第6話  ハンドマイク


「で、なんの話だったんだ?」


黄原が言った。


ふたりだけの会話だから、俺に質問してるは、さすがにわかる。


けど。


「ー天然記念物?」


「ちげーよ。その前だ」


「ああ。兄貴と赤木って、どっちが、かっこいいんだ?」


自分の疑問は、覚えてる。たまに、ぐるぐるまわるけど、今日は、覚えていた。


たまに、


ーなんで、俺は、知ってるんだろ?


は、大人や教師の話をきいて、思うことがある。


すごく、不思議だけど、たまにある。


というか、よくあるけど。


ー知ってるだけで、興味は、ない。


だから、その使い方がよくわからない。兄貴は、頭がいい。だから、覚えたって、よく言う。


ー?


なんだよ?ほんとうに。覚えた記憶は、ないんだ。


ただ、


ー知ってる。


が、わりと中学になって思う。ただ、知っていても、よくわからない。


過程が、わからない。だって、


ー答えは、あってる。というか、答えを、知ってる。


丸暗記の九九計算と、


ーおなじだろ?


あれも答えがわかるだけ、だろ?


は、


「ふざけてるのか?追試だ」


赤でバツマーク。


兄貴からは、


「おまえは、ほんとうに要領がわるいなあ?だから、バカって、言われるんたぞ?」


って、俺の勉強を、気が向いたら、みてくれるけど、


ーちがうよ?それは、わかってる。


途中の計算式がダメらしい。兄貴が丁寧に説明してくれたけど、よくわからない。


答えがそうなる。は、わかる。


わかるけど、わからない。


ー?


だから、兄貴は、


「ちゃんと、やる気だせよ!俺の弟なら、これくらいできるだろ?」


ーやる気で、やれるなら、やってる。


そもそも、弟なだけだ。


俺と兄貴は、別人だし、もちろん親父や母親とも別人だ。


ー他人なんだ。


俺には、家族と他人の違いがよくわからない。


自分以外が他人なら、


ー家族も他人じゃないのか?


だって、別人だよな?


家族って小さなコミュニティすら、よくわからない俺。


兄貴とは違い、平均より下な俺の成績。だから、俺は頭がよくないのは、わかる。


…アイツの説明は、わかりやすかったな。


「柴原って、あたまが、いいんだよな?」


「お前なあ?まだ、赤木と竜生先輩のちがいを説明してないぞ?って言うか、やっぱり柴原が、気になるのか?」


黄原が、どこか面白そうに、俺をみてきた。


「柴原の説明は、わかりやすかった」


素直に、そう言ったら、


「なんだよ?そこかよ?きれい、や、かわいいとかは?」


「どんな顔してた?」


机の上を、トントンて軽く指で叩くから、指先の印象が強い。


柴原とは、確かに、まえにであってるけど、あの時もいまも、


ー俺にとっては、やっぱり、


異世界人。


そんな気もする。たた、説明は、わかりやすかった。


だから、


「柴原と兄貴なら、どっちが頭いいんだ?」


「質問自体が根本的に、変わってるぞ?まあ、いいけどさ」


黄原は、俺にため息をつく。


ほんとうに、これは、よくされる。


親父やじいちゃんでさえ、たまにしていた。


「頭の良さは、たぶん、柴原が上だよ?アイツの頭は県でトップクラスだぞ?で、竜生先輩も頭がいいけど、地区で頭がいいだけだよ。柴原は、県でいちばんの高校行けるけど、竜生先輩には、むり。それくらい違う」


