第7話 天の南極


あの日は、とても寒かった。


ほんとうに、寒くて、


ー今日みたいな空じゃなかった。


南九州の片田舎の日差しは、やっぱり、春だけど、もうすぐ初夏を告げる。


けど、あつい。


夏は夏で遊べるから、別にいいけど。なんか星は冬の方が見やすい気もする。


理由はわかんねー、ただの感覚だし、人性で一回くらいは、天の南極をみてみたい。


ただ、海外に行きたいか?といわれたら。


ー俺は、英語が話せない。


そもそも、


ー南極って、よくわかんねー。


プラネタリウムでも、よくわからない。ネットでみても、


ー?


空に線を引くの?


ーどうやって⁈


いまは俺のお年玉でかえる機械が、その距離をとどくわけないし。


プラネタリウムのあとで、星座に盛り上がってた兄貴と母親の会話が、よくわからない。


ただ、


ーそんな昔から、やっぱり夜空は、人を惹きつけるんだな?


って、思った。でも、よくわからなかった。正座版を見て、星の位置をたどりましょう?


が、いちばん困った。というか、


ー正座版みたいに、星がきれいに、見えない。


ー?


だった。夜中になれば、確かに、よく見えることも、あるけど。


ー早見表みたいに、見えない。


親父が、人からもらったって、俺に土産にくれた天体望遠鏡は、古い。


ってか、親父は、よく人からものをもらうなあ?しかも古いし。


ただ、その古さが、フルマニュアルが、たしかに俺には、楽しかった。


親父が言うには若い頃に、ハレー彗星ブームがあったらしい。地球から肉眼でみえる唯一の周期彗星。


1989年に、ブームを起こしたらしい。次に見えるのは、たぶん2061年?


じいちゃんは見れたけど、ばあちゃんは見れなかったらしい。


けど、人により2回は見れるらしい。いまの寿命が続くなら?


かあ。


俺はよくわからない。1986年は、たぶん調べたらわかるけど.


ー2061年って、想像がつかない。


たぶん、60歳くらいか?


わかるわけない。あと半世紀近くあるぞ?


60歳、かあ。


兄貴は結婚して、孫がいるのかな?俺は、ずーっと独りな気かするけど。


俺にはよくわからない。俺、自身じゃない誰かを好きになる気持ちが。


異世界人どころか、家族ですら、


ー他人だろ?


ただ、屋根が飛び降りていた俺の根本は、変わってない。


だって、霊柩車を見たら、親指をかくせ?って、じいちゃんは言う。


だけど、俺はやらない。だって、


ーまきこれたくない。


って、思った。


で、俺は毎回、火事になったら?を考えた。


ーどう動く?


って考えて、自分でも最低な判断だって思ってる。俺は他人に、興味がないんた。最低だってよくわかる。


ー小学生の危険予測があるのか?


も、わからない。


というか、わからない。


ほんとうに、わからない。


ー自分より、誰かを大切に思う?


ちょっとは、他人の気持ちを、考えなさい(ろ)!


そう、言われ続ける俺が?


だから、俺には、わからない。


だって、わからない。


ー相手の考えも気持ちも、目に見えない。


だけど、兄貴やみんなは、違うらしい。


兄貴は口癖のように、俺にもっと怒れって言う。笑えとも言われるけど、怒れって言う。


黄原も言う。


だけど、


ー?


俺には、ほんとうに、わからない。だって、いつだって、会話は悪口にきこえる、


べつに、人だとは限らない。


いろんなものに怒ってる。なにかを批評しないと会話がならないなら、


ーよくわからない。


だって、そういうモノだとしか、俺にはわからない。


いつだって、兄貴や黄原や母親や、みんなが、


ー赤信号でわたる。


なら?


やっぱり、緑は青信号なんだよな?


もう「みどり」が「あお」なら、それが世界なんだ。


だから、みんな違うんだ。


兄貴や黄原は、すごい。赤木だって、すごくて、あの芝生はー。


私は、柴原真央、だよ?


って、黒いボールペンだった。


あいつは、芝生を「みどり」でかいた。


ーあいつは、なんだ?


で、


柴原が色をつけた。


ー神城明日菜。


は、


空色の蛍光ペン。


ー蛍。


たくさんの色は、空や水と同じかあ。


ー俺は60歳になる頃、誰かと人生を歩いてるのかな?


なんか、


ー逆に走ってそうな、気もする?


だって、じいちゃんが買ってくれた気象の本に、雲の観察は、太陽を直接みないように、ビルなどの影からのぞきます。


って書いてあって、


ーなら、太陽とは、逆の空を観察するのか?


って、思った。


60歳になった俺は、なんかやっぱり、ぐるぐるして、目がまわりながら、


ーのこりの人生をどう生きていくんだろ?


そして。もし、誰かと一緒なら、


ー天の南極をみたいな。


って思ったんだ。


素直にそう思ったんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る