第34話 パスタ・デ・マンザイ!

「いらっしゃいませぇ〜。何名様ですか?」

「えっと、四人で」


 浅田さんが、指を四本立てて答える。


「では、こちらです」


 大正浪漫を感じさせるモダンな袴を着こなした可愛らしい店員が、店の奥へと案内してくれる。

 マユさんが見つけた店は、和ぱすた「こころ京都店」というお店だった。

 店内はウッディなつくりで、明るくお洒落な雰囲気が特徴的だ。

 パスタも日本の四季の素材を活かしたもので、出汁・味噌・醤油の三つの風味から選んでオーダーできる。

 ちなみにセットにするとほうじ茶がついてきて、デザートは団子という徹底した和づくしである。

 こういうお店を簡単に見つけるあたり、さすがはマユさんだ。


 ふふふ。


 さすがはマユさん、なんか嬉しい響き。


「いやぁ。オジサンには、こういうお店は気がひけるね。ここに居るだけで、若い子の迷惑になっちゃいそうだ」

「気にしすぎですよぅ。浅田さん、イケおじだしぃ」

「何それ。もしかして俺、奢らされる流れ?」


 笑い合うカメラマン二人。

 なんていいコンビなんだろう。


「浅田さんと真希さん、本当に仲がいいですよね。そういえばカメラマンの皆さんって、みんな仲よさそう?」


 私が聞いてみると、真希さんがう〜んと小さく唸る。


「確かにそうかもぅ……ね、浅田さん。悪くないですよね?」

「あぁ〜、そうだねぇ。ウチは人数も少ないからね。チームワークよくしないと、仕事もまわらないのよ」

「それもこれも浅田さんのマネジメント力と、人柄の良さのおかげですよね?」

「真希ちゃん、どうしても俺に奢らせる気なの?」


 そうしてまた、二人の漫才に落ち着く。

 うぅん、いいコンビネーション。


「第三デザインは、仲良くないんですかぁ?」


 真希さんの問いに、マユさんが「そんなわけない」と首を横に振って否定する。


「ウチも仲いいよ〜。ね?」

「ですね。でもマユさんって会社では、みんなと一定の距離を保ってますよね?」

「うっさい、余計なこと言わないの」


 ポクっと頭を叩かれる。

 それを見ていた真希さんが、くすくすと吹き出した。


「お二人も、仲いいじゃないですかぁ?」


 なんだろう……真希さんの笑みには、どこか含みを感じる。

 マユさんもソレを感じ取っているようで、気をつけなよ……と私に視線をおくってきていた。


「そういえばマユさんって、彼氏いましたよね?」

「え? あっ、うん」

「どんな人なんですかぁ?」

「どんなって……なんか、ずっと忙しい人だよ」


 真希さん、グイグイくるなぁ。

 さすがのマユさんも、返答に困っているようだ。


「いいなぁ、私も彼氏ほしぃなぁ〜たまに会えるくらいの。マユさん、うらやましぃ〜」

「羨ましい、かぁ〜。でも最近はさ、いつも一緒にいてくれる人の方がいいと思えてきたよ。笑顔でいられる時間が長いほど、幸せだと思うんだ」


 マユさんが少し視線を落とし、口元を緩める。

 その表情に反応して、なぜだか私の頬が熱くなってしまった。


「おっ、最上君。大人なこと言うようになったねぇ〜」

「浅田さん。私もう、二十七ですよ? 大人すぎるでしょう?」

「まぁねぇ。真希ちゃんも最上君みたいに、少し大人になった方がいいんでない?」


 そこまで言って、浅田さんがハッとする。

 しかし、もう遅い。

 真希さん、マユさん、私の三人が、浅田さんに向けて同時に指をさし……


『それ、大字苑1枚ですよ!』


 盛大にツッコミを入れると、浅田さんは自分のおでこをパチンと叩いて「今のは俺が全面的に悪い!」と謝るのだった。

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