第33話 グリルド・ミート!

 とりあえず昼食に向かったのは、カメラマンの浅田さんと真希さん、マユさんと私の四人だった。

 残り二人のカメラマンは、お弁当を持参してきているらしい。

 昼食代も出張経費で落とせれば一緒に食べたらしいけど、さすがにそれは経費に含まれないそうだ。

 なので二人は車の中で食べて、そのまま休憩をとりますとのことだった。


「若ぇ衆は、なに食べたいよ?」


 浅田さんが、渋かっこいい笑顔を見せながら聞いてくる。


「私は、なんでもいいですよ」


 最初にそう答えたのは、マユさんだった。

 その答え方だと、残り二人……私と真希さんに決定権が委ねられるんだけど、この中で一番の若輩者は私なわけで。

 そうなってくると、答えは……


「私も、なんでもオッケーです」


 ……となってしまうわけで。

 最初から真希さんに、決定権があったかのような展開だ。


「えぇ〜モッチーがそう言うならぁ……ん〜じゃぁ私、焼肉がいいです!」


 焼肉て。

 着替えたそばから、焼肉て。

 このあと取材もあるのに、昼間から焼肉て。


 心の中で、三回もツッコミが浮かんでしまう。

 思わずマユさんに視線を向けると、おもいっきり苦笑いを浮かべていた。


「真希ちゃんさぁ〜、さすがにソレは匂いとかついちゃうし、食べるなら夜とかにしようよ」

「えぇ〜浅田さん、連れて行ってくれるんですかぁ?」

「いや……まぁいいけどさ、京都には大字苑ないよ?」


 大字苑……あぁ、高級焼肉の大字苑か!

 じゃあ時折とびかっていた『大字苑1枚』ってワードは、あの大字苑のことか。


「いいですよ、焼肉ならなんでも~。しっかり私を育ててくださいよ〜」

「また太るよ、真希ちゃん」

「あ、それ大字苑1枚ですからね! まいどっ!」

「うわ、やっちまった。俺いま、何枚たまってんの……?」

「三枚ですね。そろそろみんなの分もまとめて、カルビ大精算大会ですねぇ!」


 なるほど。

 コンプライアンス的にアウトな発言を誘導しては、その口止め料として、大字苑でカルビを1枚おごらせるってわけだ。

 なんて素敵なシステムなの。

 まぁ奢る側も満更ではなさそうだし、これもコミニケーションの一環なのかもしれない。


「んじゃぁ〜、京都らしく湯豆腐でっ!」

「いや、ヘルシーだけどさ。けっこう高いし、たぶん予約いるよ?」


 めっちゃ真面目でいい人だなぁ、浅田さん。

 それでも、少し呆れ気味だけれども。


「えぇ〜、モッチーなに食べたい?」


 ぬあっ、けっきょく私か!

 いま食べたいもの……うぅん。

 大きく首を傾げながら、思い切り考える素振りを見せ……


「じゃあ、パスタで」

「フツーかよ!」


 ばっちーんと、真希さんのツッコミが私のおでこに入る。


「いったぁぁぁ! 何するんですか!」

「モッチー、そこはラーメンでしょうが!」

「やですよ、油臭くなりそうじゃないですか」

「女子かよ!」


 ばっちーん!

 なにこれ、不条理!

 私が涙目でおでこを押さえていると、見かねたマユさんが助け舟を出してくれた。


「ちょっともう、落ち着きなさいよ。私が京都っぽいパスタの店探すから……」


 私のおでこをさすりながら、守るようにして抱き寄せてくる。

 秒で私の頬が、カァと熱くなってしまう。

 そして、にへら〜とだらしなく緩んでしまった。

 そんな私を見て、真希さんは「ふぅ〜ん♪」と意味深な笑みを浮かべるのだった。

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