第32話 ブレイン・チョップ!

 大浴場の撮影を終えると、カメラマン達は一旦車に機材を積み込んで、従業員用の駐車場へと移動することとなった。

 その間に私とマユさんは、部屋に戻り、急いで着替えを行なっていた。


「だぁー、もう。全部着替えるしかないわ!」


 マユさんは、べったりと張りついたブラウスがよほど不快だったのか、力ずくで脱ぎ捨てていた。


「私は、もうあきらめてましたー。とりあえず、フルで着替え用意しててよかったー」


 話しながらも、スーツケースから着替えを取り出す。

 とはいえ、流石にスーツの替えはない。

 シャツはともかく、スカートは私服だ。

 仕事でこれはいいのか、判断に困る。


「マユさーん。私、ハイウエストのフレアスカートしかないんですけど、こんなんでもいいんですかね?」


 私がロングスカートを、頭の上まで持ち上げて見せる。


「撮影だからって理由にして、私もデニム履いちゃうし、ユリもそれで良いとおも……」


 ぴたりと声が止まる。

 そして……


「ちょ、あんた服着なさいよ、服!」

「だから、今からこれ着るんですけど」

「じゃなくて、下も!」


 あぁ、真っ裸だからか。

 えぇ、でも今更?


「マユさん、そもそも私の裸なんて、とっくに見てるじゃないですか?」

「いいから、早く着るの!」

「はーい」


 なんか、お母さんみたいなこと言い出すな。

 むかしバスタオルだけで廊下を歩いていたら、お母さんに怒られたのを思い出す。


「もう。たまに、ハラハラさせんだから」

「変なのー」

「言っとくけどユリだからね、変なのは」


 マユさんが大きめのため息を吐き出しながら、手早く着替える。

 着替えもテキパキしてて早い。

 あっという間に準備完了だ。


「ほらー、モタモタしないの」

「ほんと、お母さんみたい」

「なんだって?」


 めっちゃ眉寄せてる。

 これ以上は本当に怒らせそうなので、私も急いで準備を整える。

 ちなみにマユさんは、タブレットでスケジュールを確認していた。


「この後は夕方に行くバーで、取材の打ち合わせですか?」

「んーそうだね。今のところ順調だから、お昼はカメラマンと一緒にとっちゃおう。その後は私たちだけで、先に打ち合わせをして……って感じかな」

「うぅ、忙しいですね……」


 私ががっくりと肩を落とすと、マユさんがパンパンと手を叩き始める。


「はいはい。ほら、持ち物チェックして行くよ」

「まじお母さん」

「なんだって?」


 思わずこぼした言葉に、マユさんの怒りのチョップが脳天に落とされてしまった。

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