第3話 私の欲を殺した音

私は、キプトの家の前に立っていた。5・6・3・0回、ノックする。

前、数の理由を聞いた時、


「こ、ろ、そ、お、殺そう、です。合図として相応しくないですか?」


なんて言われたのを懐かしく感じていると、扉が音を立てて開く。


木の音。長い間雨風から人間を守り続け、壊れかけて来た、木造アパートの戸の声だ。


「はーい…むにゃむにゃ」


「おはようございます、助手です…って、明日は寝れないって言ったの、あなたじゃないですか。どうしてあくびなんか…」


キプトは、その問いには答えなかった。きっと、何か考えがあるのか…。



それとも、私に押し付けて寝る気なのか…。



どちらにせよ、あくびをしているキプトが可愛いということは変わらない。


今日ほど、ケータイが欲しいと思った日はない。

まあ、買おうと思えば買えるのだが、私には買うべきものがある。


「とりあえず、今月の給料です…ふぁぁ。」

あくびをしながら封筒を渡してくる。この中には、私の一ヶ月の生活費を大幅に上回る金額が入っている。


ちなみに私は、キプトがどうやって稼いでいるかは知らない。

知らないが、確信できることがある。


キプトは、貧乏だ。

多分、自分の最低限の生活費だけを残し、私にお金を渡しているのだろう。


しかし、キプトは強がりで、


「大丈夫。これは、ほんの一部です」


と言う。



あんなアパートで生活しているのがいい証拠だ。


近くのコインランドリーでたまたまキプトを見かけた時は、自身の服を私に見えないように隠し、


「見ないでくださいっ」


と、殺意むき出しで叫んできたのだから。


あんなに可愛いのだから当然か、とは思うけど。



だからこそ、私はケータイを買っている場合ではない。


ちなみにノックも、キプトの家にインターホンがないから行っているのである。


「お待たせしました。行きましょうか」


そこまで考えた時、学生服姿のキプトは言った。

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