第8話 ラッシー
太陽に背をむけたら、安全は、安全だけど。
俺にとって、絶対にイヤなことは、避けられるけど。
俺は、空をみあげる。
60年後の俺は、ほんとうに、太陽に背をむけて、歩いているのかな?
それとも太陽を、街灯やビルや山とか、いろんなもので直接見ないように、隠しながら、太陽のまわりを、ふしぎな色で変化する雲を、誰かと眺めているのかな?
予測ばかりで、ビビりな俺を、その誰かが強くしてくれるのかな?
・・・自分で、その誰かのために、強くなりたいって、おもうんだろうか?
「なあ、黄原。黄原は、守りたいものってある?」
「なんだよ?今日は、やけにしゃべるな?俺の守りたいのは、俺の大好きなアイドルだよ」
黄原が、胸をはる。
ー?
黄原って、アイドルの話をしたかな?
黄原が笑った。
「アニメだけど、いいじゃないか。好きなんだから」
確かにアニメなら、よく話を黄原はしてる、俺は見てないけど。
「俺の望遠鏡とおなじか?」
「おまえに、とっては、そうか?いや、違うぞ?たぶん。どっちかってと、お前がかっている犬だよ」
「ああ、ラッシーか」
「おまえの、母ちゃんのネーミングって、すごいよな」
「名犬にしたかったらしい」
ー名前で、名犬になれるのかな?
とくべつ名犬なわけでもないけど、ちゃんと、いまは言うことを、きいてくれる。
俺の背が伸びて、力もついたから、小学生の頃のように、引きずられて、
ー人間の散歩。
ではなくなった。
いや、あの場合、俺は、ずっと走っていたから、
ー人間の散走?
脱走をしたかったのかな?ラッシーは。
でたらめに力がつよくて、小さくて、細い小学生なんて、ただ、リードに引っ張られていた。
ラッシーが行きたい方向に、進むことをなんとか足を踏んばっても、水上スキーみたいに、身体を後方にたおしていたら、
ー犬が急にとまって、しりもちをつく。
完全にラッシーの玩具だったよなあ?
子犬でもうちのラッシーは、中型犬だったから、わりと大きくて、じゃれての甘噛みも、けっこう痛かった。
いまはもう噛まないし、リードの持ち方なんかを工夫していくうちに、俺の言うこともきくように、なった。
俺が親父に言われて、ラッシーに教えたことは、お座り、と、待て。そして、ふせ。
いちばんは、待てかな?
親父はお座りと待てでいいと言ったけど、ずっと、すわってるのきつそうだな?っておもって、伏せを覚えさせたけど。
ー疲れていたら、そのうち休むよなあ?うちのラッシーなら。
お座りと伏せは、必要だったのかな?
待て、だけじゃダメだっのかな?
飼育本をよめば、きっといろいろな答えや必要性があるんだろうな?
ラッシーは、あまりほえない。人が来たり、チャイムには反応するけど。
他の犬に比べたらわりとほえない。もう子犬じゃないからかな?
ただ、のんびりで、
ーヒビりだ。
俺の大切な、
ーリアルたまごっち。
って思って、たしかに、ラッシーがいなくなるのは、寂しいなと素直に思うけど。
「ラッシーのために、命をはるのかな?」
・・・目の前でおぼれたら、たしかに助けるかなあ?
けど、リードをしているから、そもそもおぼれるのか?
ーまあ、リードもきれたりするし?
そういえば、屋根から飛んでた時は、ラッシーのことなんか考えてなかったな。
いたかな?
ラッシーは、俺には懐いていてるけど、兄貴にはなついていない。
ラッシーは、俺が一番の遊び相手で、二番目がご飯をくれる母親だ。
兄貴はあまり相手をしない。というか、兄貴はもう受験生になっている。
部活が夏に終われば、勉強一色になっていく。そう兄貴は、嘆いていた。
「・・・兄貴も恋とかするのかな?」
おもわずつぶやいたら、黄原が驚いた顔で、俺をみてきた。
ー?
「お前、知らなかったのか?」
ー?
「竜生先輩も神城明日菜に、告白してるぞ?」
意外な言葉に、
ードクン!
と、俺の鼓動が、ひとつ大きく音をたてたから、驚いた。
ウシ様に、あった時みたいに、
ードキッとしたのか?
いや、けどー。
自分の反応に、戸惑っていたら、
「やっぱり、竜生先輩でも告白を断られたってさ。神城は、なんも悪くないのに、竜生先輩のファンが神城に対して、いろいろとやってるみたいだぜ?」
「・・・いつ頃の話?」
「たしか、バレンタイン前後かな?冬だな」
「そっか」
だから、あの日に、あいつは、屋上にいたのか・・・。
そして、兄貴がらみだったのか。
―兄貴でもダメだったなら。
「竜生先輩でもダメってことは、男がきらいなのか、芸能人クラスのいい男じゃないとダメなのか・・・」
そこで、黄原は、言葉を切ると、意味深に俺をみた。
「もしくは、変人のお前とか?」
「はっ?」
俺は思わず、声がでた。
黄原が笑った。
「だって、ふつうのいい男じゃムリってことだろ?なら、ラノベや漫画の法則でいくと、陰キャラのお前だ」
「そういう法則があるのか?なら、陰キャラなら、俺じゃくなくて、黄原じゃないのか?」
「ーだから、お前は口に気をつけろよ?マジなトーンで言われると、わりと俺でも傷つくし、俺は陰キャラじゃないぞ?たしかに赤木みたいな、陽キャラでもないけど」
ー太陽でもない。
ー月でもない。
「ーなら、地球か?」
「そっちの陰陽じゃないけど。まあ、そうだな。ただの地球人だよ」
黄原があきれて俺をみた。
なら、やっぱり、
ー異世界代表の神城は、
異世界人が相手なんだろうな。
って、思った。
そして、俺は、
ー日本人。
って思ったんだ。
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