竜生は、絶対に私似だわ。


とは、言われている。


その度に親父が。


「春馬の薄茶色の瞳は、母さんゆずりだよ?」


そう言ってた。


そして。


「そりゃあ。私の子よ?似てないと、おかしいでしょ?」


って、異世界人の母親がいう。


だから、俺には母親がいる。そう理解はしてるけど。


「春馬?まだ、洗面所にいるの?まったく、また、変なイタズラしてないでしょうね?」


ーイタズラはしてない。


が、


ーこの飴、いつまで口に残るんだろ?


なんで、俺は噛み砕かないんだろ?


そして、


ーいつの日か、


また明日。


その言葉のほんとうの意味を、しるんだろうか?


なあ?じいちゃん。


洗面所の鏡にうつる俺の瞳は、


ー少し茶色がかって、


たしかに、異世界人に似ている。

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