俺たちの通う中学から何年かに1人くらい受かる高校が、南九州の片田舎じゃない高校。


兄貴がうける高校は、地区では、トップクラスで、この学校からも年に20人くらいは、受かるイメージがある。


そっか。そんなに頭がいいから、俺にもわかりやすかったのか。


俺が納得していたら、黄原が説明を続ける。


「で、竜生先輩と赤木の違いは、簡単にいうと、竜生先輩は、神城明日菜。赤木は、柴原だよ?」


「赤木は、兄貴より、頭がいいのか?」


俺はびっくりして、黄原をみると、黄原が呆れた顔をした。


「お前は.、赤木が頭良くみえるのか?」


「たいていのヤツは、俺より頭がいいだろ?黄原だって、俺より頭いいじゃないか」


俺の言葉に、黄原はもう一度、ため息をついた。


「まあ、いいや。たしかに、俺の方が成績はいいよ、赤木より。ついでに、お前の成績も赤木より上だ。赤木は、雰囲気だよ?コミュニケーションがうまいんだ。アピール上手なんだ。まあ、自分に自信があって、それに、みあうだけの容姿をしてるだろ?」


「そうなのか?」


「顔立ち的には、お前も髪型かえたら、竜生先輩によく似てるけどな」


「あまり言われないぞ?」


「それも雰囲気だよ、雰囲気。神城と柴原がどっちが美少女か?って、話と同じだよ。…さすがのお前でも、神城明日菜は、知ってるよな?」


ー知ってる。


だから、黙ってたら、


ー黄原は、知らないと思ったらしい。


また、ため息を深くついた。


「まあ、俺たちとは、違う小学校だしなあ。うちの中学の間違いなく、ダントツで有名人だよ?神城明日菜。野球部は、全員ふられたって、有名だよな?いや、お前は、告るとか、ないよな?」


「こくる?」


どこで、くぎるんだ?


こ、くる?


こく、る?


子、来る?


国、流?


国?


やぶれて、山河あり?


だから、


ーまた時が流れて、山や川で、子供がまた遊ぶ?


ー歴史?


ー国語?


川の流れは、穏やかなようで、


ーわりとはやいし、ふかい。


いつも水難事故がる場所は、よく似てる地形でおきる。


ー酒に酔っ払って、川に入るは、べつ。


ー地形を読まずに飛び込むも、べつ。


とある川のそばに立つ病院の、年配の看護師長さんが、避難訓練用のハンドマイクで、川遊びしてる中学生に、よく怒鳴ってた地域もある。


ーすげーな。


愛情が深いなあ。


プロだな?


ほんとうに、守りたいんだな?命を。


ーだけど、それで、やめるかは、知らない。


赤木みたいなヤツは、いくら言われても、反抗心から、やりそうな気がして、俺の兄貴なら、最初から、やらない。


黄原もたぶん、やらないけど、


ー俺は、どうだろ?


柴原は、どうだろう?


どっちに、青信号なんだろ?


ぼんやりと思っていたら、


「まさか、お前も告ったのか?」


黄原が驚いた顔で、きいてきたから、


ーびっくりした。


「俺は、その川で、まだ泳いでないぞ?」


そもそも川には、近づくけど、夏は、あまり行かない。


ケロケロしてる。


「なんで川だよ?」.


「国がやぶれてるから?」


「なんで、国語になった!いや、そっちの「国」じゃねーよ⁈告白するの告だ!」


「俺は、神城に告白するほど、悪いことしてないぞ?」


たぶん?


いや、けど?


「だーっ!違う!そっちの告白じゃない!」


黄原が頭をガシガシかいた。これもたまによくみるなあ。


そして、また大きなため息をつく。


「まあ、いいや。とりあえず、竜生先輩と赤木なら、俺が女なら、竜生先輩を選ぶよ」


「黄原、女だったのか⁈」


「なんでそうなる?⁈」


黄原が騒いでたけど、俺は、告白って言葉に、つい傘をみていた。


柴原と神城の違い。


いまだに、名前だけの、柴原。


だけど、俺と会話した柴原。


なのにー。


ー俺には、あの冬の屋上で、


豆つぶみたいな、


ー神城をはっきり見つけたんだ。


で、いま蛍みたいな傘があってー。


これって、


ーナガレタゴカエル?


ーストーカー?


告白?


ただ、頭が混乱していたんだ。


そして、思った。


ケロケロは嫌だな。


って、思ったんだ。

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